モデルと無矛盾性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/19 15:42 UTC 版)
ZFCの下では、κ が強到達不能であるときVκ がZFCのモデルになる。ZFの下では、κ が弱到達不能であるときゲーデル宇宙のLκ がZFCのモデルになる。よって、ZF+"弱到達不能基数が存在する"はZFCが無矛盾であることを導き、不完全性定理よりその存在はZFCで証明できない。つまり、到達不能基数は巨大基数の一種である。 VがZFCの標準モデルで κ がVの到達不能基数であるとき、Vκ はZF集合論のintended modelになり、Def(Vκ )はNBG集合論のintended modelになり、Vκ +1はMK集合論のintended modelになる。ここで、Def(X)はXの Δ0 定義可能な部分集合である(en:constructible universe)。しかしながら、Vκ がZFの標準モデルになるために κ が到達不能基数である必要はなく、基数である必要すらない。 VがZFCのモデルであるとする。Vが強到達不能基数を持ってなくても、持っていたとしても κ をVの最小の到達不能基数とすると、Vκ は強到達不能基数を持たないZFCの標準モデルである。すなわち、ZFCが無矛盾ならZFC+"強到達不能基数は存在しない"は無矛盾である。同様にVが弱到達不能基数を持ってなくても、持っていたとしても κ をVの最小の弱達不能基数とすると、Lκ は弱到達不能基数を持たないZFCの標準モデルである。だから、ZFCが無矛盾ならZFC+"弱到達不能基数は存在しない"も無矛盾である。このことから、ZFCからは到達不能基数の存在を証明できないし、ZFCは到達不能基数の非存在と矛盾しない。 ZFCが到達不能基数の存在と矛盾しないかという問題はもっと微妙である。前段落で見られた、「ZFC+"到達不能基数がある"が無矛盾ならば、ZFC+"到達不能基数は存在しない"は無矛盾である」の証明はZFCの中で形式化可能である。しかし、「ZFCが無矛盾ならば、ZFC+"到達不能基数が存在する"が無矛盾」ということのZFCで形式化された証明は存在しえない。これはゲーデルの第2不完全性定理からわかる。不完全性定理よりZFC+"到達不能基数が存在する"が無矛盾なら自身の無矛盾性はその中で証明できない。ZFCが「ZFCが無矛盾ならば、ZFC+"到達不能基数が存在する"が無矛盾である」を証明するとしたら、当然ZFC+"到達不能基数が存在する"でも同じことを示せることになるが、ZFC+"到達不能基数が存在する"は前述のようにZFCの無矛盾性を証明するので、結局ZFC+"到達不能基数が存在する"が自身の無矛盾性を証明できることになってしまうが、これは矛盾であるからである。 到達不能基数の存在性に関するZFCで形式化できない議論がある。そのような議論の一つがHrbacek & Jech (1999, p. 279)に表れている。もし集合論のモデル M の拡大モデルがあれば、M の全ての順序数によるクラスは、それ自体到達不能基数になる。というものである。
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