経営学修士
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経営学修士(けいえいがくしゅうし、Master of Business Administration、MBA)は、経営学を修めたものに対して授与されることのある学位である。

欧米圏においては実務経験(AMBAは3年と規定)を有する社会人を対象としたマネジメントプログラムを提供するビジネススクール(経営大学院)がMBA Degreeを授与、日本においては大学院(修士課程または専門職学位課程)が、経営学修士号を授与する。
日本の文部科学省は「MBA」という名称の学位を具体的に定義する規定を設けていないため、類似学位として「経営学修士」もしくは「経営管理学修士」を設けている。文部科学省による専門職大学院制度の新設に基づく専門職学位課程によるものと、従来の修士課程によるものとの二通りがある。なお、前者の専門職学位課程では一般的に、経営管理修士(専門職)という表記が、後者の大学院修士課程で授与されるものは修士(経営学)と表記される。また、1991年(平成3年)以前の大学院修士課程においては、経営学修士という名称が用いられていた。
概説
経営学修士は、欧米においてはMBA(Master of Business Administration)プログラムとして、企業経営を科学的アプローチによって捉え、経営の近代化を進めるとの考え方のもとに、19世紀末に登場した高等教育コースである。1881年にウォートン・スクールが最初のビジネススクールとして設立され、1920年代にはハーバード・ビジネス・スクールが状況分析と経営判断の能力を訓練するケースメソッドという教育アプローチを開発し、多くのビジネススクールに採用されるようになった。アメリカ以外でもカナダのウェスタンオンタリオ大学、1958年には欧州初の2年制MBAプログラムがスペインのIESE ビジネススクールとして設立された。MBAプログラムは、研究者ではなく企業経営の実務家を養成することを狙いとしていたため、早くから実務家の利便性を考えたコース開発が行われてきた。1940年にはシカゴ・ビジネス・スクールが初の現役エグゼクティブ(企業幹部)向けのMBA(EMBA)を設置したのを皮切りに、多くのMBAスクールがEMBAコースを併設している[1]。2年修了が標準的であるが、1年の短期コース、夜間や週末に行われるパートタイムコース、通信コースなどさまざまな形態のプログラムが存在する。それらの多くは、実務家が職務を中断することなく学べるように配慮されたものである。また独立起業に価値を見出す価値観が強まったことに伴い、MBAも起業家養成の意味合いを強め、起業家育成に特化したMBAプログラムも登場した[2]。
日本のMBA事情
2003年(平成15年)に、文部科学省は従来の大学院研究課程とは別に、企業経営や会計、法務などの実務家を養成する「専門職大学院」の制度を作った。欧米のMBAに倣い、修士論文作成という一定の研究成果を要求せず(あるいは修士論文提出を不要とする)、授業の履修、知識習得および実務での実践に重きを置く。「経営管理修士(専門職)」の学位として公式な学歴として認められる。その背景には、日本社会全体の人材高度化と、産業競争力の強化の必要性から、高度なビジネスの専門的実務能力を備えた人材を養成するという意図がある。
専門職大学院制度導入以降、日本のMBAプログラムは、実務家を対象とした多様な教育形態を重視する方向へと進化している。文部科学省の調査によれば、社会人学生を多く受け入れる経営系大学院では、夜間・週末に授業を提供し、仕事を続けながら履修可能な設計が主流となっている[3]。
同調査は、MBAを含む経営専攻の社会人学生が特に「論理的思考力」「マネジメント能力」の獲得を期待して入学していることを示しており、単なる証書取得ではなく、仕事力の向上を目的とした教育ニーズが顕著である[4]。
また、経営系大学院全体で見た受講者数は、2010年から2017年の間に約2,000人から2,300人へと増加傾向にあり、社会人のリスキリングやキャリア再設計の場としての役割が高まっていることが確認されている[5]。
これらの背景から、日本のMBAプログラムは、欧米のアカデミック重視型大学院とは異なり、「実務との連携」「ケース・ディスカッション型授業」「人的ネットワークの構築」を重視する実務重視型となっている。ただし、日本には、欧米のようなMBAの教育の質を評価・認証する独立機関は無く、外資系企業などでの国際的に通用するアカデミックなMBAの評価においては、海外のAACSB・AMBA・EQUISといった国際認証機関による審査が重要視される。日本の大学院の中には、国際的なMBAの基準を満たしていないにも関わらず、「MBA」と呼称しているケースが存在する。国内MBAの教育機関の中には、これらの国際認証を受けている大学院もあるが、全体の割合で見ると非常に少数である。
- 日本の主な経営大学院プログラム・ビジネススクール
- (北海道・東北)
- 北海道大学大学院経済学研究院・大学院経済学院・経済学部
- グロービス経営大学院大学 仙台特設キャンパス
- (関東)
- 一橋大学経営管理研究科(AACSB国際認証取得)
- 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士課程(AACSB・EQUIS国際認証取得)
- 早稲田大学大学院経営管理研究科 (AACSB・EQUIS国際認証取得)
- 中央大学大学院戦略経営研究科(AMBA国際認証取得)
- 横浜国立大学大学院国際社会科学府経営学専攻
- 青山学院大学 大学院国際マネジメント研究科
- ビジネス・ブレークスルー大学院大学
- グロービス経営大学院大学 東京校、横浜特設キャンパス、水戸特設キャンパス
- (中部)
- 国際大学国際経営学研究科(AACSB国際認証取得)
- 名古屋商科大学大学院(AACSB・EQUIS・AMBA国際認証取得)
- グロービス経営大学院大学 名古屋校
- (関西)
- 京都大学経営管理大学院(EQUIS国際認証取得)
- 神戸大学大学院経営学研究科・経営学部
- グロービス経営大学院大学 大阪校
- (中国・四国)
- (九州・沖縄)
- 九州大学 経済学府
- 立命館アジア太平洋大学経営管理研究科(AACSB・AMBA国際認証取得)
- グロービス経営大学院大学 福岡校
- (北海道・東北)
- 英語履修のみで取得できる国内MBA
- 一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻(AACSB国際認証取得)
- 早稲田大学大学院経営管理研究科ビジネス専攻(早稲田大学ビジネススクール・全日制MBAグローバル(AACSB・EQUIS国際認証取得)
- 筑波大学大学院人文社会ビジネス科学学術院(国際経営プロフェッショナル専攻)
- 国際大学国際経営学研究科 MBAプログラム/Eビジネス経営プログラム(AACSB国際認証取得)
- 名古屋商科大学大学院 Global MBAプログラム(AACSB・EQUIS・AMBA国際認証取得)
- 関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科 経営戦略専攻 国際経営コース
- グロービス経営大学院大学 英語MBAプログラム
アメリカの主なMBAプログラム・ビジネススクール
ハーバード・ビジネス・スクール(Harvard Business School、HBS)
スタンフォード大学経営大学院(Stanford Graduate School of Business)
ペンシルベニア大学ウォートン・スクール(Wharton School)
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス(University of Chicago Booth School of Business, Chicago Booth)
ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(Kellogg School of Management)
MITスローン・スクール・オブ・マネジメント(MIT Sloan School of Management)
コロンビア・ビジネス・スクール(Columbia Business School)
ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネス(Tuck School of Business at Dartmouth)
カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス(Haas School of Business)
ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス(Leonard N Stern School of Business)
ヨーロッパの主なMBAプログラム・ビジネススクール
INSEAD:フランス・フォンテンブロー及びシンガポールにある大学院大学
ESSEC(ESSEC business school):フランス・パリ及びシンガポールにある大学院大学
HEC(Hautes études commerciales Paris):フランス・パリ
IE(Instituto de Empresa):スペイン・マドリード
IESE(IESE Business School):スペイン・バルセロナ
IMD(International Institute for Management Development、国際経営大学院):スイス・ローザンヌ
ロンドン・ビジネス・スクール(London Business School):イギリス・ロンドン
マンチェスター・ビジネス・スクール(Alliance Manchester Business School):イギリス・マンチェスター
オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクール(Saïd Business School):イギリス・オックスフォード
脚注
- ^ 2005 Exec Ed Rankings, Businessweek, Bloomberg
- ^ アントレプレナー教育研究会報告書『起業家精神を有する人材輩出に向けて』(要旨)、通商産業省、平成10(1998)年7月29日
- ^ 文部科学省「国内外の経営系大学院及び修了生の実態並びに産業界の経営系大学院に対するニーズ等に関する調査」(平成29年3月)https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/04/20/1384497_1.pdf
- ^ 兵藤郷「国内経営学系大学院における社会人の学び直しの実態」(リクルートワークス研究所, 2011)https://www.works-i.com/research/paper/item/110601_WR06_12.pdf
- ^ 文部科学省「経営系大学院を取り巻く現状・課題について|3.我が国の経営系大学院の現状|専門職大学院への入学者数(内訳)「ビジネス・MOT」の分野のデータ」(2018年)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/085/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2018/01/29/1400609_04.pdf
参考文献
- 神戸大学経済経営学会編著『ハンドブック経営学[改訂版]』、ミネルヴァ書房、2016/4/11。ISBN 978-4623076734。
- 上林憲雄編著『経営学の開拓者たち: 神戸大学経営学部の軌跡と挑戦』中央経済社 (2021年)。ISBN 978-4502377518
関連項目
- QS MBA順位 https://www.topmba.com/mba-rankings/home
- 職業教育 / 職業大学
- 専門職大学院、専門職学位
- ビジネススクール
- 高度専門職業人
- 日本経営学会
- 日本商業学会
「修士 (経営学)」の例文・使い方・用例・文例
- 文学修士
- オックスフォード大学修士
- 彼の経営学修士号は最高管理職へのパスポートだ
- 修士論文
- 彼女はハーバードで経営学修士を取得した。
- 修士2年生
- 研究室所属の修士一年生です。
- 山田研究室所属の修士一年生です。
- 修士1年
- 修士論文のテーマ
- その先輩たちを憧れて、修士課程や博士課程へ進学を目指す仲間が多くいます。
- 彼女は3年前に修士の学位をとりました。
- 彼は法学修士の学位を得た。
- 文学士[修士].
- 平修道士, 労働修士.
- 文学修士の称号を取る.
- 大学院 《bachelor (学士)を取ったあと, master (修士), doctor (博士)の学位を取る学生が進学する》.
- 平修道士[女], 労働修士[女], 助修士[女] 《聖職者ではないが宗教生活をして一般労働に従事する》.
- 修士号.
- 文学修士.
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