皮革
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/29 08:15 UTC 版)
皮革の加工
製革の作業には、大きく分けて準備工程、鞣し工程、再鞣・染色・加脂工程、仕上げ工程がある。
準備工程
鞣し(なめし)の前に皮をコラーゲン線維だけに精練する工程であり、英語ではBeamhouse Workという[12]。
- 水漬け
- 水につけて汚れを落とし、アルカリを加えて原皮の吸水性を高め、防腐剤により腐敗を防止する工程[12]。
- フレッシング
- 皮に付着した脂や結締組織などを除去する工程[12]。
- 毛の除去
- 工業生産の場合、硫化ソーダや水硫化ソーダで溶解しながら消石灰で毛根部を緩ませる石灰脱毛が多い[12]。日本では太鼓用皮などの加工には糠によりバクテリアの働きをかりて緩ませてから物理的に除去する方法が利用される[12]。
なめし
皮には高温多湿の環境では腐るという大きな欠点があるため、これを腐らなくする加工が鞣し(なめし)である[4]。
皮のコラーゲン線維の原線維は組織内の水分中でペプチド結合により結合した3本鎖のらせん構造になっている[13]。鞣し(なめし)とは、皮のアミノ酸でできたコラーゲン線維に鞣剤を作用させることで[12]、水分がない状態でもコラーゲン繊維が癒着せず、らせん構造を維持する状態に変化させることをいう[13]。鞣し(なめし)のプロセスが理論的に解明されたのは18世紀のことである[13]。
- タンニンなめし
- 切り口(コバ)が茶褐色、型崩れしにくく丈夫、染色しやすい(染料の吸収がよい)、吸湿性に富む、使い込むほど艶や馴染みがでる、などがある。反面、タンニンでなめす場合、タンニンを革の中心部分に浸透させるために、タンニン濃度を徐々に上げる必要がある(濃度が高いと表面にだけタンニンが結合し、後で浸透しなくなる)。よって工程数が多くなり、30以上の工程を踏む必要があり、高コストになる。よく皮革製品で「飴色になる」と表現されるが、それはこのタンニンなめしによるものである。手縫いを用いるような鞄等にはタンニンなめしの材料が用いられる。
- クロムなめし(通称:Wet-Blue(ウェットブルー))
- 切り口が青白色、伸縮性が良い、柔軟でソフト感がある、吸水性が低く水をはじきやすい、耐久力がある、比較的熱に強い、などがある。衣料用にはクロムなめしが用いられる事がほとんど。タンニンなめしに比べて工程の省力化からコストを抑えられる反面、なめし工程上で使うクロムが焼却により化学反応(酸化)を起こし、人体に有害な6価クロムに変化するので処分の際は注意が必要である。
- コンビネーションなめし
- タンニンなめしとクロムなめしを組み合わせたもの。
- アルデヒドなめし(通称:Wet-White(ウェットホワイト))
- 環境問題からタンニンなめしの革と同様にクロム(メタル)フリーの革として普及してきている。クロムなめしに比べてややコストが高めになる。
- 油脂鞣し
- 日本に古来伝わる古いなめし法で特に播磨の特産で、延喜式造皮の項にも類似のなめし方法が載っている。原皮を川で洗いバクテリアの働きで鞣すとことに特徴があり白い革に仕上がる。近年は白なめしとも言われる。
- 熏(ふす)べ革
- 日本に古来伝わる古いなめし法で煙に含まれるアルデヒド類の鞣作用を利用している。延喜式造皮の項にも載っている。同名の着色目的の燻染法とは無関係。
製品革の種類
- 銀面革 - 鞣した(なめした)革の表側。鈍い艶が有り、しぼが確認できる場合が多い。
- スエード - 革の裏側(肉面)をやすり等で起毛させたもの。柔らかく、ビロード状に仕上がる。床革を使用する場合もある。
- ヌバック - 革の表側(銀面)をやすり等で起毛させたもの。デザイン目的でドレスシューズにも用いるほか、傷を目立たせないという目的で登山靴にも用いられる。
- エナメル - 革にエナメルペイントを施すことで光沢と耐水性を持たせたもの。ドレスシューズ(社交の場などで着用される装飾性・デザイン性の高い靴)などに多用される。最近はフィルムを貼ることも多い。
- 型押し - 牛革などにプレスで模様をつけたもの。模様は、ワニ革を真似た模様や格子模様、篭目(バスケットウェーブ)など様々ある。
- クラッキング - 皮革にあえてひび割れを施したもの。カジュアルに多いダメージ加工。
- 色づけ - 色むらを出すために、色づけする場合もある。靴を成型した後に、脱色した革に色づけする場合もある。
- 製品染め - 靴やカバンを縫製した後、染色したもの。こなれ感と微妙な色ムラで使いこなされた風合いが出る。
- オイル、ワックス仕上げ - 本来は防水効果のためであったが、プルアップや焦がしなどのファッション効果を求めて施されることが多い。
- カゼイン仕上げ - カゼインを主体にして、グレージングやポリッシングで艶を出したもの。
- はっ水、防水加工 - フッ素やシリコーン、防水用加脂剤等を使用して機能を高めたもの。
- キュイルボイル(英名:ボイルドレザー、「茹でた革」の意。)- さまざまなやり方が残っているが、その多くに沸騰させるプロセスがある訳でなく、共通するのは冷たろうが熱かろうが水に浸す事である。
- ^ “皮革”. 皮革用語辞典. 日本皮革産業連合会. 2023年2月23日閲覧。
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- ^ “ポリエステル原料の人工皮革 「持続可能性」で評価高まる 旭化成”. 20221109閲覧。
- ^ “Apple、「すべての製品で皮革の使用をやめる」と宣言 ストアからも消える”. 20230925閲覧。
- ^ “高触感の合成皮革ハンドルがLEXUS RXに採用”. 20221225閲覧。
- ^ “自動車内装用途で需要拡大しスエード調人工皮革の生産設備増強、投資額は100億円”. 20230218閲覧。
- ^ “ベンツも採用、「毛髪18分の1」繊維使った人工皮革…不況下の旭化成に吹いた「神風」”. 20230628閲覧。
- ^ “合皮の需要、大幅増へ~ウルトラファブリックスが予想”. 20221121閲覧。
- ^ Tanning and Leather Finishing サイト:多数国間投資保証機関
- ^ “中国EVの内装、人工皮革が快走 東レ高級品、販売倍増 動物愛護とも好相性”. 20230925閲覧。
- ^ “森林破壊のない皮革産業を2030年までに実現へ 米NGOや大手ブランドが呼びかけ”. 20230711閲覧。
- ^ エコレザー認定基準|日本エコレザー基準認定事業
- ^ “Would you wear leather that's grown in a lab?”. CNN. (2018年10月4日) 2019年3月23日閲覧。
- ^ “The Future of Leather Is Growing in a New Jersey Lab--No Animals Needed”. Inc.. (2018年4月) 2019年3月23日閲覧。
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