キリストの鞭打ち_(カラヴァッジョ)とは？わかりやすく解説

『キリストの鞭打ち』
	イタリア語: La Flagellazione di Cristo; 英語: The Flagellation of Christ
作者	ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
製作年	1607年
種類	キャンバス上に油彩
寸法	286 cm × 213 cm (113 in × 84 in)
所蔵	カポディモンテ美術館

『キリストの鞭打ち』（キリストのむちうち、伊: La Flagellazione di Cristo、英: Flagellation of Christ））は、イタリアのバロック期の巨匠カラヴァッジョが1607年にキャンバス上に油彩で制作した絵画である。伝記作家のジョヴァンニ・ピエトロ・ベッローリによると、絵画は本来ナポリのサン・ドメニコ・マッジョーレ教会（英語版）の礼拝堂のためにジェノヴァ出身の貴族トンマーゾ・デ・フランキス (Tommaso de' Franchis) により注文された^[1]^[2]。現在、ナポリのカポディモンテ美術館に所蔵されている^[1]^[2]^[3]。なお、カラヴァッジョは、同時期に別の「鞭打ち」である『柱につながれたキリスト』 (ルーアン美術館) も制作している^[4]^[5]。

背景

この絵画の注文主トンマーゾ・デ・フランキスの一家は、ナポリの最高司法機関サクロ・レージョ・コンシーリオ（イタリア語版）の議長を務めていた父ヴィンチェンツォ・デ・フランキス（イタリア語版）、そしてヴィンチェンツォの息子たちのおかげでナポリに財産を築いていた。息子たちはナポリのスペイン副王府でしかるべき地位に就いていたが、息子の1人ロレンツォ・デ・フランキスは、カラヴァッジョがすでに『慈悲の七つの行い』を描いていたピオ・モンテ・デッラ・ミゼリコルディア教会（英語版）の同心会のために税務担当の弁護士と代議員を務めていた^[1]。彼がカラヴァッジョと本作の注文主トンマーゾとの仲介をした可能性が高い^[1]。作品には当初、トンマーゾらしき人物が画面右側に描かれていたが、後に塗りつぶされた^[2]。作品は、1972年にカポディモンテ美術館に移された。

作品

本作は、処刑される直前にピラトの命令でイエス・キリストが鞭打たれる場面を表している^[1]。闇に浮かぶ円柱につながれたキリストは、左足を踏み出すようにして体をよじっている。古代彫刻を思わせるその堂々たる身体は、光を浴びてひときわ輝いている^[1]^[2]。右手の兵士はキリストを縛りつけ、左手の兵士は茨の枝の鞭を手にしつつ、激しい形相でキリストの髪の毛を掴んでいる。左手前の陰の中に屈むもう1人の兵士は、茨の枝を束ねて鞭を作っているところである。この人物は、フィレンツェのウフィツィ美術館にある有名なヘレニズム時代の古代彫刻『アッロティーノ（英語版）』 (刃を研ぐスキタイ人) の複製版画にもとづいているといわれる^[1]。

カラヴァッジョはこの作品を描くにあたり、ローマのサン・ピエトロ・イン・モントリオ教会にあるセバスティアーノ・デル・ピオンボによる有名な壁画『キリストの鞭打ち』を念頭に置いていたであろう^[1]。一方、キリストのポーズについては、ブレシア出身の画家ロマニーノ（英語版）の『キリストの鞭打ち』を参照した可能性がある。このロマニーノの作品は祝祭用の旗織であるが、版画でもよく知られていたからである^[1]。本作で、カラヴァッジョの劇的な光の用い方は完成の域に達している^[1]。絵画に見られる明暗表現や暴力性はナポリの画家たちに衝撃を与え、バッティステッロ・カラッチョロやスペイン人画家ホセ・デ・リベーラに代表されるナポリ派絵画の勃興につながった ^[2]。

ギャラリー

カラヴァッジョ『柱につながれたキリスト』 (1606-1607年)、ルーアン美術館
ヘレニズム時代の彫刻『アッロティーノ（英語版）』 (紀元前1世紀) の複製、ウフィツィ美術館、フィレンツェ
セバスティアーノ・デル・ピオンボ『キリストの鞭打ち』(1516年以降)、サン・ピエトロ・イン・モントリオ教会、ローマ
ロマニーノ（英語版）『キリストの鞭打ち』(1540年ごろ)、メトロポリタン美術館、ニューヨーク

脚注

^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h ⁱ ^j 石鍋、2018年、441-444頁
^ ^a ^b ^c ^d ^e 宮下、2007年、178-179頁。
^ “Web Gallery of Art, searchable fine arts image database”. Web Gallery of Art, searchable fine arts image database. 2025年2月23日閲覧。
^ 石鍋、2018年、445頁
^ “The Flagellation of Christ”. ルーアン美術館公式サイト (英語). 2025年2月19日閲覧。

参考文献

石鍋真澄『カラヴァッジョ　ほんとうはどんな画家だったのか』、平凡社、2022年刊行 ISBN 978-4-582-65211-6
宮下規久郎『カラヴァッジョへの旅　天才画家の光と闇』、角川選書、2007年刊行 ISBN 978-4-04-703416-7
Ragozzino, Marta (1997). Caravaggio. Florence: Giunti. ISBN 88-09-21217-7

外部リンク

Web Gallery of Artサイト、カラヴァッジョ『キリストの鞭打ち』 (英語)

[IM-1] ^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g ^h ⁱ ^j 石鍋、2018年、441-444頁

[MK-2] 宮下、2007年、178-179頁。

[WG-3] “Web Gallery of Art, searchable fine arts image database”. Web Gallery of Art, searchable fine arts image database. 2025年2月23日閲覧。

[IM2-4] 石鍋、2018年、445頁

[MR-5] “The Flagellation of Christ”. ルーアン美術館公式サイト (英語). 2025年2月19日閲覧。

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表話編歴ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
1600年以前の作品	『病めるバッカス』（1593年頃）『果物籠を持つ少年』（1593年頃）『トランプ詐欺師』（1594年頃）『悔悛するマグダラのマリア』（1594年–1595年頃）『奏楽者たち』（1595年頃）『法悦の聖フランチェスコ』（1595年頃）『トカゲに噛まれた少年』（1594年–1596年頃）『リュート奏者』（1595-1596年）『バッカス』（1596年頃）『エジプト逃避途上の休息』（1597年頃）『ユピテル、ネプトゥヌスとプルート』（1597年頃）『女占い師』（1595年-1598年頃）『メドゥーサの首』（1597年-1598年頃）『マッフェオ・バルベリーニの肖像』（1598年頃）『アレクサンドリアの聖カタリナ』（1598年頃）『マルタとマグダラのマリア』（1598年頃）『ナルキッソス』（1597年-1599年頃）『ホロフェルネスの首を斬るユディト』（1598年-1599年頃）『ダヴィデとゴリアテ』（1599年頃）『果物籠』（1597-1600年頃）
1600年-1606年の作品	『聖マタイの殉教』（1599年-1600年）『聖マタイの召命』（1599年-1600年）『聖パウロの回心 (オデスカルキ・コレクション)』（1600年–1601年）『ゴリアテの首を持つダヴィデ (美術史美術館)』（1600-1601年頃）『聖ペテロの磔刑』（1601年）『聖パウロの回心 (チェラージ礼拝堂)』（1601年）『エマオの晩餐 (ロンドン)』（1601年）『愛の勝利』（1601年–1602年）『聖トマスの不信』（1601年–1602年）『洗礼者ヨハネ (カピトリーノ美術館)』（1602年）『聖マタイと天使』（1602年）『キリストの捕縛』（1602年頃）『イサクの犠牲』（1603年頃）『キリストの荊冠』（1601-1603年頃）『ロザリオの聖母』（1601年–1603年頃）『祈る聖フランチェスコ』（1602年-1604年頃）『キリストの埋葬』（1603年–1604年）『洗礼者ヨハネ (ネルソン・アトキンス美術館)』 (1604年) 『瞑想する聖ヒエロニムス』（1605年）『聖母の死』（1601年-1606年頃）『ロレートの聖母』（1603年-1606年頃）『洗礼者ヨハネ (コルシーニ絵画館)』（1604年-1606年）『聖アンナと聖母子』（1605年–1606年）『書斎の聖ヒエロニムス』（1605年–1606年頃）『エマオの晩餐（ミラノ）』（1606年）
1607年以降の作品	『柱につながれたキリスト』（1606-1607年）『キリストの鞭打ち』（1607年）『慈悲の七つの行い』（1607年）『聖アンデレの磔刑』（1607年）『アロフ・ド・ヴィニャクールと小姓の肖像』（1607年–1608年）『洗礼者聖ヨハネの斬首』（1608年）『眠るアモール』（1608年）『アントニオ・マルテッリの肖像』（1608年）『執筆する聖ヒエロニムス』（1608年）『聖ルチアの埋葬』（1608年）『受胎告知』（1608年頃）『エッケ・ホモ』（1605-1609年）『ラザロの復活』（1609年頃）『羊飼いの礼拝』（1609年）『瞑想する聖フランチェスコ』（1604-1610年）『洗礼者ヨハネの首を持つサロメ』（1607-1610年）『洗礼者ヨハネの首を受け取るサロメ』（1607-1610年）『ゴリアテの首を持つダヴィデ (ボルゲーゼ美術館)』（1609-1610年）『洗礼者ヨハネ (ボルゲーゼ美術館)』（1609-1610年）『聖ペテロの否認』（1610年）『聖ウルスラの殉教』（1610年）

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