弾道ミサイル 構造

弾道ミサイル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/18 09:41 UTC 版)

構造

基本的にはロケットと同じ構造であるため、通常の衛星打ち上げ用ロケットとして転用される物もある。頂部に搭載されるのが爆弾か人工衛星かの違いに過ぎない。例えば衛星打ち上げ用タイタンロケットはICBMとして開発されたものが衛星用に転用されたものであり、ソユーズA型ロケットは宇宙船を核弾頭に積み替えるだけで弾道ミサイルに転用できた。ミサイルの段数はSRBM、準中距離弾道ミサイル(以下MRBM)程度だと1段、IRBMだと2段、ICBMでは液体燃料の場合2段、固体燃料の場合3段が多い。

逆に自国の技術で衛星を打ち上げられる国は事実上ICBM技術を持っていると見なされる。特に下記燃料と保管の問題から、固体ロケットによる打ち上げ技術を持つ国は注目される事になり、ミューロケットの技術を持つ日本もまた例外ではない。

弾頭

ミサイルの弾頭は容量や重量が限られるため、核兵器・化学兵器をはじめとする大量破壊兵器を搭載することが検討される。特に長距離弾道弾については大気圏外から落下してくるものであり、速い降下速度による空力加熱のため、弾頭は高温となる。このため、生物兵器や化学兵器を搭載しようとすれば、これらが無力化しないような工夫が必要となる。高い成層圏より落下してくる弾頭は再突入体と呼ばれ、その形状は空気による減速が適度で、落下方向がぶれずに安定するよう円錐型をしていて、空力加熱による高熱から内部を守るために耐熱層を備える。

複数弾頭

ピースキーパーのMIRVの軌跡

弾道ミサイルに搭載される複数弾頭にはMRV、MIRV、MaRVが挙げられる。核弾頭の小型化およびロケット技術の向上による大推力化により、一基のミサイルに複数個の弾頭を搭載できるようになった。これは、ミサイルの効率的な利用ができるほか、迎撃ミサイルに対する回避手段としても有効なものである。始めにMRV(Multiple Reentry vehicle,複数再突入体)が開発された。MRVは同一目標に対するもので、各弾頭は似たような軌道を取る。ポラリスA-3はMRVであり、3個の弾頭を搭載している。

MIRVは複数個別誘導再突入体などと呼ばれるもので、これは文字通り複数の弾頭を装備し、それぞれ別の目標に対して攻撃が可能な弾頭である。MIRVやMRVを導入するには核弾頭の小型化技術が必要で、21世紀初頭現在で多弾頭化された弾道ミサイルの開発に成功した国はアメリカロシア中国[2] のみで、フランスはアメリカの技術協力を受けてMRVを開発し、イギリスはミサイルをアメリカから購入している。

MaRVは機動式再突入体と言われる。これも文字通り再突入時に迎撃を回避したり命中率を高めるための弾頭であるがあまり使用されていない。

これら複数弾頭のミサイルは再突入体の分離時、本物の核弾頭の他にデコイチャフなど、ペネトレーション・エイドと呼ばれる敵の迎撃を困難にするための攪乱手段を備えたものもある。ただ、重量の軽減のため、風船のように内部が空洞のデコイは空気の希薄な成層圏でのみ有効で、空気抵抗の大きい大気圏に落ちてくる頃には本物とは違った軌道をとるので地上の迎撃側では容易に峻別できる。冷戦終結によって、弾頭の搭載数を米ソ双方で減少・制限されており、これらの新たな兵器開発も停止されている。

燃料

燃料は、初期の頃には国によらず液体燃料が使われていた。現在では西側諸国では固体燃料が、東側諸国では液体燃料が主流となっている。初期の液体燃料は酸化剤に液体酸素を用いていたためにミサイルに搭載したまま保存しておくことが不可能で、発射命令が下ってから燃料注入を行い、実際に発射態勢に成るまでに数時間かかり、即応性に問題があった。現在の弾道ミサイルに使用される液体燃料(非対称ジメチルヒドラジン四酸化二窒素の組み合わせなど)の場合、ミサイルに搭載したまま長期間の保存が可能であるため即応性に関しては固体燃料との差は無い。

現在において液体燃料と固体燃料の差は比推力と毒性、安全性、それにコントロールのしやすさである。液体燃料は固体燃料より比推力が大きいためミサイルの段数は固体燃料に比べ1段少ないのが一般的であるが、その代わりに燃料は有毒で2種類の燃料が混ざっただけで発火するため取り扱いには注意が必要である。それに対して固体燃料は段数が1段増えてしまうものの、固体であるため付近で火災などない限り問題は無く、その点は液体燃料に比べ優れている。また、固体燃料は1度点火したら推力の調整も何もできず最後まで燃えてしまうが、液体燃料は燃焼量の調整により速度のばらつきを抑制できるため、固体燃料よりも命中精度は高いとされる。ただし誘導方式にも左右されるため、液体固体の違いによる大きな差はない。

誘導方式

戦略核兵器が使用される状況、すなわち核攻撃下における確実な反撃を考えるならば、GPSや無線誘導などは誘導方法として考慮されない。なぜなら、最悪の場合、大統領が専用機(E-4 NEACP National Emergency Airborne Command Post)からの発射命令を下すだけというケースもありうるためである。故にGPSやロランといった航法支援を受けない完全なスタンドアローンが求められる。そのため、現代においてもINSやアストロトラッカー(天測航法装置)による誘導がほとんどとなる。通常弾頭対地ミサイル(兵器や軍事施設を目標としたもの)の場合レーダー赤外線で目標を捕らえるが、弾道ミサイルによって運搬される弾頭(再突入体)自体にはエンジンなどは搭載されていないため、弾頭がミサイルから切り離されて大気圏に再突入を開始した後の軌道変更は不可能である(エンジンなどを搭載したMaRVと呼ばれるものも存在するが例外的)。しかしながらその誘導精度は高く、最も性能の高いアメリカICBMピースキーパーは、CEPにおいて90メートルという数値を持つ。これは単純な相互確証破壊(MAD)による破壊力の追求から、軍事目標を攻撃する能力が求められるように戦略そのものが変化したためで、小型化によって多弾頭化を果たしつつ、威力の低下(W87熱核弾頭で300キロトン)があっても硬化サイロを格納したICBMごと破壊することが可能となっている。300psiの爆風に耐える硬化サイロが目標の場合、CEPが500フィート(152メートル)であれば500キロトンの弾頭威力であっても99パーセント以上の確率で破壊できるが、5,000フィート(1,524メートル)になると1メガトンの弾頭では12パーセント、5メガトンの弾頭を使用しても34パーセントでしかなく、CEPが10,000フィート(3,048メートル)ともなればほぼ不可能となる。

アメリカ海軍が使用するトライデントD5では更に命中精度を高めるためGPSを併用した誘導システムの試験が行われたことがある。これは通常弾頭の使用を考慮して行われた試験であると言われるが結局費用対効果の面から不要と判断されたのか実用化にはいたっていない。

宇宙ロケットとの違い

ケープカナベラル空軍基地で打ち上げられる人工衛星打ち上げ用タイタンI

長射程の弾道ミサイルと宇宙ロケットとの基本的な構造の差は少ない。大雑把に言えば、大射程の弾道ミサイルから弾頭を外し、代わりに小規模な上段ロケットを追加すれば衛星打上能力を獲得しうる。世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げたR-7SS-6の改良型であり、アメリカ初の人工衛星エクスプローラー1号を打ち上げたジュノー1はレッドストーンの改良型である。また、今日においてもロシアのロコットやアメリカのミノタウロスIVなど、現役を退いた弾道ミサイルを改修して衛星打ち上げに転用するケースは珍しくない。

しかし、平時に商業目的で打ち上げられる宇宙ロケットには弾道ミサイルのような即応性は求められず、前述の弾道ミサイル転用タイプを除けば安価で毒性が無い液体水素や液体酸素などが用いられている。これらはロケットへの充填に長い時間が必要であり、敵の先制攻撃への対応能力が無きに等しくなるため兵器としての使用は殆ど不可能である。これに対し、サイロや車両、艦船など限られた保守体制であっても発射可能な状態で保管しなければならない弾道ミサイルは、経済性や安全性に目を瞑って猛毒だが常温保管可能な推進剤を選択したり、推進効率が落ちても固体燃料を選択する事になる。宇宙ロケットにも固体燃料を使うものはあるが、打ち上げスケジュールに合わせて経済性を優先して生産される。経済性や効率を無視してでも安定して長期間の保管が要求される軍用のミサイルとは成分製法価格に違いがある。

双方に求められる性能も、宇宙ロケットは比推力や経済性や信頼性であるのに対し、弾道ミサイルは即応性やメンテナンスの容易さなどとなる。双方の積荷の値段や価値には大きな差があることもそれに関係する。ミサイルは極端なことを言えば1発が不具合等で目標に当たらなくても予備を打てばよいが、こちらが攻撃される前に撃つ必要がある。宇宙ロケットは一点物の衛星や人間、その他物資を確実かつ安価に宇宙へ運搬する必要がある。


注釈

  1. ^ 統合打撃戦闘機、: Joint Strike Fighter
  2. ^ : transporter erector launcher、TEL

出典

  1. ^ a b c d e f g 令和2年度防衛白書. 防衛省. (2020). p. 193. https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2020/pdf/R02010307.pdf 
  2. ^ 関 賢太郎 (2017年12月25日). “ミサイル、「巡航」と「弾道」でなにがちがう? 射程だけじゃないそれぞれの特徴とは”. p. 2. https://trafficnews.jp/post/79263 
  3. ^ 『新版 北朝鮮入門: 金正恩体制の政治・経済・社会・国際関係』、磯崎敦仁、澤田克己
  4. ^ ソ連発表の地図に異変 西部の町、鉄道位置が大移動 核攻撃を想定し偽装?『朝日新聞』1970年(昭和45年)2月4日朝刊 12版 14面
  5. ^ [1][リンク切れ]
  6. ^ http://thepage.jp/detail/20150804-00000009-wordleaf?page=1
  7. ^ Treaty Between The United States Of America And The Union Of Soviet Socialist Republics On The Elimination Of Their Intermediate-Range And Shorter-Range Missiles (INF Treaty)”. アメリカ合衆国国務省. 2020年8月6日閲覧。
  8. ^ a b c 多田智彦 (10 2007). “ミサイル防衛の巨大センサー網”. 軍事研究 42巻 (10号): 66-67. ISSN 0533-6716. 





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