アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー
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| 「I Can't Quit You Baby」 | ||||||||
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| オーティス・ラッシュ の シングル | ||||||||
| B面 | Sit Down Baby | |||||||
| リリース | ||||||||
| 規格 | 7インチ/SPシングル | |||||||
| 録音 | ||||||||
| ジャンル | ブルース | |||||||
| 時間 | ||||||||
| レーベル | コブラ 5000 | |||||||
| 作詞・作曲 | ウィリー・ディクスン | |||||||
| プロデュース | ウィリー・ディクスン | |||||||
| オーティス・ラッシュ シングル 年表 | ||||||||
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「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー」(「I Can't Quit You Baby」)はウィリー・ディクスンが書いたブルースの楽曲であり、1956年にシカゴ・ブルースのアーティスト、オーティス・ラッシュが初めてレコーディングをした[2]。12小節のスロー・ブルースであり、止めることができない不倫の関係について歌った内容である。
ラッシュにとってはデビュー曲に当たり、コブラ・レコードの初のシングル・レコードでもあった。1956年の秋にビルボードR&Bチャート6位を記録するヒットとなり[3][4]、ブルースのスタンダード曲として知られるようになった。ラッシュはアレンジを変えて1966年に再レコーディングしており、レッド・ツェッペリンはそのアレンジを採用した演奏を彼らの1969年のデビュー・アルバムに収録した。
オリジナル・バージョン
伝記作家の稲葉光俊によると、「この歌は不倫の結末と、女性との関係を諦められない男性の気持ち歌ったものである[5]」
お前を手放せないよ、ベイビー
しかし、暫く離れなければならないんだ
わかるだろう、お前を手放せないよ、ベイビー
しかし、暫く離れなければならないんだ
お前は俺の幸せな家庭を滅茶苦茶にしたんだよ、ベイビー
たった一人の我が子に手を挙げる羽目になってしまった[6]
ウィリー・ディクスンが自伝の中で語ったところによると、「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー」は、ラッシュが当時実際に置かれていた男女関係について書かれたものであり、それによって、ラッシュの情熱的なパフォーマンスを引き出すことができたとのことである[6]。この曲の作者はディクスンの単独クレジットとなっているものの、ラッシュはこの曲のアイデンティティはまさに自分自身のものだと考えていた:
ウィリーはただ曲をハミングしただけで、何も演奏はしませんでしたよ。曲の展開を示すフレーズをいくつか教えてくれたのですが、私はほぼ自分だけで曲を仕上げました。歌い方もギターの弾き方も、自分のやりたいようにやったんです[5]。
稲葉はこう言い添えている:「地声、ファルセット、シャウト、うなり声を交互に織り交ぜたオーティスの情熱的なボーカルのメロディーは、まさに彼の歌唱スタイルと言える[5]。」この曲のキーはAメジャーで、12/8拍子、スロー・ブルースのテンポで展開する[7]。ラッシュのオリジナル・バージョンは12小節のボーカルのヴァース4つで構成される。ヴォーカルの裏にギターのオブリガートが入る形となっているが、ギター・ソロはない。ラッシュの初レコーディングであり、1956年7月頃、シカゴで収録された[4]。
ラッシュとコブラ・レコードの双方にとって「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー」は初のシングルであったため、アレンジャー兼プロデューサーのディクスンは、両者を立ち上げる手段としてこの曲を使ったのであった[6]。この点においてこの曲は成功を収め、1956年にビルボードR&Bチャートで6位を記録している[8]。
オーティス・ラッシュは、キャリアの中で何度かこの曲をレコーディングしている。1966年のブルースのコンピレーション・アルバム『Chicago/The Blues/Today Vol. 2』における再レコーディング[9]では、アレンジに変更が加えられ、珍しいターンアラウンド(12小節の最後の2小節で主音コードAに続いて、その半音上のコードBbに移行する)が使われている[10][11]。これ以降にリリースされたカバー・バージョンには、このコード進行が使われたものも多い[10]。1999年リリースのブルース・アーティストによるレッド・ツェッペリンのカバー集『Whole Lotta Blues - Songs Of Led Zeppelin』の中でもラッシュはエリック・ゲイルズとともにこの曲の再演をしているが、原曲の形を留めないアップテンポなアレンジとなっている[12]。
レコーディング・メンバー
- オーティス・ラッシュ Otis Rush - リードギター、ボーカル
- ラファイエット・リーク Lafayette Leake - ピアノ
- ウォルター・ホートン Big Walter Horton - ハーモニカ
- ジェイムズ・"レッド"・ホロウェイ James "Red" Holloway - テナー・サクソフォーン
- ウェイン・ベネット Wayne Bennett - ギター
- ウィリー・ディクスン Willie Dixon - ベース
- アル・ダンカン Al Duncan - ドラムス
レッド・ツェッペリンのバージョン
| 「I Can't Quit You Baby 君から離れられない」 |
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| 楽曲 | ||||||||
| 録音 | ||||||||
| ジャンル | ブルースロック | |||||||
| 時間 | 4分42秒 | |||||||
| レーベル | アトランティック | |||||||
| 作詞者 | ウィリー・ディクスン | |||||||
| プロデュース | ジミー・ペイジ | |||||||
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イギリスのロック・バンド、レッド・ツェッペリンは、1969年のデビュー・アルバム『レッド・ツェッペリン I』でこの曲をレコーディングした[15]。日本盤においては、彼らのバージョンには「君から離れられない」との邦題が付けられている[16]。
音楽ジャーナリストのカブ・コーダによると、彼らのバージョンは演奏やダイナミックスは異なるものの[17]、「一音一音オーティス・ラッシュの1966年のヴァンガード・レコーディングをコピーしたもの」であるという[18]。彼らのバージョンではまた、ギター・ソロの最中にブレイクが入り、ジミー・ペイジはバックの演奏がない状態で4小節ほどプレイをした後に、再びソロが続くという形を取っている。伝記作家のキース・シャドウィックは、ソロからのターンアラウンド部分におけるペイジのミスを指摘しているものの、この曲は「結果としてすべてが古典的なブルースの伝統から逸脱することなく、平坦な部分がなく、完全に対称的な形なっており、ファースト・アルバムで最もよくできた曲の一つとなった」と結論付けている[17]。
レッド・ツェッペリンは1968年から1970年初頭にかけて、この曲を定番曲として演奏していた[19]。1969年の2つの演奏が1997年リリースの『BBCライヴ』に収録されている。1970年1月9日、ロイヤル・アルバート・ホールでの演奏は2003年リリースの『レッド・ツェッペリン DVD』に収録された。(このバージョンの編集されたものは、1982年のアルバム『最終楽章 (コーダ)』でリリースされている。この曲は、1970年に『レッド・ツェッペリン III』の楽曲を追加したのに伴い、レッド・ツェッペリンの通常のコンサートでの演奏曲からは外された。主に「貴方を愛しつづけて」に置き換わる形となっている。しかしながら、1972年、1973年のレッド・ツェッペリンのコンサートにおいては、「胸いっぱいの愛を」の中のメドレーの一部として再び演奏された[19]。1988年5月14日のアトランティック・レコード40周年コンサートのためにこの曲は、存命のメンバー3人によってリハーサルされたものの、本番では演奏されなかった[19]。
近年の『最終楽章 (コーダ)』のレビューの中で、ローリング・ストーン誌のカート・ローダーは、ここに収録された「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー」について「サウンドチェックをすっ飛ばし、この当時のブルースマニアたる姿を完璧に捉えており、過剰とも言える古典的なギター・ソロを披露している」と評した[20]。
レコーディング・メンバー
- ロバート・プラント Robert Plant - ボーカル
- ジミー・ペイジ Jimmy Page - ギター
- ジョン・ポール・ジョーンズ John Paul Jones - ベース
- ジョン・ボーナム John Bonham - ドラムス
認知の広がりと影響力
「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー」はブルースのスタンダード曲として知られるようになり[2]、30以上のアーティストによってレコーディングされている[21][22]。ラッシュのオリジナル・バージョンのコブラ・レコードのシングルは、1994年にブルース・ファウンデーションの殿堂に加えられ、「ウィリー・ディクスンのプロデュースにより、ラッシュが情熱的なアプローチを持つ並外れた才能の持ち主であることが明らかになった」とされた[4]。
その他の主なカバー・バージョン
| 年 | アーティスト名 | 収録アルバム |
|---|---|---|
| 1964年 | クラレンス・エドワーズ | 『The Country Blues』 |
| 1966年 | サヴォイ・ブラウンズ・ブルース・バンド | シングル・リリース |
| 1967年 | ジョン・メイオールズ・ブルースブレイカーズ | 『Crusade』 |
| 1969年 | リトル・ミルトン | 『Grits Ain't Groceries』 |
| 1970年 | ウィリー・ディクスン | 『I Am The Blues』 |
| 1970年 | ダコタ・ステイトン | 『I've Been There』 |
| 1979年 | ルーサー・アリソン | 『Live In Paris』 |
| 1991年 | ジョン・リー・フッカー | 『More Real Folk Blues - The Missing Album Album』 |
| 1992年 | パット・トラヴァーズ | 『Blues Tracks』 |
| 2000年 | ジェイムズ・コットン | 『It Was A Very Good Year』 |
| 2003年 | ファビュラス・サンダーバーズ | 『Tacos Deluxe』 |
| 2004年 | ゲイリー・ムーア | 『Power Of The Blues』 |
| 2005年 | レスリー・ウェスト | 『Got Blooze』 |
| 2016年 | ローリング・ストーンズ | 『Blue & Lonesome』 |
脚注
- ^ “45cat - Otis Rush - I Can't Quit You Baby / Sit Down Baby - Cobra - USA - 5000”. 45cat. 2025年11月5日閲覧。
- ^ a b Gerard Herzhaft (1992). “I Can't Quit You Baby”. Encyclopedia of the Blues. Fayetteville, Arkansas: University of Arkansas Press. p. 453. ISBN 1-55728-252-8.
- ^ “Otis Rush Top Songs Greatest Hits and Chart Singles Discography”. MusicVF.com-US & UK hit charts. 2025年10月30日閲覧。
- ^ a b c d “I Can’t Quit You Baby — Otis Rush (Cobra 1956)”. The Blues Foundation. 2025年10月30日閲覧。
- ^ a b c 稲葉光俊 (2011). Willie Dixon: Preacher of the Blues. Lanham, Maryland: Scarecrow Press. pp. 158–159. ISBN 978-0810869936
- ^ a b c Willie Dixon; Don Snowden (1989). I Am the Blues. Da Capo Press. pp. 102, 106–107. ISBN 0-306-80415-8
- ^ Hal Leonard (1995). “I Can't Quit You Baby”. The Blues. Milwaukee, Wisconsin: Hal Leonard. p. 100. ISBN 0-79355-259-1
- ^ Joel Whitburn (1988). Top R&B Singles 1942–1988. Menomonee Falls, Wisconsin: Record Research. p. 301. ISBN 0-89820-068-7
- ^ Jim O'Neal (2016年11月10日). “Chicago/The Blues/Today! Vol. 1-3 – Various Artists (Vanguard, 1966)”. Blues Foundation. 2025年10月30日閲覧。
- ^ a b Dominique Lawalree (2015) (フランス語). Led Zeppelin: Un guide pour les écouter. Camion Blanc. eBook. ISBN 978-2-35779-740-6
- ^ Elizabeth West Marvin; Richard Hermann, eds (1995). Concert Music, Rock, and Jazz Since 1945. Rochester, New York: University of Rochester Press. p. 327, fn 59. ISBN 1-878822-42-X
- ^ “Various – Whole Lotta Blues - Songs Of Led Zeppelin”. Discogs. 2025年10月30日閲覧。
- ^ Les Fancount; Bob McGrath (2006). The Blues Discography 1943-1970: The Classic Years. Eyeball Productions. p. 545. ISBN 978-0-968-64457-7
- ^ a b c Guesdon & Margotin 2018, p. 76.
- ^ Stephen Thomas Erlewine. “Led Zeppelin [album – Review]”. AllMusic. 2018年1月21日閲覧。
- ^ “LED ZEPPELIN〈Deluxe Edition〉 / レッド・ツェッペリン【2014リマスター/デラックス・エディション】”. Warner Music Japan. 2025年10月30日閲覧。
- ^ a b Keith Shadwick (2005). Led Zeppelin: The Story of a Band and Their Music 1968–1980 (1st ed.). San Francisco: Backbeat Books. pp. 52–53. ISBN 0-87930-871-0
- ^ Koda, Cub. “Chicago/The Blues/Today! – Review”. AllMusic. 2025年10月30日閲覧。
- ^ a b c Dave Lewis (2004). Led Zeppelin: The Complete Guide to Their Music (1st ed.). London: Omnibus Press. ISBN 1-84449-141-2
- ^ Kurt Loder (1983-01-20). “Coda”. Rolling Stone. オリジナルの2018-01-02時点におけるアーカイブ。 2017年7月27日閲覧。.
- ^ “Otis Rush: I Can't Quit You Baby – Also Performed By”. AllMusic. 2025年10月30日閲覧。
- ^ a b “Song - I Can't Quit You Baby”. SecondHandSongs. 2025年10月30日閲覧。
参考文献
- Jean-Michel Guesdon; Philippe Margotin (2018). Led Zeppelin All the Songs: The Story Behind Every Track. Running Press. ISBN 978-0-316-448-67-3
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