ジプシー (オランウータン)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/07 21:53 UTC 版)
生物 | ボルネオオランウータン |
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性別 | 雌 |
生誕 | 1955年? ボルネオ島 |
死没 | 2017年9月27日 多摩動物公園 |
ジプシー(Gypsy[注 1], 1955年?[注 2] - 2017年9月27日[7][8])は多摩動物公園で飼育されていたボルネオオランウータンである。1958年の来園以来60年近くを多摩で過ごし、多摩のオランウータンの中心的存在となっていた。死亡時の推定年齢62歳は、飼育下のボルネオオランウータンとして世界最高齢であった[9]。
経歴
ボルネオ島で親からはぐれ、孤児となっていたところを人間に保護され[10]、1958年7月19日[注 3]、この年に開園した多摩動物公園初のオランウータンとして来園した。当時オランウータン舎はまだ完成しておらず、普段は獣医室で育てられ、日中は園内のさまざまな場所へ連れ出される、という形であったことからジプシーと名付けられた[5][11][注 4]。この時期のジプシーの知的行動を人間の女児と比較した新聞記事に触発され[12]、日本映画新社の藤原智子がジプシーを撮った映画が『オランウータンの知恵』である。
1960年には新たに多摩動物公園に野生のオス、ドン・ホセが迎えられ、園内でジプシーとの結婚式が挙行された[13][14][注 5]。1965年にはドン・ホセとの間に最初の子が生まれた[16][17]。子は日本で生まれたオランウータンとしては上野でモリーが産んだ初子に続く2頭目で、ジュリーと名付けられた[5]。ドン・ホセは人間に対しては獰猛であったがジプシーとの仲は良く[18]、その後さらに2頭の子を儲けたが、1974年に風邪をこじらせて死亡した。寡婦となったジプシーのために1975年、上野動物園からジローが迎え入れられた[19][注 6]。当初ジローは多摩のオランウータンには馴染まなかったが、上野時代の飼育係が多摩を訪ねると積極的となり[21]、1978年にはジプシーとの間に子が生まれた。ジプシーは4頭もの子を産んで日本のオランウータン繁殖に貢献したとして、1980年に日本動物愛護協会から表彰された[22]。このころオランウータンはボルネオオランウータンとスマトラオランウータンに分かれることが判明し、混血が判明した上野のモリーの血統は繁殖制限がかけられたが、ジプシーやその夫たちはすべてボルネオオランウータンであったことから、その子孫はその後も繁殖が続けられた[23]。
晩年はその長寿でも着目されるようになり、2014年の敬老の日にちなんだイベントでは、長寿の秘訣を飼育係が語った[24][25]。2015年には還暦を祝った[2]。しかし2017年8月、口内に出血があるのが見つかり、投薬治療を受けていたものの、固いものが食べられなくなり、食欲も減退していった[26]。9月になり、全身麻酔で口腔内の検査を行った後、容体が急変し、死亡した。死因は急性心不全であった[27]。ジプシーの死により、シンガポール動物園の60歳のオス「ジョジョ(Jojo)」が世界最高齢となった[28]。
系図
ジプシーは生涯に4頭の子を儲け、2016年末の時点で日本国内で飼育されているボルネオオランウータン33頭のうち、半数近い16頭がジプシーの子孫である。
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リアン 1992- |
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ジュリー 1965- |
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モモ 2003-2009 |
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ジャック 1981- |
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森人 2007- |
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キュー 1969? |
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キューピー 1983-2003 |
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森花 2015- |
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ドン・ホセ 1958?-1974 |
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ハッピー 1993-1998 |
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チャッピー 1973- |
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ジプシー 1955?-2017 |
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ポピー 2000- |
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ボルネオ 1985- |
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ミンピー 2006- |
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釧太郎 1993-2000 |
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サリー 1968-2001 |
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アピ 2014- |
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レンボー 1998- |
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ハヤト 2010- |
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ロリー 1979- |
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ジロー 1965?-1995 |
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弟路郎 1997- |
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ハルト 2016-2016 |
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タンゴ 1990- |
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ひな 2010- |
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テリー 1984-1998 |
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りな 2014- |
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ユリー 1992-2003 |
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ラーマン 1971?-1992 |
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ナナ 1990- |
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キャンディ 1978- |
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クッキー 2010-2012 |
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ジュン 1982- |
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山崎正路 『オランウータン ジプシーファミリー ★写真絵本★』日本写真企画、2009年、2-3ページ掲載の「ジプシーの血筋家系図」を参考に、その後の変更を反映した。
注釈
- ^ 多摩動物公園職員が英語で発表した論文における表記による[1]。
- ^ 還暦の際の報道では野生で正確な誕生日が不明のため、1955年の元日を誕生日として年を数えている、としている[2]。しかし古い文献では多摩来園(1958年)を「2歳」[3]、1960年5月時点の年齢を「4歳」とするなど[4]、1956年生と推定されているとみられる記述も多い。園側の文献でも『多摩動物公園50年史』が来園時の年齢を「推定2歳」とする一方で[5]、飼育担当者は「当時3才と推定」と書いており[6]、一定していない。
- ^ 来園日については7月7日とするものもある[1]。特に宮本(1965)は、本文では7月19日としながら(93ページ)英文要約では7月7日と書いている(97ページ)。
- ^ 来園当時の新聞記事では、行動が自由であることからジプシーと名付けられたとしている[3]。
- ^ 元園長の石田戢は、結婚式があったのは高幡不動尊であると書いている[15]。
- ^ ジローが迎えられたのは最初の子のジュリーが9歳になり、適齢期に達したためであるとする報道もある[20]。
出典
- ^ a b Asano, M. (1967), “A note on the birth and rearing of an orang-utan at Tama Zoo, Tokyo”, International Zoo Yearbook (Zoological Society of London) (7): 95-96
- ^ a b 「「ジプシー」還暦 あすお祝い 多摩動物公園オランウータン」『読売新聞』2015年(平成27年)1月10日東京本社朝刊31面。
- ^ a b 「動物と人間と① オランウータン 女の子をしのぐ知恵 中学生と酔払い大きらい」『読売新聞』昭和34年(1959年)3月13日付東京本社朝刊9面。
- ^ 朝日新聞社編『武蔵野むかしむかし』上巻、人物往来社、1963年、42-45ページ。
- ^ a b c 『多摩動物公園50年史』東京動物園協会、2008年、78ページ。
- ^ 宮本昇「オランウータンの繁殖 第1報 出産について」『動物園水族館雑誌』第7巻第4号、1965年、93ページ。
- ^ 世界最高齢のボルネオオランウータン「ジプシー」が死亡しました
- ^ ボルネオオランウータンの「ジプシー」が死亡しました
- ^ “世界最高齢「ジプシー」死ぬ 東京・日野”. 毎日新聞ニュース. (2017年9月28日) 2018年1月22日閲覧。
- ^ 黒鳥 2008, p. 23.
- ^ 『毎日新聞』2016年(平成28年)9月7日付東京本社朝刊24面(東京)。
- ^ 林寿郎・藤原智子「対談 オランウータンの笑い」『中央公論』第75巻第5号、1960年4月、138-147ページ。
- ^ 「晴れてカショクの典 けさジプシー嬢とドン・ホセ氏」『朝日新聞』昭和35年(1960年)6月9日付東京本社夕刊5面。
- ^ 「おミキをあおる〝新郎新婦〟 オランウータン型破りの結婚式」『読売新聞』昭和35年(1960年)6月9日付東京本社夕刊9面。
- ^ 石田戢「多摩生まれの動物たち Vol. 5 ボルネオ・オランウータンのチャッピーさん」『多摩のあゆみ』第130号、たましん地域文化財団、94-95ページ。
- ^ 「〝赤ちゃん〟ご紹介 多摩動物公園のオランウータン」『朝日新聞』昭和40年(1965年)5月18日付東京本社夕刊9面。
- ^ 「話の港」『読売新聞』昭和40年(1965年)5月18日付東京本社夕刊9面。
- ^ 増井光子「文明の中の動物誌 レイプ――その1」『婦人公論』第67巻第10号、1982年10月、388-389ページ。
- ^ 中川志郎『多摩動物公園』東京都公園協会〈東京公園文庫 6〉、1981年、95ページ。
- ^ 「高砂や…オランウータン 花婿おコシ入れ 上野動物園から多摩動物公園へ」『読売新聞』昭和50年(1975年)3月18日付東京本社朝刊17面(都民)。
- ^ 「飼育ベテラン座談会 わたしの とっておきの話」『アサヒグラフ』第3076号、1982年3月25日、57-61ページ。
- ^ 「表彰状 ジプシー殿 多摩動物公園オランウータン 「あなたは永年、育児に功労」 子供4匹、孫1匹 24歳、きょう晴れの式」『毎日新聞』1980年(昭和55年)9月21日付東京本社朝刊21面(東京)。
- ^ 『多摩動物公園50年史』79ページ。
- ^ 萩原誠「㊗最高齢 長生きの秘訣 多摩動物公園で解説」『東京新聞』2014年(平成26年)9月7日付朝刊26面(都心)。
- ^ 斉藤三奈子「長寿の秘訣、教えます 日野・多摩動物公園 14、15日に敬老の日イベント 開園以来親しまれる3頭紹介」『毎日新聞』2014年(平成26年)9月11日付東京本社朝刊26面(東京)。
- ^ 「オランウータンの「ジプシー」天国へ 世界最高齢」『読売新聞』2017年(平成29年)9月29日付東京本社朝刊31面。
- ^ 「世界最高齢オランウータン死ぬ ジプシー62歳 多摩動物公園」『東京新聞』2017年(平成29年)9月28日付夕刊6面。
- ^ 『毎日新聞』2017年(平成29年)9月29日付東京本社朝刊30面。
参考文献
- 黒鳥英俊 『オランウータンのジプシー 多摩動物公園のスーパーオランウータン』〈ポプラ社ノンフィクション 2〉ポプラ社、2008年。ISBN 978-4-591-10443-9。
「ジプシー (オランウータン)」の例文・使い方・用例・文例
- ジプシーの起源はインドにあると考えられている。
- 彼女は慈善の気持ちからそのジプシーたちに衣服を与えた。
- たいへんロマンチックに描かれたジプシーの放浪の描写。
- ジプシーのキャラバン.
- ジプシーの占い師.
- アンダルシアンジプシーに特有のダンスのスタイル
- ヒトラーは、ヨーロッパのユダヤ人、ジプシー、共産主義者、および同性愛者を根絶したかった
- ジプシーは森を歩き回った
- ジプシーは占った
- ジプシーまたは彼らの言語または彼ら文化の、あるいは、ジプシーまたは彼らの言語または彼ら文化に関する
- ジプシーのフォークソング
- ジプシーの占い師
- ジプシーが使うインド語派言語
- スペインの女性のジプシー
- スペインの男性のジプシー
- ジプシーを話し、伝統的に季節労働と占いで生活する、暗い色の皮膚および髪の毛を持った民族のメンバー
- 以前に、方法として鍋釜と他の金属道具を直し、あちこちを旅をして回った人(伝統的にジプシー)
- ジプシー独特の舞踊音楽
- ジプシーパンプスという靴
- ジプシーという流浪民族
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