インペトゥス論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/06 14:51 UTC 版)
「ジャン・ビュリダン」の記事における「インペトゥス論」の解説
慣性の概念はアリストテレスの運動論とは異質である。アリストテレスならびに逍遙学派の後継者たちは、物体の運動は、外部から力が継続的に加えられる場合にのみ持続すると考えた。つまり、アリストテレスの見解(今日の知見からすると完全に間違いである)によると投射体は周囲の空気から力を加えられるために運動し続けるのであり、普通の物体の運動がすぐに停止するのは近接力が働かないためである。 ジャン・ビュリダンはピロポノス(Philoponus)の注釈とイブン・スィーナー(アウィケンナ)の著作に基づき、物体はそれ自体が有する何らかの量(運動の初めに与えられた量)によって運動を続けるのだと主張した。ビュリダンはその量を"impetus"「インペトゥス」(「駆動力」などの訳語あり)と呼んだ。さらに、彼はインペトゥスが自然に散逸するという考えを否定し、物体は空気抵抗および重力によって止められるのだと断言した。これは従来の理論とは全く逆である。ビュリダンは、物体の持つインペトゥスは、物体が運動し始めた時の速さ(初速)および物体を構成する物質の量(質量)と正の相関関係を持つと考えた。ビュリダンの言うところのインペトゥスが、現代的な運動量の概念と近いことは明白である。彼はインペトゥスを物体の運動の原因と見なした。 ビュリダンはインペトゥス論により、投射体の運動を(定性的ながら)正確に説明した。しかし彼にとってこの理論はあくまでアリストテレスに対する一つの修正に過ぎず、「運動」と「静止」を質的に全く別物と見なすアリストテレス的(逍遙学派的)な基本理念は揺るいでいなかった。 なおインペトゥス論は直線運動や放物運動だけではなく、天体の円運動を説明するためにも使われた(ビュリダンの力学的知見を天文学に適用した人物の代表として、天文学者ニコル・オレームが挙げられる)。
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