高温超伝導 超伝導体の名前

高温超伝導

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/19 03:00 UTC 版)

超伝導体の名前

これらの超伝導体は、構成する元素の頭文字をとって呼ばれることが多い。たとえばYBa2Cu3O7-δYBCOと呼ばれ、Bi2Sr2Ca2Cu3O10BSCCO(ビスコ)と呼ばれる。一方、構成元素の物質量比(モル比)で呼ぶこともある。たとえばYBa2Cu3O7-δY123Bi2Sr2Ca2Cu3O10Bi2223などである。

性質

高温超伝導体にはキャリアがホールであるものと、電子のものの2種類がある。前者をホールドープ型、またはp型と呼ばれ、後者は電子ドープ型、またはn型と呼ばれる。

ホールドープ型の高温超伝導体はホール濃度と温度により、右図のような状態をとる。ホール濃度がゼロのとき、反強磁性となり、ドープをすると反強磁性が消え、擬ギャップと呼ばれる状態になる。さらにドープすると超伝導になる。ドープを増やすと超伝導転移温度は上昇する。この領域をアンダードープ領域と呼ぶ。さらにドープすると転移温度は下がる。この領域をオーバードープ領域と呼ぶ。これ以上ドープすると超伝導は消え金属的になる。

機構

高温超伝導においても従来型の超伝導と同様にクーパー対が形成されていることが分かっている。従来型超伝導では、BCS理論により、フォノンを媒介とするクーパー対の形成機構が解明されているのに対し、高温超伝導におけるクーパー対の形成機構に関しては、完全な意見の一致は得られていない。高温超伝導体の発見後すぐに行われた同位体効果実験から、高温超伝導機構はフォノン機構では説明できないとされている。膨大な実験的・理論的な研究により、高温超伝導物質中のCuO22次元面内の電子系における、反強磁性的なスピンの揺らぎを媒介にしたクーパー対形成機構で、高温超伝導の機構を理解できるという立場が主流となっている。しかし酸素の同位体置換により超伝導電子密度が変化するという報告もあり、フォノンも何らかの寄与をしているものと考えられている。

実例

転移温度の例(液体窒素等は比較用)
転移温度
(ケルビン)
転移温度
(摂氏)
素材 分類
294 +21 NLH (高圧下) 水素化物超伝導体
287 +15 CH8S (高圧下) ※論文撤回疑義あり
250 -23 LaH10 (高圧下)
203 -70 H2S (高圧下)
195 -78 ドライアイス昇華温度
184 -89.2 地表における世界最低気温
145 -128 四フッ化炭素(テトラフルオロメタン)の沸点
133 -140 HgBa2Ca2Cu3Ox(HBCCO) 銅酸化物超伝導体
110 -163 Bi2Sr2Ca2Cu3O10(BSCCO)
93 -180 YBa2Cu3O7 (YBCO)
90 -183 液体酸素の沸点
77 -196 液体窒素の沸点
55 -218 SmFeAs(O,F) 鉄系超伝導体
41 -232 CeFeAs(O,F)
26 -247 LaFeAs(O,F)
20 -253 液体水素の沸点
18 -255 Nb3Sn(ニオブスズ) 金属低温超伝導体
10 -263 NbTi(ニオブチタン)
9.2 -263.8 Nb(ニオブ
4.2 -268.8 液体ヘリウムの沸点
4.2 -268.8 Hg(水銀 金属低温超伝導体

*MgB2二ホウ化マグネシウム)が39Kで転移するが、分類の便宜上外した。


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