ウィーバー症候群とは? わかりやすく解説

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ウィーバー症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/31 05:27 UTC 版)

Weaver syndrome
別称 Weaver–Smith syndrome
概要
分類および外部参照情報

ウィーバー症候群(ウィーバーしょうこうぐん、: Weaver syndrome)は、出生前から若年期を通じて持続する急速な成長と関連した、極めて稀な常染色体顕性型遺伝疾患である。この疾患は、骨の成熟の進行や特徴的な頭蓋顔面、骨格、神経学的異常によって特徴づけられる[1]。この疾患の症状はソトス症候群のものと類似しており、過成長症候群英語版に分類される。

この疾患はアメリカ合衆国の医師David Weaverによって1974年に初めて記載され[2]、2011年にはこの疾患の原因がEZH2遺伝子の変異であることが特定された[3]。2013年時点では48症例が記載され、確定診断が下されている[4]。この疾患の有病率はソトス症候群と同程度の15000人に1人と推計されている[5]

症状と徴候

ウィーバー症候群の小児は、類似した特徴的な身体・頭蓋顔面を有する。次に挙げるような特徴のうち、全てではないもののいくつかが含まれている[6]

他の特徴としては、たるんだ皮膚、薄くくぼんだ爪、細い毛髪、短い肋骨、肘や膝の伸展の制限、屈指症英語版、粗く低い声などがみられる可能性がある。座ったり、立ったり、歩いたりといった運動機能の発達の遅れは小児期の初期に広くみられる。ウィーバー症候群の患者には一般的に、協調や平衡の問題を伴う軽度の知的障害がみられる[7]

原因

ウィーバー症候群の原因が染色体7q36領域に位置するEZH2遺伝子の常染色体顕性型突然変異であることが2011年に特定されている[3]。EZH2は、ヒトの過成長と関連していることが明らかにされた、2つ目のヒストンメチルトランスフェラーゼである。EZH2はPRC2複合体の触媒構成要素であり、この複合体はクロマチン構造と遺伝子発現を調節し、転写を抑制することが知られている。また、EZH2は幹細胞の維持や、骨形成、筋形成、リンパ球形成、造血など細胞系統の決定にも重要な役割を果たしている。

また、ウィーバー症候群は5q35領域に位置するNSD1英語版遺伝子の変異と関連している場合もある。NSD1は機能が不明確なヒストンメチルトランスフェラーゼであるが、発生時のクロマチンを介した調節に関与するドメインを有しており、転写に影響を及ぼす因子として作用すると考えられている[8]

ウィーバー症候群の症例の大部分は家族歴のない孤発例であるが、常染色体顕性型遺伝家系の症例もいくつか報告されている[9]

診断

鑑別診断

ウィーバー症候群とソトス症候群は、表現型が大きく重複し、類似しているため、互いに取り違えられることも多い[8]。双方の症候群に共通する臨床的特徴としては、発生初期の過成長、骨年齢の進行、発生の遅れ、顕著な大頭症が挙げられる[3]。また、NSD1遺伝子の変異も混乱をもたらす他の要因の1つとなっている可能性がある。NSD1遺伝子は正常な成長と発生に関与するタンパク質の合成のための指示を出している。NSD1遺伝子の欠失や変異はソトス症候群の患者の一般的な原因の1つであり、またウィーバー症候群の一部の症例でも同様に観察される[6]

ソトス症候群との差異となるウィーバー症候群の特徴としては、広い額と顔面、両眼隔離、顕著に幅広い人中、小顎症英語版、くぼんだ爪、深いしわを伴う下顎後退、出生前発育の増大、そして中手骨や指骨と比較して手根骨の骨年齢が大きく進行していることが挙げられる[3]

治療と予後

ウィーバー症候群には治癒をもたらす治療法は存在せず、症状を管理する支持療法が行われる。筋硬直、脚、指趾の曲がりには理学療法が有用であるが、指趾や脚の問題には手術が必要となる可能性がある。小児には個別的な教育プランが有用である可能性がある[10][11]。適切な治療とサポートを行うことで、患者は通常の生活を送ることができる[12]

疫学

ウィーバー症候群の原因変異は2011年に同定されたばかりであるため、その発生率に関する確定的な情報は得られていない。2013年時点では48症例が記載され、確定診断が下されている[4][13]。2012年には、ロンドンのSt George's HospitalのSouth West Thames Regional Genetic Serviceによって、Childhood Overgrowth Studyの患者コホートにおける検出率からソトス症候群と同程度の約15,000人に1人の有病率であると推定されている[5]

出典

  1. ^ Crawford, Mark W.; Rohan, Denise (2005-10). “The upper airway in Weaver syndrome”. Paediatric Anaesthesia 15 (10): 893–896. doi:10.1111/j.1460-9592.2004.01545.x. ISSN 1155-5645. PMID 16176320. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16176320. 
  2. ^ “A new overgrowth syndrome with accelerated skeletal maturation, unusual facies, and al=J. Pediatr.”. The Journal of Pediatrics 84 (4): 547–52. (1974). doi:10.1016/s0022-3476(74)80675-x. PMID 4366187. 
  3. ^ a b c d Gibson, William T.; Hood, Rebecca L.; Zhan, Shing Hei; Bulman, Dennis E.; Fejes, Anthony P.; Moore, Richard; Mungall, Andrew J.; Eydoux, Patrice et al. (2012-01-13). “Mutations in EZH2 cause Weaver syndrome”. American Journal of Human Genetics 90 (1): 110–118. doi:10.1016/j.ajhg.2011.11.018. ISSN 1537-6605. PMC 3257956. PMID 22177091. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3257956/. 
  4. ^ a b Tatton-Brown, Katrina; Murray, Anne; Hanks, Sandra; Douglas, Jenny; Armstrong, Ruth; Banka, Siddharth; Bird, Lynne M.; Clericuzio, Carol L. et al. (December 2013). “Weaver syndrome and EZH2 mutations: Clarifying the clinical phenotype”. American Journal of Medical Genetics. Part A 161A (12): 2972–2980. doi:10.1002/ajmg.a.36229. ISSN 1552-4833. PMID 24214728. https://www.zora.uzh.ch/id/eprint/89426/1/Tatton-BrownK%2C_2013.pdf. 
  5. ^ a b Proposal form for the evaluation of a genetic test for NHS Service Gene Dossier/Additional Provider”. UK Genetic Testing Network (September 2012). 5 November 2019時点のオリジナルよりアーカイブ。5 November 2019閲覧。
  6. ^ a b Rio, M (2003-06-01). “Spectrum of NSD1 mutations in Sotos and Weaver syndromes”. Journal of Medical Genetics (BMJ) 40 (6): 436–440. doi:10.1136/jmg.40.6.436. ISSN 1468-6244. PMC 1735492. PMID 12807965. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1735492/. 
  7. ^ Genetics Home Reference. “Weaver syndrome”. U.S. National Library of Medicine. 9 November 2013閲覧。
  8. ^ a b “NSD1 mutations are the major cause of Sotos syndrome and occur in some cases of Weaver syndrome but are rare in other overgrowth phenotypes”. Am. J. Hum. Genet. 72 (1): 132–43. (2003). doi:10.1086/345647. PMC 378618. PMID 12464997. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC378618/. 
  9. ^ Cole, Trevor R.P., N.R. Dennis, and Helen E. Hughes. "Weaver Syndrome: Seven New Cases and a Review of the Literature." In Congenital Malformation Syndromes. New York: Chapman and Hall Medical, 1995, pp. 267-280.
  10. ^ Weaver Syndrome: Symptoms, Causes, Diagnosis, Treatment & Outlook” (英語). Cleveland Clinic. 2024年12月30日閲覧。
  11. ^ Weaver Syndrome - Symptoms, Causes, Treatment | NORD” (英語). rarediseases.org. 2024年12月30日閲覧。
  12. ^ Orphanet: Weaver syndrome”. www.orpha.net. 2024年12月30日閲覧。
  13. ^ Reference, Genetics Home. “Weaver syndrome” (英語). Genetics Home Reference. 2019年11月5日閲覧。

関連項目

  • ベックウィズ・ヴィーデマン症候群英語版
  • パールマン症候群英語版

外部リンク


ウィーバー症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/19 23:35 UTC 版)

EZH2」の記事における「ウィーバー症候群」の解説

EZH2遺伝子変異はウィーバー症候群と関連付けられている。ウィーバー症候群は、骨年齢促進大頭症(英語版)、両眼隔離症(英語版)によって特徴づけられる稀少疾患である。ウィーバー症候群と診断され患者では、EZH2活性部位のヒスチジン残基がチロシンに変異している。この変異補因子結合阻害しタンパク質正常な機能失われている可能性が高い。

※この「ウィーバー症候群」の解説は、「EZH2」の解説の一部です。
「ウィーバー症候群」を含む「EZH2」の記事については、「EZH2」の概要を参照ください。

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