ゴリアテの首を持つダヴィデ_(カラヴァッジョ、ウィーン)とは？わかりやすく解説

『ゴリアテの首を持つダヴィデ』
	ドイツ語: David mit dem Haupt des Goliath; 英語: 　David with the Head of Goliath
作者	ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
製作年	1600-1601年ごろ
種類	ポプラ板上に油彩
寸法	90.5 cm × 116.5 cm (35.6 in × 45.9 in)
所蔵	美術史美術館、ウィーン

『ゴリアテの首を持つダヴィデ』（ゴリアテのくびをもつダヴィデ、独: David mit dem Haupt des Goliath、英: David with the Head of Goliath）は、イタリア・バロック期の巨匠カラヴァッジョが制作した絵画である。カラヴァッジョへの帰属については議論の対象となってきた作品で^[1]、彼の作品としては珍しく、キャンバスではなくポプラ板上に油彩で描かれている^[1]^[2]^[3]^[4]。主題は、『旧約聖書』の「サムエル記上」(13-17章ほか) に記述されるダヴィデ^[5]の逸話である。現在、ウィーンの美術史美術館に所蔵されている^[1]^[2]^[3]^[4]^[6]。制作年については、所蔵先の美術史美術館は『ロザリオの聖母』 (美術史美術館、ウィーン) など画家のローマ時代の作品との類似性により1600-1601年ごろとしている^[2]^[4]が、ナポリ時代の1606-1607年ごろとする見方もある^[1]^[3]^[6]。

作品

イタリアの美術理論家ジョヴァンニ・ピエトロ・ベッローリによると、イタリアにいたスペインの第2代ビリャメディアーナ伯爵フアン・デ・タシス（英語版）がカラヴァッジョの『ダヴィデ』を所有していたが、半身像と記述されるその作品が本作に該当するようである^[2]^[7]。その後、作品はチャールズ1世 (イングランド王) のコレクションに入り^[2]、最終的に1667年にレオポルト1世 (神聖ローマ皇帝) が取得した^[2]^[3]。

カラヴァッジョ『ダヴィデとゴリアテ』 (1598-1599年)、プラド美術館、マドリード

カラヴァッジョ『ゴリアテの首を持つダヴィデ』 (1609-1610年)、ボルゲーゼ美術館、ローマ

『サムエル記上』 (17章12-58) によれば、若き羊飼いのダヴィデは竪琴の名手であるだけでなく、勇敢な戦士でもあった^[5]。ある時、ダヴィデはペリシテ人との戦いで身の丈3メートルもある大男ゴリアテを額への投石の一撃だけで即死させ、彼の首を斬り落とした^[5]^[7]^[8]。これによりペリシテ人は敗走し、ダヴィデは人々の称賛を浴びて、やがて優れた軍事指導者、そしてイスラエルの王となる^[5]^[8]。ダヴィデの主題はカラヴァッジョには特別なものであったようで、本作以外にもプラド美術館 (マドリード) の『ダヴィデとゴリアテ』^[7]^[8]とボルゲーゼ美術館 (ローマ) の『ゴリアテの首を持つダヴィデ』^[9]を描いている。

本作でカラヴァッジョは風景や副次的な人物を一切取り除き、強烈な光を画面に当てることで物語を劇的に演出している^[6]。非常に若いダヴィデには自分に与えられた任務をこなそうとする強い意思がうかがわれる。服装は羊飼いのもので、肩から吊るしている袋も羊飼いが身に着けるものである。一方、肩に載せられた剣は古代のものではなく、カラヴァッジョの時代のものとなっている^[6]。

ダヴィデは力強くゴリアテの髪の毛を掴んでいる。当時、頭髪を掴まれることは屈辱とされたため、カラヴァッジョはあえてこのような描写でゴリアテの敗北を表現したのであろう^[6]。首の切断面は非常にリアルであるが、ゴリアテの顔はカラヴァッジョ自身の自画像であるとする見方がある^[6]。額の傷はダヴィデによる投石の傷であると同時に、作品の制作年が1606-1607年であるとすれば、カラヴァッジョがナポリで負傷した際の傷跡を示すともいわれる^[6]。

なお、X線画像で、本作の画面の下にはおそらくマニエリスム期の画家の手になると思われるヴィーナスとマルス、キューピッドが描かれていることが判明している^[1]。

脚注

^ ^a ^b ^c ^d ^e “David with the Head of Goliath”. Web Gallery of Artサイト (英語). 2025年3月14日閲覧。
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f “David with Goliath’s Head”. 美術史美術館公式サイト (英語). 2025年3月14日閲覧。
^ ^a ^b ^c ^d ウイーン美術史美術館絵画、スカラ・ブックス、1997年、42頁。
^ ^a ^b ^c 石鍋、2018年、229-230頁
^ ^a ^b ^c ^d 大島力　2013年、66-67頁。
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g 大島力　2013年、68-69頁。
^ ^a ^b ^c “David with the Head of Goliath”. プラド美術館公式サイト (英語). 2025年2月14日閲覧。
^ ^a ^b ^c 国立プラド美術館 2009, p. 282.
^ “David with the Head of Goliath”. ボルゲーゼ美術館公式サイト (英語). 2025年1月21日閲覧。

参考文献

石鍋真澄『カラヴァッジョ　ほんとうはどんな画家だったのか』、平凡社、2022年刊行 ISBN 978-4-582-65211-6
『ウイーン美術史美術館絵画』、スカラ・ブックス、1997年　ISBN 3-406-42177-6
大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行　ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク

[ReferenceWG-1] “David with the Head of Goliath”. Web Gallery of Artサイト (英語). 2025年3月14日閲覧。

[ReferenceKH-2] ^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f “David with Goliath’s Head”. 美術史美術館公式サイト (英語). 2025年3月14日閲覧。

[ReferenceSB-3] ウイーン美術史美術館絵画、スカラ・ブックス、1997年、42頁。

[IM-4] 石鍋、2018年、229-230頁

[OS-5] 大島力　2013年、66-67頁。

[OS2-6] ^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f ^g 大島力　2013年、68-69頁。

[ReferenceMP-7] “David with the Head of Goliath”. プラド美術館公式サイト (英語). 2025年2月14日閲覧。

[FOOTNOTE国立プラド美術館2009282-8] 国立プラド美術館 2009, p. 282.

[ReferenceGB-9] “David with the Head of Goliath”. ボルゲーゼ美術館公式サイト (英語). 2025年1月21日閲覧。

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表話編歴ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
1600年以前の作品	『病めるバッカス』（1593年頃）『果物籠を持つ少年』（1593年頃）『トランプ詐欺師』（1594年頃）『悔悛するマグダラのマリア』（1594年–1595年頃）『奏楽者たち』（1595年頃）『法悦の聖フランチェスコ』（1595年頃）『トカゲに噛まれた少年』（1594年–1596年頃）『リュート奏者』（1595-1596年）『バッカス』（1596年頃）『エジプト逃避途上の休息』（1597年頃）『ユピテル、ネプトゥヌスとプルート』（1597年頃）『女占い師』（1595年-1598年頃）『メドゥーサの首』（1597年-1598年頃）『マッフェオ・バルベリーニの肖像』（1598年頃）『アレクサンドリアの聖カタリナ』（1598年頃）『マルタとマグダラのマリア』（1598年頃）『ナルキッソス』（1597年-1599年頃）『ホロフェルネスの首を斬るユディト』（1598年-1599年頃）『ダヴィデとゴリアテ』（1599年頃）『果物籠』（1597-1600年頃）
1600年-1606年の作品	『聖マタイの殉教』（1599年-1600年）『聖マタイの召命』（1599年-1600年）『聖パウロの回心 (オデスカルキ・コレクション)』（1600年–1601年）『ゴリアテの首を持つダヴィデ (美術史美術館)』（1600-1601年頃）『聖ペテロの磔刑』（1601年）『聖パウロの回心 (チェラージ礼拝堂)』（1601年）『エマオの晩餐 (ロンドン)』（1601年）『愛の勝利』（1601年–1602年）『聖トマスの不信』（1601年–1602年）『洗礼者ヨハネ (カピトリーノ美術館)』（1602年）『聖マタイと天使』（1602年）『キリストの捕縛』（1602年頃）『イサクの犠牲』（1603年頃）『キリストの荊冠』（1601-1603年頃）『ロザリオの聖母』（1601年–1603年頃）『祈る聖フランチェスコ』（1602年-1604年頃）『キリストの埋葬』（1603年–1604年）『洗礼者ヨハネ (ネルソン・アトキンス美術館)』 (1604年) 『瞑想する聖ヒエロニムス』（1605年）『聖母の死』（1601年-1606年頃）『ロレートの聖母』（1603年-1606年頃）『洗礼者ヨハネ (コルシーニ絵画館)』（1604年-1606年）『聖アンナと聖母子』（1605年–1606年）『書斎の聖ヒエロニムス』（1605年–1606年頃）『エマオの晩餐（ミラノ）』（1606年）
1607年以降の作品	『柱につながれたキリスト』（1606-1607年）『キリストの鞭打ち』（1607年）『慈悲の七つの行い』（1607年）『聖アンデレの磔刑』（1607年）『アロフ・ド・ヴィニャクールと小姓の肖像』（1607年–1608年）『洗礼者聖ヨハネの斬首』（1608年）『眠るアモール』（1608年）『アントニオ・マルテッリの肖像』（1608年）『執筆する聖ヒエロニムス』（1608年）『聖ルチアの埋葬』（1608年）『受胎告知』（1608年頃）『エッケ・ホモ』（1605-1609年）『ラザロの復活』（1609年頃）『羊飼いの礼拝』（1609年）『瞑想する聖フランチェスコ』（1604-1610年）『洗礼者ヨハネの首を持つサロメ』（1607-1610年）『洗礼者ヨハネの首を受け取るサロメ』（1607-1610年）『ゴリアテの首を持つダヴィデ (ボルゲーゼ美術館)』（1609-1610年）『洗礼者ヨハネ (ボルゲーゼ美術館)』（1609-1610年）『聖ペテロの否認』（1610年）『聖ウルスラの殉教』（1610年）

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