フォスファテリウムとは? わかりやすく解説

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フォスファテリウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/10 12:57 UTC 版)

フォスファテリウム
復元図
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
新生代 始新世初期
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
下綱 : 真獣下綱 Eutheria
上目 : アフリカ獣上目 Afrotheria
階級なし : 近蹄類 Paenungulata
: 長鼻目(ゾウ目) Proboscidea
階級なし : † 近ゾウ型類 Plesielephantiformes
: フォスファテリウム科 Phosphatheriidae
: フォスファテリウム属 Phosphatherium 
Gheerbrant et al., 1996
学名
Phosphatherium escuillei
Gheerbrant et al., 1996
和名
フォスファテリウム
  • フォスファテリウム・エスキレイ
    P. escuillei Gheerbrant et al., 1996

フォスファテリウムPhosphatherium)は、約5,600万年前(新生代古第三紀始新世ヤプレシアン初期)の北アフリカに生息していた始原的特徴を持つゾウの一種。 学名は「光をもたらす」(phosphorus) の「獣」(therium) の意味である。リンのことを燐光を放つため phosphorus といい[1]、フォスファテリウムが発見されたのがリン酸塩鉱床であることにちなんでの命名である[2]

生息時代・生息域

左上顎骨と頬歯列
(国立自然史博物館 (フランス))

フォスファテリウムは早期始新世ヤプレシアンに北アフリカのモロッコで生息していた。化石はウルド・アブドゥン盆地から発見されており、同盆地では暁新世後期のエリテリウムや、始新世に生息していたダオウイテリウム等も見つかっており、長鼻目の起源を探る上で重要な地層となっている[2]

発見

もともとは、化石ディーラーより軟骨魚類の歯と一緒に入手した2つの左上顎骨の欠片で、1996年に記載された。一つは第四小臼歯(dP4)と第一大臼歯(M1)の組み合わせの化石片であり、もう一つは第三・第四小臼歯(P3-4)と第一・第二大臼歯(M1-2)に加えて犬歯や第三切歯の歯槽まで揃った上顎骨片でありタイプ標本となっている。ウルド・アブドゥン盆地のリン酸塩鉱床から発掘されたものだが、化石の発見者や正確な発見場所は分かっていない。同時に見つかった軟骨魚類(サメ)の生息年代から後期暁世代(サネティアン)と推定されていた[3]

しかし、その後の2000年代の発掘でウルド・アブドゥン盆地の北東に位置するグラン・ダウィ採掘場から頭蓋骨や下顎骨などのいくつかの化石が発見されたことで、正確な発掘地層の年代を推定することが可能となり、早期始新世のヤプレシアンに生息していたことが判明した[4]

形態

フォスファテリウムの頭骨

フォスファテリウムは中節骨と思われる骨片を除いて、頭部の化石しか見つかっておらず、ポストクラニアル(体骨格)については良く分かっていない。頭蓋の長さがおよそ 170 mm であることから、体重は 17 kg までで、肩高は 30 cm と推測されている[5]。 歯式は、上顎歯は分かっているものの下顎歯に欠損があり

フォスファテリウムの顎の化石

フォスファテリウムは非常に原始的な頭蓋骨の形状をしている。一方で大臼歯は(横堤歯 = ロフォドント)であり、始新世もしくは前期漸新世のより最近の長鼻目であるヌミドテリウムバリテリウムと共通している。これはフォスファテリウムの生息していた暁新世から始新世への移行期における初期の栄養適応 (葉食性の食事)を示す証拠と考えられている[6]

またバリテリウムモエリテリウムについては半水棲であったと考えられているが、より原始的なヌミドテリウムについても半水棲であった可能性が高いとされる。フォスファテリウムの体骨格については中節骨と思われる骨片以外見つかっていないため正確な分析はできないが、臼歯の形状より類似の食性を持つと考えられることから、フォスファテリウムの水棲適応の可能性も指摘されている[8]

分類

2024年現在、以下のような分類体系と考えられている[2]

下位分類

一種のみで、化石販売業者からタイプ標本を入手したフランスの古生物学者である François Escuillié への献名としてエスキレイ( Escuillei ) と名付けられた[3]

上位分類

最初の発見者である Emmanuel Gheerbrant らは、発見当初(1996)はフォスファテリウムを ヌミドテリウム科 (Numidotheriidae) に分類していた[3]。 しかしその後、ウルド・アブドゥン盆地で次々とフォスファテリウムの標本が集まり研究が進むと、2005年に独自のであるフォスファテリウム科 (Phosphatheriidae) へと再割り当てをしている。 これは、形態学的データに基づく系統解析を行った結果である。具体的には全20類の比較対照となる分類群(科・属)に対して、「眼窩下孔と眼窩の相対位置」といった 129 個の歯と頭蓋の特徴(キャラクター)毎にポイント割り当てをし、解析ソフトウェアで系統樹を生成する試みである。その結果、フォスファテリウムは系統樹の位置としてヌミドテリウムやダオウイテリウムよりもより原始的な長鼻目であることが判明したとされる[6]

過去の分類

フォスファテリウムは、発見当初(1996)にはヌミドテリウム科に分類され、初の暁新世の化石として最も年代の古い地層から発見された長鼻目であった。しかし、彼らが属するヌミドテリウム科をもって長鼻目(ゾウ目)の最古とすることは認められておらず、この進化系統でさらに古いとされるアントラコブネ科(Anthracobunidae)が系統的に最も古い長鼻目であるとされていた[9]。 しかし、2014年にアントラコブネ科の化石が多数インド・パキスタンで発見されたことで研究が進み、アフリカ獣上目の長鼻目もしくは海牛目とみなされていたアントラコブネは、現在ではローラシア獣上目奇蹄目ステムメンバーと再整理されている[10]。 なお、現在最も古い長鼻目とされているのはエリテリウムである。

脚注

  1. ^ phosphorus の語源”. Onlune Etymology Dictionary. 2024年5月18日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g Evolution and Fossil Record of African Proboscidea
    Sanders (2024)
  3. ^ a b c A Palaeocene proboscidean from Morocco
    Gheerbrant et al. (1996)
  4. ^ The mammal localities of Grand Daoui Quarries, Ouled Abdoun Basin, Morocco, Ypresian : A first survey
    Gheerbrant et al. (2003)
  5. ^ Shoulder height, body mass and shape of proboscideans
    Larramendi (2016)
  6. ^ a b c d e f Nouvelles données sur Phosphatherium escuilliei (Mammalia, Proboscidea) de l'Eocène inférieur du Maroc, apports à la phylogénie des Proboscidea et des ongulés lophodontes
    Gheerbrant et al. (2005)
  7. ^ Evolution of the tooth enamel microstructure in the earliest proboscideans (Mammalia)
    Tabuce et al. (2007)
  8. ^ Stable isotope evidence for an amphibious phase in early proboscidean evolution
    Alexander et al. (2008)
  9. ^ 渡邊 誠一郎. “哺乳類の系統分類”. 名古屋大学 理学部. 2024年5月14日閲覧。
  10. ^ Anthracobunids from the Middle Eocene of India and Pakistan Are Stem Perissodactyls
    Cooper et al. (2014)

参考文献

関連項目

外部リンク





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