ケーラー・アインシュタイン計量
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微分幾何学において、複素多様体上のケーラー・アインシュタイン計量 (Kähler–Einstein metric) は、ケーラー計量かつアインシュタイン計量であるようなリーマン計量である。多様体がケーラー・アインシュタインであるとは、ケーラー・アインシュタイン計量を持つ場合を言う。これらの中で最も重要なものは、カラビ・ヤウ多様体であり、これは、ケーラーかつリッチ平坦なものである。
この分野の最も重要な問題は、コンパクトケーラー多様体にケーラー・アインシュタイン計量が存在することである。
ケーラー計量がある場合には、リッチ曲率はケーラー計量に比例するので、第一チャーン類は、負か、0か、または、正のいずれかである。
第一チャーン類が負の場合は、オーバン(Aubin)とヤウ(Shing-Tung Yau)が常にケーラー・アインシュタイン計量が存在することを証明した。
第一チャーン類が 0 の場合は、ヤウは常にケーラー・アインシュタイン計量が存在するというカラビ予想を証明した。ヤウはこの仕事でフィールズ賞を受賞した。これがカラビ・ヤウ多様体の名称の由来である。
残りの、第一チャーン類が正の場合(ファノ多様体と言う)が最も困難である。この場合は、存在に非自明な障害が存在する。2012年、チェン(Chen)、ドナルドソン(Donaldson)、スン(Sun)は、この場合の存在性は K-安定性と呼ばれる代数幾何学的な条件に同値であることを証明した。彼らの証明は、アメリカ数学会誌 (the Journal of the American Mathematical Society) の一連の論文に発表された[1][2][3]。
参考文献
- ^ Chen, Xiuxiong; Donaldson, Simon; Sun, Song Kähler-Einstein metrics on Fano manifolds. I: Approximation of metrics with cone singularities. J. Amer. Math. Soc. 28 (2015), no. 1, 183–197.
- ^ Chen, Xiuxiong; Donaldson, Simon; Sun, Song Kähler-Einstein metrics on Fano manifolds. II: Limits with cone angle less than 2π . J. Amer. Math. Soc. 28 (2015), no. 1, 199–234.
- ^ Chen, Xiuxiong; Donaldson, Simon; Sun, Song Kähler-Einstein metrics on Fano manifolds. III: Limits as cone angle approaches 2π and completion of the main proof. J. Amer. Math. Soc. 28 (2015), no. 1, 235–278.
- Moroianu, Andrei (2007). Lectures on Kähler Geometry. London Mathematical Society Student Texts. 69. Cambridge. ISBN 978-0-521-68897-0
- 中島, 啓 (1999). 非線型問題と複素幾何学. 現代数学の展開. 20. Tokyo: 岩波書店. ISBN 4-00-010656-2
外部リンク
- Existence of Kähler-Einstein Metrics, a blog post.
ケーラー・アインシュタイン計量
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「カラビ予想」の記事における「ケーラー・アインシュタイン計量」の解説
カラビ予想と密接な関連する予想として、コンパクトケーラー多様体が負、ゼロ、正の第一チャーン類を持つと、定数倍を除外してケーラー計量としてチャーン類に対応するケーラー・アインシュタイン計量を持つという予想がある。この予想の証明は、負のチャーン類に対して、ティエリー・オービン(英語版)(Thierry Aubin)とシン=トゥン・ヤウ(Shing-Tung Yau)により1976年になされた。チャーン類が 0 のときは、ヤウにより、0 の場合の結果より証明された。 第一チャーン類が正の場合は、ヤウが 2点でブローアップした複素射影平面(英語版)はケーラー・アインシュタイン計量を持たないことを証明した。従って、正の場合の反例となる。また、ケーラー・アインシュタイン計量が存在しても一意には決定されないことも証明した。正の第一チャーン類に対して、さらに多くの結果がある。ケーラー・アインシュタイン計量が存在するための必要条件は、正則ベクトル場のリー代数が簡約的であることなどがある。ヤウは、正の第一チャーン類に対しケーラー多様体がケーラー・アインシュタイン計量を持つことと、幾何学的不変式論の意味でケーラー多様体が安定なことが同値であることを予想した。 複素曲面の場合は、ガン・ティアン(Gang Tian)により研究された。正のチャーン類を持つ複素曲面は、2つの射影直線(明らかにケーラー・アインシュタイン計量を持つ)の積か、もしくは一般の位置にある多くとも 8個の点ブローアップされた射影平面である。一般の位置の意味は、一直線上に 3つの点が並ばないこと、二次曲線の上に 6つの点が載っていないことを言う意味である。射影平面はケーラー・アインシュタイン計量を持っていて、1つまたは 2つの点でブローアップされた射影平面は、正則ベクトル場のリー代数が簡約的ではないので、ケーラー・アインシュタイン計量を持たない。ティアンは、一般の位置にある 3, 4, 5, 6, 7, 8 個の点でブローアップされた射影平面はケーラー・アインシュタイン計量を持つことを示した。
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