ローマ劇場 (ボスラ)とは? わかりやすく解説

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ローマ劇場 (ボスラ)

(ボスラのローマ劇場 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/24 22:45 UTC 版)

ボスラのローマ劇場
المسرحالرومانيببصرى
ローマ劇場 (Roman theatre)
シリア内の位置
所在地 シリアダルアー県ダルアー郡英語版ボスラ
座標 北緯32度31分04秒 東経36度28分54秒 / 北緯32.51778度 東経36.48167度 / 32.51778; 36.48167
種類 ローマ劇場
所属 ボスラ
102メートル (335 ft) 座席
歴史
資材 組積造[1]玄武岩
完成 2世紀
時代 ローマ時代
文化 古代ローマ文化英語版
追加情報
発掘期間 1947-1970年
状態 修復
所有者 シリア・アラブ共和国
一般公開
建築物
建築様式 ローマ建築
建築物詳細 古代ローマ劇場英語版
座席部(カウェア)3区画(上6段・中16段・下13段)2通路、37段・6,000席
ユネスコ世界遺産
所属 古代都市ボスラ
登録区分 文化遺産: (1), (3), (6)
参照 22
登録 1980年(第4回委員会)
危機遺産 2013年 (2013)-
面積 116.2ヘクタール (1.162 km2)
緩衝地帯 200.4ヘクタール (2.004 km2)[2]

ボスラのローマ劇場(ボスラのローマげきじょう、英語: Roman theatre at Bosra 〈Roman theatre of Bosra〉アラビア語: المسرح الروماني ببصرى‎)は、シリア南西部のボスラにある巨大なローマ劇場である。2世紀に建設された最大級の古代ローマの劇場英語版であり[3]、座席部の規模は37段、6000席で[4]、およそ最大1万5000人が収容可能であった[1][5]。中世、12世紀のアイユーブ朝の時代に、十字軍に対するムスリムイスラム)の要塞として、ボスラの劇場の周囲は強固な外壁によって固められた[4][6]

良好な状態で発掘されたボスラのローマ劇場は[6]、1980年、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産(文化遺産)に登録された「古代都市ボスラ」の一部である[2]。しかしシリア内戦以降、シリア国内の世界遺産はすべて危機遺産に指定された[7]

歴史

ボスラはナバテア王国の都であったが、106年よりローマ帝国の統治下となると[8]、皇帝トラヤヌス(在位98-117年[9])のもと[10]アラビア属州 (Provincia Arabia[11]) の州都[8]ノバ・トラヤナ・ボストラ (Nova Trajana〈Traiana[12]〉 Bostra[13]) となった[14]。ローマ劇場は、2世紀の後半[5]ないし第2四半期[15]、もしくはトラヤヌスの時代に建造されたものといわれる[2]

ローマ時代のボスラの劇場は、その後、481年から1251年にわたって要塞化された[2]。ボスラは、395年の東西分治以降に東ローマ帝国(ビザンティン帝国)に属し、7世紀には[16]イスラム帝国の時代となり[17]、劇場は12世紀になると、アイユーブ朝の要塞としてさらに拡張されていった[4][13]

ボスラは、メッカへの巡礼路の要地であったが[2]、その後、経路から外れたボスラは衰退し、やがて廃墟となると[17]、劇場も砂の堆積により埋没した。しかし、砂の保護によって良好に保存されていたローマ劇場は、1947年から[4]1970年にかけて、大規模な修復作業がなされ、復元された[13]。 

構造

ボスラのローマ劇場の構造
1. スカエナエ・フロンス 2. 列柱 (Columnatio) 3. プルピトゥム英語版 4. プロセニアム 5. オルケストラ 6. カウェア 7. アディタス・マクシムス 8. ヴォミトリウム英語版 9: 水平通路 (praecinctio) 10. トリブナリア 11. バシリカ[18][19]

斜面を利用することなく[5]平らな場所に建設されたボスラのローマ劇場は[20]、黒い玄武岩によって構築されており、また、復元された部分には、淡紅色のエジプト花崗岩も使用されている[13]

半円形となる階段状の座席部であるカウェア (Cavea) は[21]、北を向き[20]、幅102メートル[1]、6000席の規模で[4]、約1万5000人の観客を収容可能であったとされる[1]。座席部は、上下2本の水平通路 (praecinctio[22]) により3区画に分割された上層 (summa cavea) 6段、中層 (media cavea) 16段、下層 (ima cavea) 13段[20]、もしくは全37段とされる[4][5]。また、階段 (scalaescalaria[19]) により各座席層の分画 (cunei) は[19]、上層10列、中・下層は7列となる。座席層部は、放射状に延びた筒型ヴォールトヴォミトリウム英語版 (Vomitoria[23])の連絡網の上層に設けられており、この湾曲した座席部は、上層座席 (summa cavea) 最上段の背後にある列柱柱廊)に囲まれていた[20]

半円形のオルケストラは[24]、直径21メートルであり、左右2か所にある筒型ヴォールト状のアディタス・マクシムス (Aditus maximi[25]) により通じる。オルケストラ出入口である2か所のアディタス・マクシムスの上部には、特設貴賓席となるトリブナリア (Tribunalia[26]) が設けられていた[20]

舞台前部のプロセニアム[27]、交互に半円形と角形の窪みを繰り返して形成されている。舞台であるプルピトゥム英語版は、44メートル、奥行5メートル。舞台正面の3階建てのスカエナエ・フロンスは、とりわけ厚い壁によって構築されており、円柱などによる建築装飾が施されるとともに、3か所に入口を備える[15]

脚注

  1. ^ a b c d Amman Roman Theater” (英語). Structurae. 2022年7月23日閲覧。
  2. ^ a b c d e Ancient City of Bosra”. UNESCO World Heritage Centre. 2022年7月23日閲覧。
  3. ^ Berney & Ring, pp. 141 143
  4. ^ a b c d e f ミルトス編集部 『シリア・ヨルダン・レバノン ガイド』ミルトス、1997年、64頁。ISBN 4-89586-016-7 
  5. ^ a b c d Berney & Ring, p. 143
  6. ^ a b Sega (1995), p. 53
  7. ^ シリアの6つの世界遺産、全て「危機遺産」に指定 ユネスコ」『AFP BB News』AFP、2013年6月20日。2022年7月23日閲覧。
  8. ^ a b 蔀勇造 『物語 アラビアの歴史』中央公論新社中公新書〉、2018年、70頁。 ISBN 978-4-12-102496-1 
  9. ^ 岩波書店編集部 編 『岩波 西洋人名辞典』(増補版)岩波書店、1981年 (原著1956年)、929・1803頁。 
  10. ^ Bostra”. Britannica. 2022年7月23日閲覧。
  11. ^ アントニオ・インベルニッツィ 著、田辺勝美 訳「東方ヘレニズム世界とササン王朝」、江上波夫(監修) 編 『古代オリエントの世界』福武書店〈図説 世界の考古学 2〉、1984年 (原著1978年)、174頁。 ISBN 4-8288-1120-6 
  12. ^ Bosra theatre”. The British Museum. 2022年7月23日閲覧。
  13. ^ a b c d Berney & Ring, p. 141
  14. ^ ノバトラヤナボストラ”. コトバンク. 2022年7月23日閲覧。
  15. ^ a b Sega (1995), p. 55
  16. ^ フィリップ・K・ヒッティ 著、小玉新次郎 訳 『シリア - 東西文明の十字路』中央公論社中公文庫〉、1991年 (原著1959年)、156-157頁。 ISBN 4-12-201785-8 
  17. ^ a b 古代都市ボスラ”. 世界遺産オンラインガイド (2021年). 2022年7月23日閲覧。
  18. ^ basilicas”. The Ancient Theatre Archive. Greek - Roman Theatre Glossary. 2022年7月24日閲覧。
  19. ^ a b c Greek - Roman Theatre Glossary”. The Ancient Theatre Archive. 2022年7月24日閲覧。
  20. ^ a b c d e Sega (1995), p. 54
  21. ^ cavea”. Merriam-Webster. 2022年7月9日閲覧。
  22. ^ praecinctioes”. The Ancient Theatre Archive. Greek - Roman Theatre Glossary. 2022年7月24日閲覧。
  23. ^ vomitoria”. The Ancient Theatre Archive. Greek - Roman Theatre Glossary. 2022年7月24日閲覧。
  24. ^ オルケストラ”. コトバンク. 2022年7月24日閲覧。
  25. ^ aditus maximus”. The Ancient Theatre Archive. Greek - Roman Theatre Glossary. 2022年7月24日閲覧。
  26. ^ tribunalia”. The Ancient Theatre Archive. Greek - Roman Theatre Glossary. 2022年7月24日閲覧。
  27. ^ プロセニアム”. コトバンク. 2022年7月24日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク

Ben Cimperman, Aaron Cook, Cris Hansen, Jorge Munoz Rodriguez, Autumn Schuldt, Jake Sprafka (2021-10-07), “Theater at Bosra”, ArcGIS StoryMaps (Esri), https://storymaps.arcgis.com/stories/2903a57e641c4153901523a0a5b67952 

座標: 北緯32度31分04秒 東経36度28分54秒 / 北緯32.51778度 東経36.48167度 / 32.51778; 36.48167




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