凍りのくじら
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凍りのくじら | ||
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著者 | 辻村深月 | |
イラスト | 佐伯佳美 | |
発行日 | 2005年11月7日 | |
発行元 | 講談社 | |
ジャンル | ミステリー | |
国 |
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言語 | 日本語 | |
形態 | 新書判 | |
ページ数 | 376 | |
公式サイト | www.kodansha.co.jp | |
コード |
ISBN 978-4-06-182458-4 ISBN 978-4-06-276200-7(文庫本) ISBN 978-4-06-535894-8(単行本) | |
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『凍りのくじら』(こおりのくじら)は、辻村深月による日本の小説。
2005年11月9日に講談社ノベルス版[1]、2008年11月14日に講談社文庫版が発売された[2]。2024年6月12日には限定愛蔵版が発売され[3]、特典でクリアしおりが封入された[4]。
第27回吉川英治文学新人賞候補作。
あらすじ
「あなたの描く光はどうしてそんなに強く美しいんでしょう」
そう訊かれたとき、私はいつもこう答えることにしている、「暗い海の底や、遠い空の彼方の宇宙を照らし出す必要があるからだ」と。
『ドラえもん』の作者藤子・F・不二雄を深く敬愛する写真家の父。彼の名を継いだ新進フォトグラファー、芦沢理帆子の高校時代を追う。
学校と、飲み友達と、元彼氏と、病床の母と、行方不明の父と。どんな相手にも合わせてしまう、合わせられてしまう理帆子は、自分を取り巻く個性に名前を与えていく。例えばあの子は「少し・不安」。あの子は「少し・不満」。そして私は、「少し・不在」。藤子先生の創るSFの世界、「少し・不思議」から取り、それぞれの個性にふさわしい名を付ける遊び、「スコシ・ナントカ」。私はどこへでも行ける。誰にでも合わせられる。それが許される。「どこでもドア」みたいに。
でも、一人でいると息苦しい。誰かといても息苦しい。自分の意志など、とうに摩滅してしまっているのかもしれない。私の「少し・不在」は最近いよいよ深刻だ。
ドラえもんへのオマージュが目一杯詰まった、「少し不思議」な物語。
ひみつ道具
章題
各章のタイトルはドラえもんのひみつ道具から採られている。自身の体験を振り返り、家族の幸せの象徴は何かと考えた結果こうなった。主人公・理帆子の人柄から、負のイメージの強い道具ばかりなので、次に機会があれば明るいイメージの道具で構築されたものを書きたいと語っている[5]。
その他
登場人物
- 芦沢 理帆子(あしざわ りほこ)
- 県内一の名門F高校の2年生。幼い頃から読書好き。『ドラえもん』を敬愛し、父と同様に作者の藤子・F・不二雄を「藤子先生」と呼ぶ。藤子の遺した「ぼくにとっての『SF』は、『サイエンス・フィクション』ではなくて、『少し不思議な物語』のSFなのです」という言葉に共感。以来、読書以外の場面でも、人の個性や物事の性質を「スコシ・ナントカ」と表現する。自身を「少し・不在」と感じている。
- 写真家だった父・芦沢光は、理帆子が小学6年生の頃、癌の闘病を見せたくないと失踪。後に理帆子は「二代目・芦沢光」を名乗るようになり、父の名を継いだ。
- 芦沢 汐子(あしざわ しおこ)
- 理帆子の母親。S市の共立病院に入院中。悪性卵巣腫瘍が転移し、余命2年と宣告されている。夫の失踪など過去を「少し・不幸」と捉えている。
- 別所 あきら(べっしょ あきら)
- F高校3年生。新聞部所属。色白で血管が透けて見える腕は「少し・不健康」。理帆子に写真モデルを依頼する。人に流されない「少し・フラット」な性格。
- 若尾 大紀(わかお だいき)
- 理帆子の元恋人。私大法学部卒の司法浪人。弁護士志望。純粋で大きな夢を持つ彼は社会では不自由だろうと「少し・不自由」と評されていたが、次第に「少し・腐敗」へと変化していく。感情が高ぶるとヘビースモーカーになる。
- 松永 純也(まつなが じゅんや)
- 世界的な指揮者。理帆子の父とは幼馴染で親友。妻は大手楽器メーカー創始者の曾孫。娘が一人いる。男手のない芦沢家を経済的に支援する人格者。完璧すぎるため、理帆子には人間味がないように感じられ「少し・不完全」と思われている。
- カオリ
- 理帆子の友人。かなりのヘビースモーカー。より良い男性を求めて飲み会を渡り歩く「少し・ファインディング」。
- 美也(みや)
- 県内の商業高校2年生。カオリを通じて知り合う。何にも縛られていないような「少し・フリー」な雰囲気。
- 加世(かよ)
- 理帆子のクラスメイト。F高校初の女子生徒会長。反骨精神を原動力に、怒りの対象を探すのが好き。「少し・憤慨」している。
- 立川(たちかわ)
- 理帆子のクラスメイト。地味な自分を変えようとしている。友達がいないことに不安を感じる「少し・不安」な女の子。新聞部所属で、部長に片思い中。
- 宮原(みやはら)
- J2リーグのサッカー選手。カオリの紹介で理帆子と知り合う。そつがなく健全な「少し・普通」の人物。
- 飯沼(いいぬま)
- 大手出版社・稀譚社[注 1]の社員。芦沢光の社員。芦沢光の写真集出版を依頼しに来る。
- 松永 郁也(まつなが いくや)
- 小学校4年生。松永純也の息子。私生児として認知されているが、4歳で母を亡くし、家政婦と二人暮らし。話すことができない「少し・不足」な少年。
- 久島 多恵(ひさじま たえ)
- 郁也の家政婦。歯切れの良い口調でよく喋る「少し・フレッシュ」な女性。
- ふみちゃん
- ある事件で強いショックを受け、声が出なくなり、郁也と同じ話し方教室に通う小学4年生。分厚い眼鏡をかけている。
関連作品
- 『子どもたちは夜と遊ぶ』 - 作中で萩野が月子にプレゼントしたフォトカードは芦沢光の作品。
- 『スロウハイツの神様』 - 環と親交がある写真家「芦沢光」として理帆子が登場する。
- 『ぼくのメジャースプーン』 - ふみちゃんが声を出せなくなった原因が語られる。また、郁也がピアノの上手な少年として苗字だけ登場する。
関連項目
脚注
注釈
出典
- ^ “『凍りのくじら』(辻村 深月):講談社ノベルス”. 講談社BOOK倶楽部. 講談社. 2024年9月16日閲覧。
- ^ “『凍りのくじら』(辻村 深月):講談社文庫”. 講談社BOOK倶楽部. 講談社. 2024年9月16日閲覧。
- ^ “『限定愛蔵版 凍りのくじら』(辻村 深月)”. 講談社BOOK倶楽部. 講談社. 2024年9月16日閲覧。
- ^ “限定愛蔵版 凍りのくじら”. welle design. 2024年9月16日閲覧。
- ^ 『野性時代』2009年8月号 全作品解説 p.40『凍りのくじら』
固有名詞の分類
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