「カラマーゾフの兄弟」説
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「蜘蛛の糸」の記事における「「カラマーゾフの兄弟」説」の解説
『カルマ』材源説以前には、ドストエフスキーが1890年に出版した長編小説『カラマーゾフの兄弟』における「1本の葱」の挿話に着想した作品であると考えられていた。 昔あるところに、それはそれは意地の悪い女が住んでいて、ぽっくり死んでしまいました。死ぬまでひとつとして美談がありませんでした。悪魔たちがその女をつかまえ、火の湖に投げ込みました。そこで、その女の守護天使がそばにじっとたたずみながら考えました。 「何かひとつでもこの女が行なった美談を思いだして、神さまにお伝えできないものだろうか」、と。 そこでふと思い出し、神さまにこう告げたのでした。 「この人は野菜畑で葱を一本引き抜き、乞食女に与えました」、と。 すると神さまは天使に答えました。 「ではその葱を取ってきて、火の湖にいるその女に差しだしてあげなさい。それにつかまらせ、引っぱるのです。もしも湖から岸に上がれれば、そのまま天国に行かせてあげよう。でもその葱が切れてしまったら、今と同じところに残るがよい」 天使は女のところに駆け出し、葱を差しだしました。 「さあ女よ、これにつかまって上がってきなさい」 そこで天使はそろそろと女を引きあげにかかりました。そしてもう一歩というところまで来たとき、湖のほかの罪びとたちが、女がひっぱり上げられるのを見て、一緒に引きあげてもらおうと女にしがみついたのです。 するとその女は、それはそれは意地の悪い人でしたから、罪びとたちを両足で蹴りおとしはじめたのでした。 「引っぱりあげてもらってるのはわたしで、あんたたちじゃない、これはわたしの葱で、あんたたちのじゃない」 女がそう口にしたとたん、葱はぶつんとちぎれてしまいました。そして女は湖に落ち、今日の今日まで燃えつづけているのです。 そこで天使は泣き出し、立ち去りました。 — 『カラマーゾフの兄弟3』光文社古典新訳文庫 P78から
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