ピアノ協奏曲第2番 (バラキレフ)
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ピアノ協奏曲第2番 変ホ長調 は、ミリイ・バラキレフが1861年から作曲に着手したピアノ協奏曲。未完のまま残され、セルゲイ・リャプノフによって完成された。
概要
1855年から1856年にかけて取り組んだピアノ協奏曲第1番を単一楽章で残したままとしたバラキレフは、1861年になって新しいピアノ協奏曲の作曲に着手した[1]。選択された変ホ長調という調性はリストのピアノ協奏曲第1番と同一であり、さらに彼はアントン・ルビンシテインのピアノ協奏曲第2番やリトルフのピアノ協奏曲第4番も意識していたようである[2]。果たして書き上げられた第1楽章は構想の大きさから野心作の風格を漂わせるものであった[1]。バラキレフは1862年の暮れまでにこの完成された第1楽章と即興による残りの楽章を仲間内で披露しており、リムスキー=コルサコフはその出来栄えに好感を持っていた[2]。
ところがその後、本作への興味を失ってしまったバラキレフは楽曲を約40年もの間放置することになる[1][2]。1906年には第2楽章を完成させたものの終楽章を完成させることはできず[1]、彼は1910年にこの世を去ってしまう[2]。リャプノフが作曲者の意向を汲んで終楽章を補筆完成させるとともにオーケストレーションを施し、曲は現在の形に整えられたのであった[1][2]。
楽器編成
ピアノ独奏、フルート3、オーボエ、コーラングレ、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、バストロンボーン、チューバ、ティンパニ、トライアングル、シンバル、タムタム、弦五部。
楽曲構成
第1楽章
- Allego non troppo 3/4拍子 変ホ長調
管弦楽のトゥッティにより堂々と開始し、木管楽器の第1主題が奏される(譜例1)。バラキレフが好んでいたベートーヴェンの交響曲第3番やシューマンの交響曲第3番への接近が感じられる[2]。間もなく入ってくるピアノはパッセージワークを中心に動き回る。
譜例1

ピアノのカデンツァが置かれてピアノによる変ト長調の第2主題の提示に移る(譜例2)。主題は管弦楽が歌い継いでいく。
譜例2

展開はトゥッティが奏でる譜例1により始まり[1]、この主題を中心に進んでいく。その途中で譜例2に基づくフガートが挿入される[1](譜例3)。
譜例3

フガートによる展開が終わると変ホ長調で譜例1が再現される。続く第2主題は定法では変ホ長調となるところ、予想を外したニ長調での再現となる[1][2]。この逸脱は伝統的な音楽形式に染まりきることを善しとしなかったバラキレフの作曲姿勢の表れと解される[2]。両主題を用いたコーダが次第に加速し、最後に譜例1を奏して盛り上がりのうちに幕を下ろす。
第2楽章
第2楽章には遠隔調であるロ短調が採用されており、ここでもバラキレフは伝統的な調性配置から乖離する[2]。転調のための6小節の導入部に続いて弦楽器により奏される譜例4の主題は、ロシア正教会の聖歌『So sviatymi upokoi』の旋律によるものである[1][2]。ピアノがアルペッジョを伴う和音により主題を繰り返す[1]。
譜例4

譜例1は転調を繰り返しながら繰り返されていく。やがて光が差し込むようなニ長調の主題が[2]、チェロ、ヴァイオリン、ピアノと受け渡されつつ歌われていく(譜例5)。
譜例5

やがて譜例4による展開となり、その頂点ではピアノによる華麗な装飾を伴って譜例4が管弦楽により再現される[2]。その後やはりピアノの装飾を得て譜例5が再現されていく。楽章の最後にはコーラングレが譜例1を回想し、アタッカで接続される第3楽章への繋ぎの役割を果たす[2]。
第3楽章
楽章中主要な調性は変ト長調であり、バラキレフはここでも伝統に背を向ける[2]。導入に続いて活発な主題が入ってくる(譜例6)。
譜例6

譜例6によって進んでいった先に譜例7の新しい主題が現れる。この主題における和声の用法にムソルグスキーを思わせるという見解もある[2]。
譜例7
![\relative c''' {
\new PianoStaff <<
\new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key b \major \time 2/4
\set Score.tempoHideNote = ##t \tempo "Poco sostenuto il tempo." 4=130 \partial 8
<<
{
\omit TupletBracket
s8 s2 <cis cis,>8. <dis dis,>16 <cis cis,> <b b,> <gis gis,>8
<cis cis,>8. <dis dis,>16 <cis cis,> <b b,> <ais ais,> <cis cis,>
<b b,>8[ \times 2/3 { ais,16( b' ais) } <gis gis,>8 <dis dis,>]
}
\\
{
<fis fis,>8 <gis gis,>[ <ais ais,> <b b,> <dis dis,>]
e,2 e4. e8 dis8 dis dis gis,
}
>>
}
\new Dynamics {
s4\ff
}
\new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" } { \key b \major \time 2/4 \clef bass
<<
{
s8 s2 <e b gis>2 <e ais, fis>4. <e ais, fisis>8
<dis gis,>[ <dis fisis,> <dis gis,> q]
}
\\
{
<fis, fis,>8 <eis' eis,>[ <e e,> <dis dis,> <b b,>]
g,\rest <b b,>4. g8\rest <b b,>4. b8[ cis b bis]
}
>>
}
>>
}](https://cdn.weblio.jp/e7/redirect?dictCode=WKPJA&url=https%3A%2F%2Fupload.wikimedia.org%2Fscore%2Fg%2F0%2Fg0qbjob2hw8kt3ag3ru4hhcxqo0byrb%2Fg0qbjob2.png)
譜例7は発展して熱を帯びて祝祭的に盛り上がり、熱狂冷めやらぬうちに譜例6が戻ってくる。喧騒の中にトランペットが奏する譜例1が聞こえてくるのを合図として、曲はフガートに突入する[1](譜例8)。
譜例8

そのまましばらく譜例7を中心として展開し、管弦楽による譜例6の再現へ至る。シンバルやタムタムも加わって音響を拡大し、手短な譜例7の再現へと続く。熱量は衰えることなく、最後にもう一度譜例1の回想を聴きながら走り抜ける。
出典
参考文献
- Garden, Edward (1993). Balakirev & Rimsky-Korsakov: Piano Concertos (CD). Hyperion records. CDA66640. 2025年7月21日閲覧.
- Truslove, David (2009). BALAKIREV, M.: Piano Concertos Nos. 1 and 2 / Grande Fantaisie on Russian Folksongs (CD). Naxos. 8.570396. 2025年7月21日閲覧.
- 楽譜 Balakirev: Piano Concerto No.2, J. H. Zimmermann, Leipzig
外部リンク
- ピアノ協奏曲第2番の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト
- ピアノ協奏曲第2番 - ピティナ・ピアノ曲事典
- ピアノ協奏曲第2番_(バラキレフ)のページへのリンク