子どもたちは夜と遊ぶとは? わかりやすく解説

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子どもたちは夜と遊ぶ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/04 07:13 UTC 版)

子どもたちは夜と遊ぶ
著者 辻村深月
発行日 2005年5月7日
発行元 講談社
ジャンル 推理小説
日本
言語 日本語
形態 新書判
講談社ノベルス
ページ数 (上) 350、(下) 382
公式サイト ようこそ、辻村深月ワールドへ
コード (上) ISBN 978-4-06-182429-4
(下) ISBN 978-4-06-182430-0
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子どもたちは夜と遊ぶ』(こどもたちはよるとあそぶ)は、辻村深月による日本推理小説

あらすじ

この物語には、ところどころに誰かの見る悪夢が挿入される。「フラッシュバック」は、冷たい手に首を絞められ、「左右どちらかの目を奪われるか選べ」と迫られる内容で、物語の要所にカットインされるように描かれる。

2年前『狐塚と浅葱』

関東一円の8つの大学が共催する情報工学の論文コンクール。D大学の学生、狐塚孝太と木村浅葱の2人が最終選考に残っていた。月子は、狐塚が最優秀賞を取ってアメリカへの留学権を行使するものと期待しながら、皆の待つ工学部の部屋へ向かっていた。部屋には、工学部の友人である石澤恭司や萩野、そして教育学部で教師を目指す月子自身も含め、2人の結果を伝えるメールを待つ面々がいた。

狐塚孝太は努力型の秀才、木村浅葱はネジが2、3本外れていると評される天才肌。どちらが最優秀賞を取ってもおかしくない状況の中、やがて結果を伝えるメールが届く。その内容は、全員が予想しなかったものだった。

最優秀賞:該当なし
優秀賞:木村浅葱、狐塚孝太、他3名
備考:C大学工学部の「i」という匿名で論文を提出した者が名乗り出れば、事実確認後に最優秀賞を与える可能性がある。

第1章『ぐりとぐら』

教育学部で学ぶ月子は、大学附属の幼稚園で1ヶ月間の実習を終え、担当教授の秋山一樹の前でその成果を発表することになった。この発表には、月子と同じ学部の友人・真紀と、狐塚孝太も呼ばれており、彼らは月子が子どもたちに絵本『ぐりとぐら』を読み聞かせる実習を見守った。 実習後、担任の先生に呼ばれた月子は、実習したクラスの園児たちがいる帰りの会へと戻る。その際、担任の先生が園児たちに「おばけトンネル」について注意を促す声が聞こえてくる。

月子と別れた後、狐塚は秋山と知り合った経緯を思い返す。月子の担当教授である秋山と知り合えたのは、月子のおかげだった。当時、浅葱が秋山に見せた対応は常識外れなものだったが、秋山はそれを「面白い個性」だと受け止めた。そんな秋山の人柄もあり、月子、狐塚、秋山はその後もよく行動を共にするようになる。しかし、今日はまだ幼稚園にいる月子の代わりに真紀が3人目のメンバーとして加わっていた。 道中、秋山が事情を知らない「おばけトンネル」の噂や、狐塚が詳しい部分のことを知らない教育学部の「おばけ教室」の話題で盛り上がる。「おばけトンネル」は、2年前に街外れの工場につながる道路のトンネルで通り魔事件が起こり、若い女性が犠牲になったことから、幽霊の噂が立つようになった場所だ。

この流れで、2年前の論文事件の話に。論文事件は、自称C大学の「i」が提出した論文が、審査員を驚かせた出来事だった。当時、D大学工学部では一種のミステリーとして語られていたこの事件について、当事者の一人である狐塚が秋山に説明する。天才肌の「i」が、論文で選んだセキュリティーポリシーというテーマで指摘した通り、C大学のシステムをハッキングして仕掛けたものだという説が定着しつつあるという。狐塚は、あの論文は支離滅裂ながらも人を惹きつける力があり、自分も浅葱もかなわないと感じたほどだと語る。一方、教育学部の「おばけ教室」の話題になると、秋山と真紀はなぜか口を閉ざしてしまう。その後、秋山と別れた狐塚は、真紀と2人になり今日の出来事を振り返る。真紀から浅葱も月子の実習を見に来ていたと聞かされ、狐塚は初めてその事実を知る。

一方、浅葱は悪夢にうなされる日々が続いていた。そして、物語に暗い影を落とす大きな出来事が起こる。大学受験に悩む高校生の赤川翼が、塾の帰り道で上原藍と名乗る人物と出会う。男とも女とも判別のつかない藍の言葉に惹きつけられた翼は、藍の計画(ゲーム)の駒として利用されてしまう。これが、最初の事件の始まりだった。これに呼応するかのように、「i」は「Θ」とメールのやり取りを始める。

「i」から「Θ」へのメール:「春「 」秋冬 足りないのは?」

第2章『蝶とキャベツ』

浅葱は小学生の頃、理科の授業でモンシロチョウの幼虫を観察していたことを思い返していた。蛹から羽化するのを心待ちにしていたが、出てきたのは蜂だった。それはモンシロチョウの天敵、アオムシコマユバチの仕業だと担任の先生から教わった。

高校生の赤川翼の行方不明事件について、埼玉県警入間署の署長である園田と刑事課の坂本が赤川家を訪れる。翼の両親は、県内で有名なレストランチェーンの社長夫婦で、その影響力は絶大だった。所長がわざわざ謝罪に赴くほどだが、捜査を進めても家出の線が濃厚なままで、坂本たちは対応に苦慮していた。

狐塚は、実家の母・日向子からお盆に帰省するかと電話で尋ねられるが、就職活動などで忙しいと答える。論文事件後、狐塚と浅葱は修士課程に進学し、恭司は大学卒業後に勤めた会社を辞めフリーターになっていた。月子はそんな恭司の生き方を諭そうとするが、狐塚は恭司にはそうした型にはまった生き方は合わないと感じている。その後、狐塚は就職面接と大学の授業の担当日をダブルブッキングしてしまう。浅葱に代役を頼もうとするが、浅葱にも先約があった。別の教官に代役が見つかったそのとき、研究室のテレビから赤川翼の母親が息子を探してほしいと訴えるニュースが流れる。それを見た浅葱は、狐塚が席を外したわずか数分の間に姿を消す。

家路についた狐塚は、先に帰宅していた月子と恭司とあらためて進路について話す。狐塚は周囲を気にして就職を考えていたが、月子は教員免許を取り先生を目指し、恭司は現状維持。そんな中、月子の携帯電話が鳴る。相手はアルバイトの元同僚、片岡志乃だった。月子は後日、志乃と会うことになるが、志乃の強い支配力に逆らえず、恐怖を感じながらも関係を断ち切れないでいた。

一方、浅葱は偽名を使ってコンパニオンの女性、森本夏実に接触する。彼女の部屋に入ると、ほとんどためらうことなく絞め殺した。物証になりそうなものを持ち去り現場から逃げようとしたが、マンションの玄関で大学研究室のOG、荻野清花と遭遇する。彼女の姉が同じマンションに住んでいるという。その後、森本夏実の遺体が発見される。遺体には不自然に赤い靴が履かされており、「赤い靴」とワープロで書かれた紙が残されていた。

「Θ」から「i」へのメール:「縦・水「 」園、横・油「 」舎。交差する部分に入る文字は?」

第3章『おばけと火傷』

月子は秋山教授を学食での昼食に誘う。そのとき秋山が手にしていたのは、かつて児童養護施設「光のない家」で起きた、院長夫妻による不正や児童虐待をまとめたノンフィクションルポだった。秋山は次の公判を傍聴する予定だという。その話の後、秋山は月子に、工学部が2年前の論文事件でうやむやになった留学制度を再開するため、適任者を選び始めたと告げる。候補は浅葱か狐塚の二人だと。月子はこの話を初めて聞く。

浅葱は、双子の兄である藍と生き別れになった日の夢を見ていた。幼い頃から母親に虐待されていた浅葱を庇うため、二人は入れ替わった。虐待を受けた藍は、その夜に母親を刺し殺し、浅葱にも手をかけた。こうして二人は離れ離れになったのだった。

月子は狐塚に留学の件を尋ねるが、狐塚は自分ではなく浅葱が選ばれると考えていた。一方の浅葱も、品行方正な狐塚がふさわしいと言う。そして浅葱は月子を学食へ誘う。食堂のテレビで、30代女性殺人事件とハヅキ自動車のリコール問題のニュースが流れると、浅葱の表情が固まる。浅葱はとっさに嘘をついてごまかそうとするが、月子は彼が何かを隠していると怪しむ。そのあと、「本気を出せば留学は自分のものだ」と豪語する浅葱に、月子は呆気にとられる。

森本夏実を殺害した日、浅葱は現場で物証となるものを回収し忘れたのではないか、どこかで紛失したのではないかと気に病んでいた。それが「i」に知られてしまったのではないか、そう思いながら「おばけトンネル」と呼ばれる場所へ向かう。しかし、今日も「i」と会うことはできなかった。

母親が死んでからの浅葱は過酷な人生を送っていた。入所した児童養護施設「光のない家」は荒れ果てており、虐待を受けた子どもたちがさらに弱い者をいじめる負の連鎖が続いていた。浅葱も親のせいで女性不信に陥った男の性的暴行の対象になっていた。ここから抜け出すため、浅葱は猛勉強に励み、施設を出た後も働きながら高校を卒業。D大学の返済不要の奨学金制度を利用して、ようやく平穏な日々を手に入れた。しかし、あの論文事件で「i」が現れたことで、浅葱のプライドは傷つけられた。破天魔な「i」の論文が高く評価され、自分と狐塚の論文が無難だと評されたことがショックだったのだ。浅葱は「i」の行方を追い、C大学に潜入。そして「i」との接触に成功するが、「i」の真の狙いは、浅葱のPCをハッキングして情報を盗み出すことだった。

その後のある日、浅葱は電車の中で萩野清花と偶然会う。清花は浅葱に「あの日、マンションにあなたの落とし物があった。あれは盗聴器だよね」と告げる。

「i」によって情報を盗まれた浅葱の脳裏に、ある情景が蘇る。それは、児童養護施設時代、いじめっ子たちに洗濯機の中に押し込まれ、乾燥機のスイッチを入れられた、という過去のトラウマだった。浅葱は、この「i」の正体が生き別れの双子の兄、藍に他ならないと思い込んでいく。彼は、藍の計画(ゲーム)の駒として、赤川翼と同様に利用されることになったのだ。

そして次の事件が発生する。被害者は今田信明。彼の部屋を訪れた「i」は、今田にお前の記憶にいる人物だと挑発すると、自らの体に残る傷の跡を見せつけ、刺殺する。その後、かつての彼らがそうしたように遺体に罰を加えて去っていった。後日発見された遺体は皮膚が焼けただれ、熱い湯の張られた浴槽に沈んでいた。脱衣所からは、わらべうたの歌詞が書かれた紙も見つかった。

「i」からのメール:「秋のお好きな服「 」足りないのは?」

第4章『月と萩』

浅葱は、月子と初めて会った日のことを回想していた。夜道でパニックになっている目の不自由な男性を、月子が当たり前のように助ける姿を見て、浅葱は思わず「お前、すごいな」と声をかけた。二人は互いに一つずつ質問を交わす。月子の質問に、浅葱は他人に執着心がないと答え、浅葱の質問には、月子は小学校の授業で蛹が蝶になる瞬間を見たと答えた。その時、浅葱は、自分がかつて見た蜂に寄生された蛹ではない、正しい蝶の羽化を見て月子は育ったのだと知った。

萩野清花は、浅葱に会う機会を作るため、たびたびD大学の研究室に顔を出していた。しかしこの日も浅葱と時間は合わず、代わりに研究室にいた狐塚と、恭司や月子も誘ってパーティーをする約束をする。帰り道で偶然会った月子とは、後日一緒に買い物に行く約束を交わした。買い物に出かけた月子と萩野は、雑貨店でフォトカードを見つける。萩野は蝶の写真がプリントされたカードを月子にプレゼントする。自分とは縁もゆかりもない蝶だ、と首をかしげる月子に、萩野は「いつかその意味がわかる日が来るかもしれない」と告げた。

浅葱は、萩野が狐塚を好きだと知ったのは大学3年の時だったことを思い出す。その流れで、同じ研究室の狐塚を介して月子と再会。萩野の想いを知り、狐塚と月子を取り巻く複雑な感情を客観的に見るふりをして、それぞれの真意について自分なりの考えを巡らせるようになった。数年後の今、浅葱はある明確な理由から彼女に会う必要が生じ、萩野の家を訪れる。

「i」を藍だと思い込んでいく浅葱は、彼とのメールのやりとりで、藍もまた虐待による傷を抱えていることを知る。そのことで浅葱は、「i」=生き別れの双子の兄・藍という思い込みをますます強めていった。そんなとき、浅葱の携帯電話に電話がかかってくる。相手の言動は、児童養護施設時代の性的虐待に関わっていたグループの一人によるもので、浅葱にゆすりをかけようとしていた。浅葱が「i」に相談すると、「i」は怒りをあらわにした後、しばらく連絡を断つ。やがて、ゆすりをかけてきた相手が電車に轢かれて死んだというニュースを知り、浅葱は「i」の仕業だと確信する。あまりにも簡単に人を殺してしまう「i」に、浅葱は直接会うことを求めるようになるが、「i」はそれをはぐらかし続けた。そして「自分が人を簡単に殺せるのが怖い」と語った後、「互いに4人、計8人の殺しを達成できた場合、会ってもいい」という条件を提示する。こうして、「i」が計画した殺人ゲームがスタートする。「i」=藍=藍色と対をなす「赤」をキーワードに、最初の事件が発生したのだった。

浅葱は萩野の部屋に通される。彼女の飲むコーヒーに強力な睡眠薬を仕込み、眠らせてから絞め殺す計画だった。しかし、今回は萩野のことを知りすぎていること、彼女自身の浅葱への疑念、そして月子や狐塚たちの存在が絡み合い、浅葱は殺害をためらう。それでも「i」に与えられた条件をクリアすることを選び、薬の効果で意識を失った萩野を絞め殺すことを決意する。萩野を絶命させようとしたその瞬間、萩野の家の電話が鳴り、月子からの留守番電話メッセージが録音される。

「Θ」からのメール:縦・大「 」腹、横・長「 」苺

翌日、約束のパーティーの件で恭司が萩野に電話をかけるが応答がない。月子と狐塚はそれぞれの用事があり、恭司が一人で萩野の家に向かうことになり、萩野の遺体の第一発見者となる。恭司はまず狐塚に連絡し、月子をここに来させないようにと告げる。恭司は、狐塚や月子にこの惨状を見せたくなかったのだ。

狐塚からの連絡を受けた浅葱の心は、激しく揺れ動いた。殺人ゲームの駒として萩野の遺体が発見されたことへの安堵と、親しかった彼女を自らの手で殺してしまった苦しみが同時に押し寄せ、感情の平衡を保つことができない。そして、その混乱の中で、浅葱が真っ先に思い浮かべたのは月子のことだった。

その後、狐塚は月子に電話をかけ、萩野が殺されたことを最低限の言葉で伝えた。その日、月子は教員採用試験の合格通知を受け取った後だった。月子は、萩野が狐塚を好きだったことに自分は気づいていた上で、彼女を姉のように慕っていたことを振り返る。

第5章『アイとシータ』

萩野の死後、月子は大学の授業に出てこなくなり、秋山は真紀に月子の様子を尋ねるも、やはり良い状態ではないようだ。そんな秋山に、面会希望者が現れる。埼玉県警入間所の刑事・坂本玲一で、秋山が以前大学で受け持った教え子だった。

萩野の葬儀以降しばらく大学に顔を出していなかった浅葱は、久々に出席した日に工学部の研究室で同期のひとりから、D大学のホームページの異変を知らされる。それは、「i」が大学のHPをハッキングし、自分たちが殺人事件の実行者であると宣言する内容が書かれたサイトへのリンクが追加されていたのだ。狐塚は秋山からの電話で教育学部の研究室に来るように指示される。そこで坂本と対面し、「i」が作成したサイトの存在を知る。サイトの内容は、「i」と「Θ」による自己紹介と、一連の殺人事件への関与を認める文章、殺人ゲームのルール、事件と被害者を結びつけるキーワード、そして虐待の記録を手記形式でまとめたものなどだった。

坂本は、捜査本部がこの事件を劇場型犯罪として捜査を進めようとしているが、個人的には赤川翼の件に引っかかる部分があり、児童心理学が専門の恩師である秋山に、犯人たちの思考に関する専門的な意見を借りたいと告げる。秋山は首謀者が「i」であることに間違いはないと指摘するが、サイトの内容がすべて真実かどうかについては懐疑的な見方を示す。狐塚は、あまりにも「i」の独断で物事が進行し、「Θ」の意思が感じられない点を指摘した。坂本は、「i」と「Θ」のネット上での再会があまりにも出来すぎた作り話のようだと指摘する。狐塚と秋山も出来すぎた手記に違和感を指摘し、秋山は、論文事件の「i」と現在の殺人ゲームを仕掛けている「i」は別人である可能性を示唆した。これに対し坂本は、過去に深い傷を負った者がこの種の犯罪に走る可能性を秋山に尋ねる。秋山はあっさり「ある」と答え、坂本は2年前のある事件の捜査資料に秋山のことが記録されていたため、今回訪れることを決めたと告白する。

一息置いて、再び3人で「i」と「Θ」の正体を探る。狐塚は、「i」が「Θ」の本当の兄ではない場合、何らかの方法で「Θ」の虐待手記の存在を知り、それを利用して「Θ」を操っているという仮説を立てる。しかし秋山は、その手記が事実だとしてもその可能性は低いと返した。 坂本は話を切り替え、まず失踪者である赤川翼の事件を二人に説明し、これまでの事件を振り返る。坂本は、この一連の事件において、「Θ」が主導したことが皆無である点を指摘。秋山も「(Θがiに)一方的にやらされている」状況で犯行を続けられるのか、という点に注目した。

萩野の事件を振り返る段階で、狐塚は自分たちにとってかけがえのない存在が殺されたことに改めて怒りを覚える。坂本もまた、赤川翼の件がなければ捜査がより混迷を極めただろうと語る。そして、萩野が森本夏実の事件で何かを知ってしまったために殺されることになったのだろうと指摘。数少ない物証から、今後は「Θ」が実行役となった事件に特に注意を払う必要があると考える。坂本と秋山の会話は続く。犯人の幼児性が残る部分、異常なまでにパートナーを気遣う事件直後の行動、そして秋山が「狂ってはいないが、病んでいる」と評するその人間性。ゲームの提案者である「i」は耐えられても、「Θ」はどこかで破綻する可能性があるという話を聞いた後、狐塚は静かに口を開く。彼らの身勝手さは、許せない。もし本当に実在するなら、絶対に許さないと告げる。

後日、恭司はデート中に偶然月子を見かけ、後を追うと、彼女は片岡志乃と会っていた。以前、恭司が月子と志乃の関係に口を出した際、月子は必死に志乃を庇っていた。女遊びが派手な恭司でも引いてしまうほどの強い性格の志乃と、なぜ月子が友人関係を続けているのか、恭司には全く理解できなかった。この日も、月子は自分の意思を殺して志乃に黙って従っているようだった。

9月9日、蛇島友美はスーパーからの帰りに交通事故を起こし死亡する。彼女が乗っていたのは、リコール問題を抱えるハヅキ自動車の車だった。事件の直前、スーパーの店員に荷物を持ってもらっていたが、その時何があったのだろうか…。

「i」から「Θ」へのメール:仁・義・礼・智・忠・信・「」・悌 足りないのは?

第6章『耳と手のひら』

月子は萩野の死で憔悴しきっていた。そんな中で会うことになった志乃は、萩野のことは自分には関係ないという素振りで接し、月子をさらに疲れさせる。

浅葱は「i」から何も聞かされていなかった。D大学以外の論文コンクールに参加した大学のサイトもハッキングされており、「i」と「Θ」の存在は一気に世に知れ渡っていた。事件を報じる記事の中には、「Θ」は「i」に利用されている、「i」は本当に「Θ」の兄なのか?という内容もあった。「i」が一方的に計画を進めることから、浅葱自身もその説に心が揺らぎ始めていた。そんな時、浅葱は月子とばったり会う。月子と浅葱は職員食堂で、しばらく会わなかった間の出来事を話す。月子が今日会っていた志乃のことに話が及んだところで、食堂のテレビからハヅキ自動車の車で事故が発生したというニュースが流れてきた。浅葱は事故の犠牲者の名前が「蛇島友美」だと知り、その「蛇」の文字を認識すると意識が朦朧とし、倒れてしまう。

浅葱を自宅に送り届けた狐塚は月子の家にいた。疲労から無意識で眠りに落ち、その間に不思議な悪夢を見る。目覚めた狐塚は、月子に恭司が孤児であることについて尋ねられる。 一方、浅葱は「i」からの返信がないことに苛立ちと不安を覚え、蛇島友美の事故現場へ向かうことにする。

狐塚は恭司のことを説明することになったが、月子にも2年前の秋山ゼミでの事件、通称「おばけ教室」の噂の真相を教えてほしいと言った。狐塚は、坂本刑事との会話で、2年前に秋山ゼミを受講していた学生のひとりが失踪した事件について、当時の警察の対応を大まかに聞いていたのだ。坂本は、秋山が当時最も興味を持ち研究を進めていた課題は、相手の心理を二重に縛るように言葉を操る「ダブルバインド」についての考察が気になりおばけ教室の真相を知りたくなったと語った。

そして狐塚は、恭司の生い立ちについて話し始める。恭司が幼い頃、彼以外の家族は飛行機の墜落事故で亡くなり、その後親戚の間をたらい回しにされていたこと。それを知った恭司の両親の友人夫婦が養子として迎えたこと、そして恭司が弟を可愛がっていたことを説明する。恭司が何事においても長続きしないのは、他の家族のように一瞬で人生が終わる可能性への恐怖があり、深い孤独からの反動で無意識に他者の同情を引こうとする行為も孤児であったことが影響しているのではないかと考えていると付け加えた。月子は「i」と「Θ」のサイトの内容から、身近にいる孤児である恭司の存在を素直に心配していたのだ。一方、狐塚は一瞬「i」の正体は恭司ではないかと疑ったことを月子に告げる。

次に、月子はおばけ教室事件について説明していく。当時、真紀には恋人がいたが、その相手が真紀に暴力を振るっていた。ある日、真紀の異変で月子や秋山が事実を知ることになり、またある日の彼の言動は度を超えたもので、それに対して月子が怒りを表に出そうとした瞬間に、秋山が止めに入る。秋山が彼の耳元で何か一言つぶやくと、それまでの饒舌とは一変し、彼は恐怖におののきおかしくなってしまい彼は後日失踪してしまったのだという。その日の秋山は淡々と授業を進めた後、月子たちに不幸になってはいけないと告げ、最後に月子に卒業までに一つの課題を与えて去っていったと説明した。

浅葱は、蛇島友美の事故があった茨城県の事故現場付近に到着。事故の前に被害者がいたスーパーに向かうと、トイレの中に「i」が残したわらべうたの書かれた紙が貼られていた。浅葱、すなわち「Θ」の出した条件「蛇」を名に持つ者は容易には見つからないと、殺人ゲームが止まると浅葱は思い込んでいたが、「i」は難なく条件をクリアしてしまったのだ。

月子が浅葱の留学の件を知ったのは、当事者たちからの連絡ではなく、志乃の電話だった。月子はこの時、志乃の支配力に純粋な恐怖を覚え、一方で狐塚が留学でいなくなるケースは想定していたが、実際は浅葱がいなくなるということに思いを巡らせる。

第7章『象とチケット』

レジュメの発表を控えた月子は、久しぶりに秋山の研究室を訪れる。すると秋山は、月子と片岡志乃の関係を問いただすようなやり取りを始めた。月子の身近な人・萩野の死をまるで見ていないかのように月子と関わろうとする志乃との関係は、月子の周囲からは、月子が無理して付き合っているように見えていると秋山は言う。しかし、月子は、アルバイト先でのいじめに近い状態のときに志乃が助けてくれたことで、それ以来彼女は友達だと答える。秋山は、互いに思いやりがあってこそ友情が成立すると言い、なおも志乃を庇おうとする月子にそんな答えだと、そのうち人に裏切られると告げる。そんなやり取りの後、秋山は教員に配られたという2人分のサーカスのチケットを月子に譲り、狐塚や志乃を誘ってみるのも一考だと付け加えた。月子はさっそく狐塚にメールを送るが、狐塚には先約があるようだった。

一方の狐塚も、工学部の陣内教授から2人分のサーカスのチケットを譲渡されていた。陣内教授なりに、留学の件が浅葱に回ったことを気遣っているらしかった。月子からのメールで、月子に先約があると判断した狐塚は、売店で偶然会った真紀をサーカスに誘う。狐塚の予想とは裏腹に、真紀は快く誘いを受けてくれた。月子への説明もしやすいだろうと考え、後日真紀とサーカスを見に行くことになる。 研究室に戻ると浅葱がいて、なぜか狐塚に許してほしいと告げる。狐塚は留学の件だと思い、それは浅葱の努力と才能によって得た結果だと返す。

浅葱が自分の部屋に戻ると、パソコンには「i」からのメールが着信しており、次の殺人がまだ実行されていないことに苛立っているようだった。一方、携帯電話には月子からサーカスに誘うメールが届いていたが、浅葱は月子に断りを入れた。

その後、狐塚と恭司の部屋のポストに1通の手紙が入っていた。それは、「i」が公開したサイトの内容を一部プリントアウトした文面と、空白だった6番目の殺人欄に狐塚孝太を次の殺人のターゲットとして選んだと読み取れる脅迫状だった。秋山が月子の件で狐塚に電話をかけたのは、ちょうどこのタイミングだった。秋山は狐塚に、一人にならないように忠告する。

浅葱からの断りを受けた月子は、2枚のチケットを志乃に譲渡する。

狐塚は秋山の研究室に案内され、警察の合同捜査本部にいる坂本と、殺害予告状を受け取ったことについて話す。坂本は、萩野の死後、自分がD大学を訪れて秋山と狐塚に接触したことから、狐塚が警察側の協力者と判断された結果、標的になった可能性を指摘するが、狐塚自身には全く身に覚えがない。坂本は、蛇島友美の件が、本来であれば交通事故として捜査が完了する段階で「i」による通告が出てきたと説明する。さらに、後日発見された見立て殺人のわらべうたの紙の内容が、明らかに「i」から「Θ」へのメッセージだったと説明する。捜査本部は、「i」が自分たちの予告に一致する事故に便乗して、捜査を攪乱させる狙いがあると考えていた。秋山も、提示された条件から察するに、「Θ」はもうこの殺人ゲームから降りたいと思っているのではないかと指摘する。その上で、坂本は「i」たちがこれまでのセオリーを崩して狐塚に狙いを定め、予告を直接送ったことについては、より劇場型犯罪を派手に煽り立てるためなのだろうと考えていると狐塚に説明する。 一方、秋山は、「i」の行動にためらいがないことなどを指摘する。また、次の予告が里見八犬伝になぞらえたものであると指摘しつつ、なぜわざわざ狐塚の名前「孝太」の「孝」の字を選んだのかに着目しているようだった。警察としては、次の期限まで残り1週間、「i」か「Θ」に接触するチャンスでもあるため、今後の約1週間の間、狐塚に捜査に協力するよう要望した。狐塚はこれに応じることになる。

翌日から、研究室に小川という人物がやってきたのだが、浅葱は当然、狐塚に接触した警察関係者だろうと察しをつけている。このまま「i」が行動に移せば、「Θ」である自分との間に取り決めたルールは破棄され、期限やターゲットなど無視した「i」による無差別殺人が始まる可能性があると考える。浅葱は不意に狐塚に「i」の正体はお前かと口にしてしまうが、狐塚は論文事件の『i』なら自分じゃないと返答した。この後、浅葱は狐塚の代わりに誰かを殺害し、強引にゲームのルールを上書きしようと画策し始める。

第8章『嵐とサーカス』

「i」が予告した期限まであと2日。狐塚がもらったサーカスのチケットの相手は、「i」の予告などの状況を理解し、日頃から外出の機会が多い秋山が引き受けることになった。狐塚は、この機会に秋山から「おばけ教室事件」について直接話を聞こうと決める。台風が接近し、サーカスを催すテントが風に煽られ音を立てているが、狐塚と秋山は、警察から身につけるよう命じられたインカムを通して、捜査本部の坂本からの指示に対応できるよう身構えていた。

一方、浅葱は強い風の吹く街で待ち合わせをしていた。そこに現れたのは、サーカスのチケットを持っており、それを浅葱に渡した。その相手は片岡志乃だった。

サーカスを観劇しながら、秋山と狐塚の会話が続く。秋山は自身の専門である心理学の視点から、「おばけ教室事件」にまつわる事情を説明しようとする。真紀の交際相手を「消した」と表現されたあの出来事は、第三者の介入がなければ解決できなかっただろうと述べる。狐塚は「本人の思いよりも、周囲が望む良い状態に戻したと形容すべきか?」と尋ね返す。これに対し秋山は、「自分の欺瞞さがそうさせた」と返答した。直後、テントに風が吹き込み天井が揺れると、照明が消え、停電しているようだった。

浅葱は志乃を人けのない公園に誘い込み、一瞬の隙をついて絞殺しようと、手に持っていたベルトを首にかける。志乃を絶命させようとしたその時、浅葱が感じた感触は、ずっと悪夢でうなされていた冷たい手ではなく、いつかの月子の温かい手の感触だった。

「Θ」から「i」へのメール:ゲームを僕は続行する。縦・河「 」辺、横・品「 」瀬

停電は一時的なものだったが、強風の影響でサーカスは演目が中断していた。そんな中、狐塚と秋山はインカム越しの坂本からの連絡で、現場の物証などから「Θ」が事件を起こしたことを知らされる。狐塚は殺害された相手の名前を問う。自分と同じ「孝」の字を持つありふれた名前だから条件に合う者が犠牲者になったのだろうと思っていたが、坂本は片岡志乃の名前を告げる。秋山は、里見八犬伝の犬塚信乃(しの)になぞらえたのだと理解し、「Θ」がゲームを続行すると思っていなかったという意味深な一言を思わず口にする。

志乃を殺した浅葱は、薄れゆく意識の中でインターネットカフェに飛び込み、そこから「i」へメールを送信した後、意識を失う。そんな浅葱を偶然見つけ、家に連れて帰ろうとする者がいた。それは石澤恭司だった。

月子は狐塚たちの事情を知らず、卒業論文をまとめるために家にいた。大学から供与されているPCのパスワード変更期限を告げるポップアップを見た月子は、新しいパスワードを登録しようとする。しかし、ふと予定の文字列をネットで検索してみると、萩野が生前に買ってくれたフォトカードと同じ写真があることに気づく。その時、恭司から電話が入り、浅葱の様子がおかしいので自分の用事が済むまで預かってほしいと頼まれる。

恭司が自分と狐塚の部屋に浅葱を運び入れ、そこにやってきた月子が浅葱の様子を見ることになった。恭司が出かけた後、月子は雨でずぶ濡れになっていた浅葱を着替えさせようとしたとき、浅葱の荷物からサーカスのチケットを見つける。券の席番号からそれが自分が志乃に譲ったものだと気づき、何が起きたのか理解が追いつかない。恭司が戻ると、月子は「私は大丈夫」と言い聞かせ、帰宅する。

浅葱が目を覚ますと、恭司がそばにいた。しばらく2人で会話をする。恭司は自分と浅葱が似た境遇だとしつつも、より悪い人間は自分だろうと語る。最悪の方向にいかないように、誰か大切な存在が必要だったと述べ、その大切な相手は自分のような人間と正反対の狐塚だと告げる。そして、月子を困らせるようなことはやめてくれとも告げた。

月子が帰宅すると、留守番電話に狐塚からの電話が録音されていた。再生していると携帯電話にも狐塚から電話が入り、志乃が殺されたことを知らされる。ここで月子は、今日浅葱が志乃と会っていたことを確信する。

第9章『ポビーとディンガン』

浅葱が次の殺人ゲームに提示した条件は「川」。志乃の事件から間を置かず、「i」は条件に合う人物の川﨑幸利に上原藍と名乗り接触した。川﨑が浅葱のトラウマとリンクする同性愛者であったため、「i」は彼をターゲットにしたのだ。

秋山は狐塚との電話で、月子の様子を尋ねる。狐塚と秋山は、萩野に続いて志乃まで失ったショックが大きかったのだろうと考えていた。志乃の事件は「i」のダミー予告に陽動された結果発生した事件だとマスコミは騒ぎ立て、狐塚と恭司の部屋の前にも取材をしているような者がうろついていた。

「i」はホテルに入ると全くためらわず川﨑幸利を刺殺した後、非常階段から遺体を投げ落とし逃走する。現場検証に入った坂本たちも、その残忍な犯行に言葉を失い、最初の事件である赤川翼の安否を改めて思い返す。

「i」から「Θ」へのメール:「 」狸との化かし合い 連想される漢字1文字

浅葱はこのメールを、改めて「i」が明確に「狐塚孝太を殺せ」と命じていると解釈するしかなかった。残り1人殺せばゲームは成立し、兄の藍に会える。しかし、もう身近な人を殺めることはできない。その間で浅葱は葛藤する。そんな中、月子から、志乃の葬儀に秋山の車に同乗して向かうから土曜日に大学で待ち合わせしたい、と連絡が入った。

土曜日、浅葱は月子に指定された教育学部の教室に向かうが、そこには月子しかいなかった。月子は浅葱と二人きりになる場面を作るため、嘘をついてこの場を用意していた。月子は浅葱にあなたが「Θ」なんでしょうと問い詰め始める。月子は、あのサーカスの日に狐塚と恭司の部屋で浅葱の面倒を見た際、浅葱の荷物から、志乃の殺害現場にあった物証の予備や、志乃に渡したはずのサーカスのチケットを見つけたと告げる。さらに、志乃の首を絞めたベルトも自分の手元にあると告げた。

一方で、秋山と狐塚は、月子と志乃の関係上、自分たちと別行動で葬儀に参加するつもりなのだろうと考えていたが、月子の姿は見えなかったため、彼女の行方を気にしていた。狐塚は着替えるため一度家に戻ってから大学へ向かい、秋山はたまっていた仕事を片付けるため大学へ直行することになる。

月子と浅葱の対峙は続く。月子は、萩野や志乃を殺してまで会いたい兄とは何なのか、そしてその兄・藍は本当に存在するのかと問い詰める。月子は、もし浅葱が「i」の存在を忘れ、自分たちと生きることを約束するなら、自分も「Θ」の存在を忘れて生きていくと言い、「i」の存在を忘れろと迫る。しかし、浅葱が月子のある言葉を歪んだ解釈をしてしまう。こいつは自分のものにならず、狐塚孝太のものに戻るだけだと思い込み、「i」を裏切らないと返す。月子がならばあなたを警察に突き出すしかないと言いかけた時、浅葱は教室にあったガラスの花瓶を手に取り、月子の頭を殴りつけた。

秋山と狐塚はまだ移動中だった。秋山は、狐塚にとって月子が「手のかかる妹というより、父親のような視点で面倒をみているような存在」だとようやく理解したと告げる。秋山の視点では、傍から見ると月子が兄の孝太に悪い虫がつかないようにあれこれと奔走しているように見える場面もあった。そして秋山は、月子が浅葱を好きなのだろうと兄である狐塚孝太に告げた。

頭部から血を流している月子の上で、浅葱はどうしていいかわからなくなり、とっさに月子の荷物から財布を取る。すると、そこには3枚の写真が入っていた。1枚目は幼い兄と妹が写る写真。2枚目は成長した兄妹と母親の写真。そして3枚目は、浅葱が写っている写真だった。浅葱は、月子が実習で『ぐりとぐら』を読み聞かせたときのことなどを思い返す。狐塚孝太の「太」は太陽、狐塚月子の「月」。対をなす名前。浅葱は、たった一つの小さな勘違いから、とてつもなく大きな過ちを犯してしまったのだ。木村浅葱は、「i」の提示した条件を、あまりにも大きな代償を払って達成してしまった。

第10章『蝶々と月の光』

月子は薄れゆく意識の中で、生前の志乃や萩野と交わした会話を振り返る。志乃に対して抱いていた優越感が、彼女との切れない関係を作っていたと月子は思い至る。浅葱への好意を持ったあと、その気持ちを萩野には見抜かれていたこと、そして論文事件の後に垣間見た浅葱の人間味のある一面に惹かれてしまったことを思い返す。月子は最後の力を振り絞るように、浅葱と対峙する際に用いた証拠の写真の切れ端を始末し、浅葱を守ろうとする。

大学に戻った秋山は、持ち出されたままになっている資料を探すため教育学部の教室へ向かう。すると、あのおばけ教室の照明がついていることに気づき、その部屋へ足を踏み入れると、月子が血を流して倒れていた。秋山は月子の容態を確認する中で、彼女が喉に何かを詰まらせていることに気づく。窒息死させないよう、強い言葉をかけて吐き出させようとするが、月子は逆に明確な意思をもってそれを吐き出さず、吐き出させようとする秋山の手を弱々しく噛みつくように抵抗した。秋山は応急処置を終えると、すぐに救急車を呼んだ。教室に残された見立て殺人の仕上げは、これまでの事件より明らかに粗雑で場当たり的、そして杜撰なものだった。秋山はこの直後、まず狐塚に事件があったことを知らせる。

一方、月子に手にかけてしまった浅葱は、心ここにあらずの状態になっていた。「i」に向けてゲームの完遂と、約束通り再会を果たすようメールを送り、約束の場所をあのおばけトンネルに指定した。

狐塚が病院に着くと、秋山からおおよその事情を説明された。その後、狐塚は実家の両親に連絡し、恭司と真紀にも連絡を入れたが、浅葱は留守番電話で応答がなかった。集まった全員が月子の回復を願う中、狐塚は義父に、なぜ月子たちが実家に帰って来なくなったのかを尋ねられた。狐塚自身も月子も、母の日向子と義父の関係に気を遣いすぎて、水を差すようなことはしたくなかったのだと返した。そうしているうちに手術が終わり、月子が一命は取り留めたものの、意識が戻るまで相当な時間を要すると説明を受けた。狐塚孝太は、母親の日向子と義父が再婚するまでの日々を振り返る。「昼間の日向と夜の月」と対をなす名前の母娘は、親子というより姉妹のような仲の良い関係だった。しかし、月子が生まれて間もなく実父が他界し、年の離れた兄である狐塚孝太が一家の父親のような立場になることもあった。日向子の同級生だった佐々木おじさんとの交際が深まり、再婚相手に決まった。月子は、母親に再婚を機に新しい人生を歩んでほしいと考え、母親と一定の距離を取ると決意し、兄の孝太も、母親は母親のままであるという考えは変わらなかったが、月子の強い考えを可能な限り理解し、ともに家族として過ごす日々を一日でも長く続けたいと考えていたのだ。

翌日、秋山がやって来て、月子が「Θ」を庇っていると判断したことを告げ、その証拠を警察より先に狐塚たちに見せることにしたと語る。まず見せたのは、赤い蝶「アサギマダラ」の写真、それは月子の部屋に飾られていたフォトカードの蝶であり、学名は「パランティカ・シータ」だった。

浅葱は「i」に会うため、おばけトンネルへ向かう準備をする。月子の感触が残る服を着たまま数日を過ごし、ある日の恭司との会話を思い出す。そして、なぜか一本の鋭利なナイフも浅葱の手元にあった。

秋山は「Θ」の正体が木村浅葱であると確信に至った経緯を狐塚たちに説明する。月子が浅葱に好意を持ってから、彼女の私用PCのパスワード変更履歴が浅葱にまつわる文字列であったこと。志乃の事件の日に偶然「アサギマダラ=asagimadara」とパスワードを設定する直前にネットで検索し、その色や学名からぼんやりと浅葱=Θ説を思い浮かべたこと。そして浅葱と志乃の接触と志乃の死を知るという一連の流れで、月子の中で浅葱=Θ説が確信に変わり、直接浅葱と対峙してこのような事態になったのだろうと推理した。秋山の声は、ところどころ明らかに怒りに満ちたトーンに変わっていた。それでも秋山は「i」と浅葱を再会させない方が良いと考えており、警察よりも先に浅葱に会って話を聞きたいと考え、狐塚に浅葱を呼び出す手段がないか尋ねる。狐塚にも当てがなかったが、この話を途中から立ち聞きしていた恭司が、まずは浅葱の家に向かうと決める。狐塚は浅葱に対して暴力は振るうなと止めるよう言葉をかけながらも、恭司と共に浅葱の家へ向かう。

狐塚たちが浅葱の家に着いた頃には、浅葱はすでにいなかった。しかし、パスワードなどが設定されていないPCが部屋に残されており、それを見て「i」とのメールでのやり取りを把握する。そして、その直後に「i」からの新着メールが届く。

「i」から「Θ」へのメール:僕に足りないのは

メールの末尾に浅葱色が表示されており、「i」の次のターゲットが浅葱だと知った狐塚たちは、おばけトンネルへ向かう。

浅葱は、いつも見ていたあの悪夢と同じような情景を目にした。

狐塚たちがおばけトンネルに到着すると、浅葱が倒れていた。狐塚は恭司に月子を傷つけた奴でも助けるのかと問われるが、助けるに決まっているだろうと返す。現場のトンネルの壁には、「i」から殺人ゲームの終わりを告げるメッセージが書かれていた。

第11章『ビールとチキン』

月子の事件から2ヶ月が経過していた。浅葱も一命を取り留めたが、突き刺された左目の回復は不可能で、右目にも影響が出る可能性があると診断された。そして、意識が戻った後、浅葱は沈黙を貫いていた。

たまたまその日見舞いに行った秋山が、月子の意識が戻ったときに病院におり、狐塚は秋山からの連絡を受けて病院へ向かう。病院に着くと、秋山から月子の状態について詳しい説明があった。主治医からより詳しい話があるだろうと前置きしつつ、月子が大学に入って以降の記憶が失われているようだと告げる。それは、秋山たちのように大学入学以降に面識を持った者はもちろん、萩野や志乃の存在=彼女たちが殺人事件に巻き込まれて亡くなったこと、そして木村浅葱の存在、つまりあの事件の日に起こったことも、すべてきれいに忘れてしまったという状態だった。妹の容態を案じる狐塚は病室に駆け込む。病室の月子は狐塚の姿を見て、兄であることは理解できるものの、「こんなに年老いた姿ではないはずだ」という反応を示した。どうやら本当に記憶喪失になっているようだった。

浅葱の入院に伴い、「Θ」である彼の逮捕手続きは速やかに進行したが、「i」の存在は依然として掴めないままだった。秋山は坂本に、事件を最初から洗い直す意味で、2年前の「おばけトンネル」で発生した通り魔事件を再調査することを提案した。通り魔事件の被害者の名前は上原愛子。「i」が用いた偽名・上原藍と、一文字違いの人物だった。

そして、坂本と秋山は、上原愛子の実家を訪れ、彼女の母親から改めて自殺として処理された事件直後までの話を聞く。愛子は頭ががよく、親の願望に沿うように習い事と勉強で結果を出していたが、対人関係に関してはうまくいかないことが多い子どもだった。高校の担任の助言で、飛び抜けた学力を活かしてC大学の飛び級制度を利用し、同級生たちより1年早くこの場から抜け出すことで、新しい環境で人間関係を再構築できれば良い方向に向かうのではないか、という思いからの提案だったという。しかし、大学でも自分自身の頭のよさと他人への優越感、そして自身の欠落である普通の年相応の感覚を表に出せない性格が、最後まで悪い方向に作用し続けたのだろうと母親は述べた。秋山が児童心理学者の立場で子ども側の視点で意見しようとしたが、母親は自殺するような子を育ててしまった親である自分たちの責任だと言い切ってしまう。

一方、青森県弘前市の交番に1人の少年が現れる。彼は自ら失踪者として報道されている赤川翼だと名乗り、身分証として高校の学生証を示した。翼の発見は、凄惨な連続殺人事件の中で唯一の光のような出来事となった。後日、埼玉県警入間署での事情聴取に翼は1人で現れ、坂本が話を聞くことになったが、坂本は「i」のサイトの手記と、浅葱の体にある共通点に着目していた。そして翼は「i」こと上原藍と知り合ってからのことを話し始める。学業でうまくいかない時に現れた藍に惹かれてしまったのだと言い、その後彼と行うことになったゲームの内容を説明した。ゲームの内容は単純で、翼が家出をどこまで続けられるか、そして藍は、翼が一連の事件の発生で知ることになった殺人ゲームを完遂できるかどうか、どちらが先にリタイアになるか、というものだった。翼は青森にたどり着き、地元のりんご農家の老夫婦の家に転がり込んで、ある程度の安定が生まれたが、「Θ」の逮捕を知り、翼は世話になっている老夫婦にこれ以上の負担をかけることはできないと考え、自首したという。翼は、藍からプリペイド携帯電話と逃亡資金を受け取ったこと、そして逃亡先の弘前に藍が一度訪れたことも自供した。藍が弘前を訪れたのは10月12日、川﨑幸利の殺人事件の翌日だったと坂本は気づく。翼が藍と交わした会話に「人生は簡単にはリタイアできない」という言葉もあったという。最後に藍のモンタージュを作成するための聞き取りが行われたが、モンタージュに描かれた藍は、坂本の予想とかけ離れた人物像だった。

第12章『藍色とライト』

12月24日、捜査本部からの要請で狐塚は、警察病院にいる浅葱と面会することになった。意識が戻って以降、警察からの尋問に対し一貫して沈黙を貫いている浅葱だが、最も親しい間柄の狐塚が相手なら何か話す可能性があると判断されたのだ。面会室と別の部屋で坂本たちが待機し、狐塚は浅葱と対峙する。

面会室に入り、仕切りの向こう側に浅葱の姿を確認した狐塚は、まずこれまでの経緯を振り返る。浅葱が計画を変更して自分ではなく片岡志乃を殺したことについて意見しつつ、月子の事件の見立て殺人の内容にも触れ、坂本たちにはまだ知らせていない事実を浅葱に向けた、「化かし合いはやめて、どちらの人格でもいいから会話に応じてくれ」と言い放った。

狐塚の言葉を聞いた浅葱の中で、母親が殺された日の正しい記憶が再生される。神奈川県では強盗目的と処理され未解決事件として記録されている、浅葱の母親と兄・藍の殺人事件。実際は浅葱が母親と兄の藍を刺殺し、その後浅葱が発見されたというのが真実だった。浅葱の記憶は、兄が母親を殺し自ら命を絶ったというものに改変されている。

そして、狐塚たちの知る浅葱ではない、もうひとりの人格が静かに口を開き始めた。狐塚は、秋山が指摘した通り、木村浅葱の中に、自分たちがよく知る浅葱の人格と、冷酷非道な「藍」の人格が同居した状態だと見抜いたことを告げる。世間では浅葱が多重人格者を装い、一連の猟奇的連続殺人を一人でやったと認識しようとしているが、狐塚と秋山は逆の考えを持って、彼との接触を試みていたのだ。秋山は、浅葱が繰り返し受けた虐待の中で、その苦痛から逃れるために別人格を作り出したのだろうと考えていた。狐塚が秋山の推論を述べると、浅葱は自らの過去を語り始めた。

まず浅葱は、兄の藍の死を受け入れられない人格として、狐塚たちの知る浅葱の人格と、兄を殺した記憶をとどめる現在表にいる人格「藍」に分かれたのだと説明する。しかし、分かれた片方の人格=狐塚たちの知る浅葱は兄の死を受け入れず、記憶を改変して生き別れになったと思い込むようになったと説明した。彼はまるで「寄生された生き物」のようだと自らを形容し、さらに自分の人格は、浅葱の学名であるアサギマダラの天敵、マダラヤドリバエのような関係だと付け加える。その上で、児童福祉施設時代の虐待はすべて本当にあった出来事であると言い、その虐待の痛みについて、精神的虐待は浅葱の人格が、肉体的虐待は自分の人格が引き受けるように役割分担をした結果、二つの人格はより相反する方向に進んだのだと語る。

それでも、施設を出てからしばらくは平穏な日々が続き、浅葱の人格が表にいる状態が長く続いた。しかし、あの論文事件の『i』が浅葱の人格を傷つけた。論文事件の『i』、すなわちC大学の上原愛子の存在が、自分に再び出番を与えることになったのだと彼は説明する。浅葱が『i』の存在を追いかけた結果、愛子は浅葱から追いかけられていることに承認欲求を満たされる感覚を覚え、浅葱から虐待の記録を綴った手記を盗み出し、それを用いて兄の藍であると偽り浅葱の気を引こうとした。しかし、浅葱の中の兄・藍への底知れぬ愛憎の闇に、愛子は恐怖し、これ以上嘘をつき続けることが困難と考えて浅葱に殺される覚悟で会ってしまったのだと言う。そして彼は続けた、浅葱の人格が愛子の行動の真実を知り怒りを覚えた後、自分の人格に切り替わって彼女を殺したのだと。そして、浅葱の人格が探し続ける兄の藍の姿を請け負う人物だった愛子の次、3番目の兄の藍の像を請け負う人物として、浅葱の中のもう一人、自分が新しい藍となりその役割を受けることにしたのだと語る。

こうして、この人格はいつの間にか浅葱の人格を殺し、自分の人格で幕を閉じることを考えて行動するようになったという。藍の役割を請け負った彼は、赤川翼と偶然出会い、彼との些細なゲームに自分の運命を投げ、浅葱の人格には身近な人間を殺すことを要求した。赤川翼が思いのほか忍耐強く、自分を慕っていることに驚愕しているという。そして、藍の人格として彼が殺人ゲーム内で賭けた二つの事案は、両方とも自分にとって不都合な方に転がった。蛇島友美は事故死と断定されず捜査が続行し、赤川翼は自分=浅葱が捕まるまで家出を完遂した。浅葱の精神を殺す計画は、両方とも失敗に終わったのだ。月子の容態の話になると、狐塚が月子が記憶喪失だと告げる。すると、彼は萩野や志乃そして月子たちには自分の人格から復讐される理由がなかったと言った。そして、今田信宏を殺したことについては、浅葱の人格を汚した人物への明確な復讐だったと吐き捨てるように語った。

しばしの沈黙の後、彼は口を開く。自分が本来の木村浅葱なのだと。狐塚たちが知る浅葱は、この人格が本物の兄の藍たちを殺した後に計画的に分離された人格だという。兄を殺した自分はもう生きる価値がないと判断し、生前の兄の藍の良い部分だけを繋ぎとめた存在として生み出された人格、それが狐塚たちが知る木村浅葱なのだと説明する。そして、おばけトンネルで今の自分がもう一人の人格=狐塚たちの知る浅葱を刺し殺した後、狐塚たちが知る浅葱の人格は眠ったままだという。狐塚は、秋山が指摘した、二つの人格が重なるときの最悪の事態についての言葉を思い返し、考えを巡らせた。こうして、長い面会は終わった。

3ヶ月後、狐塚の元に坂本から木村浅葱が失踪したと連絡が入った。浅葱は青森県で一つ事件を起こしたと供述したため、現場に連行して捜査を進めようとしたところで逃げられたのだという。坂本は、狐塚たちに接触があった場合、連絡をするよう要請した。部屋にいた恭司は都市伝説のようだと言いながら、いつもと異なる行動を取ろうとしていた。その折に、恭司は月子にいつ面会できるかと狐塚に尋ねる。月子の記憶にない人物との面会は順を追って行われており、秋山と真紀には面会したので、次は恭司になる予定だと告げる。

赤川翼は家に帰り、留年して改めて大学受験に挑むために日々を過ごそうとしていた。そんな時、PCのメールに1件の新着メールが届く。文面を読み、それが浅葱からのものだと確信し、彼には元気でいてほしいと思うのだった。

エピローグ『月子と恭司』

一般病棟に移って以降、月子は失われた記憶の中で、面識のある人物と面会しながらリハビリを続けている。今日は、兄である孝太の友人で同居人でもある石澤恭司が面会に来る予定だった。

病室にやってきた彼は、事前に母親の日向子や兄の孝太から聞いていた人物像とは全く異なっていた。彼は、記憶を失う前の自分と月子は恋人だったと言い、まるで他人事のようにその関係を説明する。不意に「秋先生」と口を滑らせるが、秋山をそう呼ぶ人物はごく限られた数人しかいなかったはずだが今の月子の記憶にない。月子は、秋山と面会した時の「君の根底は何も変わっていない。悪い出来事を忘れてしまったことは、良いことになったのかもしれない」という言葉を思い返す。さらに深い話に進もうとしたが、彼は「もう時間がない」と言った。よく見ると、目の前の彼の左目には深い傷があるようだった。彼は今日話したことは嘘だと急に告げた。こんな風に嘘を口にできる人物が、月子の失われた記憶の中に存在したような気がした。目の前の彼は、「もう来ない。不幸にならないで」と言い残し、病室を後にする。

狐塚は、恭司が面会を終える予定の時間に病室の前に来ていた。そして、病室から出てきた人物が木村浅葱であると気づく。坂本からの連絡があった日、恭司が何かをしようとしていたことを思い出し、そこで恭司が浅葱と月子を再会させようとしていたのだと理解した。向かい合った狐塚と浅葱は互いに頭を下げる。狐塚が顔を上げた時、浅葱はすでにそこから立ち去っていた。

登場人物

木村 浅葱(きむら あさぎ)
D大学工学部大学院生。狐塚孝太と同じ研究室に所属する、天才肌の学生。色白で美しい容姿の持ち主だが、幼少期に母親と私設児童養護施設で虐待を受けていたため、体にその傷跡が残り、人に触れられることを極端に嫌う。双子の兄藍と生き別れたと記憶している。大学4年の時、論文コンクールで『i』に強烈な敗北感を味わい、その正体を探し求める。しかし『i』の正体が兄の藍ではないかと思い込み、彼との再会を夢見て『i』と接触した結果、『i』の正体を知り、その後現れた別の「i」=「藍」に支配されるかのように、彼が仕組んだ「殺人ゲーム」を実行していく。
狐塚 月子(こづか つきこ)
D大学教育学部4年生。小学校教師を目指し、子どもを大切に思う気持ちが強い。木村浅葱に好意を抱き、彼の抱える心の闇=「Θ」の正体に気づくが、彼を救うことはできなかった。最終的に、浅葱が起こした事件の真相を解き明かす鍵となる。
狐塚 孝太(こづか こうた)
月子の2学年上の兄で、D大学工学部大学院生。浅葱の友人であり、恭司の同居人。真面目で優等生タイプ。自身も事件に巻き込まれたのち、浅葱の真の心の闇に気づき、浅葱の中の別人格の彼=「藍」と対峙する。
石澤 恭司(いしざわ きょうじ)
孝太の親友で同居人。「早く死にたい」が口癖で自分の人生に冷めているように見えるが、月子のことを誰よりも深く想っている。事件の真相に狐塚より先に気づき、月子を守ろうとする。
秋山 一樹(あきやま かずき)
通称「秋先生」。児童心理学を専門とする教授。事件を追う中で、浅葱の抱える心の闇や、殺人ゲームの全貌を理解していき、狐塚たちに助言を与えていく。
坂本 玲一(さかもと れいいち)
入間署の刑事課長で、キャリア組の警視。秋山の元教え子。浅葱が仕組んだ殺人事件の真相を追う。
木村 藍(きむら あい)
浅葱の双子の兄。「i」の正体であるとされ、一連の事件の首謀者と推測されていた。実際は幼き浅葱によって自分たちの母親とともに刺殺されていた。
赤川 翼(あかがわ つばさ)
浅葱の別人格が名乗った上原藍と偶然出会い「殺人ゲーム」の参加者として協力していた受験生。事件後、自ら警察に出頭し、藍と交わしたゲームの内容などを供述するが、真実とともに藍を庇おうとする嘘の内容も混ぜて喋っていた。
白根 真紀(しらね まき)
D大学教育学部。月子の同級生で、狐塚が好意を寄せている人物。
上原 愛子(うえはら あいこ)
2年前の論文コンクールで最優秀賞を受賞した『i』の正体。C大学の飛び級制度で入学した天才だが、人間関係に難があり、論文のことで接触してきた浅葱を騙した末に会ってしまった結果、彼の別人格の藍によって殺されたと判明する。
萩野 清花(はぎの さやか)
浅葱・狐塚と同じ研究室のOGで、知的な美人。狐塚に好意を寄せていた。最初の事件の現場で偶然浅葱と会ってしまったことで、殺人事件の犠牲者となる。
片岡 紫乃(かたおか しの)
月子の親友。都内の女子大に通う。月子への強い執着と嫉妬心から浅葱に接触し、殺人事件の被害者となる。

エピソード

  • IN★POCKET』(講談社)2007年8月号「辻村深月のSF(スコシ・フシギ)な世界へようこそ」より
    • 本作は「冷たい校舎の時は止まる」より早く、高校生時代に書いていた。尚、「冷たい校舎」は高校3年生の11月頃〜、受験勉強の真っ只中から執筆し始めた。
    • 当時のタイトルは「藍色を照らす光」であった。
  • 野性時代』(角川書店)2009年8月号特集「鏡のなかの辻村深月」より
    • デビュー2作目ということで、かなり気負っていた。まるで真っ暗な海を泳ぐような感覚だったが、その分書き終えた時の充実感はすごかった。
    • 書きながら一番泣いたのもこの作品であり、書き終えて一番泣いたのもこの作品である。特に、ラブストーリーの部分に感情移入をしてしまった。しかし、そんな自分を「イタい」と思った。
    • 文庫版の表紙イラストを担当した笹井一個は、ノベルス版の表紙があまりにも内容にぴったりだったため、当初はかなり苦労した。

関連作品

  • ぼくのメジャースプーン」 - 秋山一樹が主要登場人物で、本作のおばけ教室事件と月子が殴打された時の描写が、秋山が特殊な言葉の力を使った事例として用いられる。その他、動物園に行った時に登場した「耳とまぶたにピアスの跡がある男の人」は恭司、秋山先生の研究室にいた「額に傷跡のある料理の下手な女のひと」は月子である。
    • 本日は大安なり」 - 結婚式を上げる新郎の東の友人として狐塚と恭司が登場。また、東とは別の夫婦の貴和子の友人の月ちゃんとして月子の名前が登場し、その月子の友人として、「目の上と耳と唇にピアスをしている男」という描写で恭司が登場し、貴和子の抱える問題に介入している。




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