グジャラーティー文字
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/16 10:20 UTC 版)
概要
グジャラーティー文字は、現在インドにおいてヒンディー語などの多言語に用いられるデーヴァナーガリー文字をもとに、インド・グジャラート州の地域で16世紀ごろに派生した文字である。したがって、デーヴァナーガリー文字における、単語中を貫通して書き記す横棒(シローレーカー)を取り除けばグジャラーティー文字とほぼ同じ字形となる字母も多い。
グジャラーティー文字はその音韻表記の手法によりアブギダという文字体系に分類される。これは、子音文字が単独の子音を表さず、子音の直後につづく母音(随伴母音 inherent vowel とよばれる)をも含んだ音節を示すものである。グジャラーティー文字の場合、子音の基礎字母に母音 a (/ə/) が随伴母音としてつく文字である。例を示すと、子音字母 ક は、ka (/kə/) の音節を示す。随伴母音でない母音のついた音節を示すには、たとえば ki を示す場合、કિ のように付加文字をつける。母音のつかない、子音だけの音を示すには、ヴィラーマという記号を用いて ક્ (k) と書く。ほかにも、二重子音を表すのに合成字母がつくられる(後述)。グジャラーティー文字やデヴァナーガリー文字のみならずインド系文字はすべてこのような書字システムにしたがう。なお、参考のために記すと、英語などの表記に用いられるラテン文字は子音と母音が完全に分離して表記され、しかも母音記号(a など)が付加文字としてではなく単独の文字として使用される文字体系であり、アブギダと区別してアルファベットと呼ばれる。
母音
母音字
ここでは、母音のみの音節の文字(つまり単独で母音を表す文字)と、子音+(a以外の)母音をあらわすための付加文字について述べる。発音の欄には、よく用いられるローマ字翻字と、発音記号 (IPA) を示す。さらに、付加文字の使用例として、下の表には ક + 付加文字(/k/+母音)の例をのせておく。付加文字の欄にある破線の円に後述の子音文字が入る。
母音字 | 母音記号 | /k/+ の例 | 翻字・発音 |
---|---|---|---|
અ | (なし) | ક | a [ə] |
આ | ા | કા | ā [ɑ] |
ઇ | િ | કિ | i [i] |
ઈ | ી | કી | ī [i] |
ઉ | ુ | કુ | u [u] |
ઊ | ૂ | કૂ | ū [u] |
ઋ | ૃ | કૃ | ṛ [ru] |
ૠ | ૄ | કૄ | ṝ [ru] |
એ | ે | કે | ē [e], [ɛ] |
ઐ | ૈ | કૈ | ai [əj] |
ઓ | ો | કો | ō [o], [ɔ] |
ઔ | ૌ | કૌ | au [əu] |
ઍ | ૅ | કૅ | â [æ] |
ઑ | ૉ | કૉ | ô [ɔ] |
付記
- グジャラート語は母音の長短を区別せず、ઇ (i) と ઈ (ī)、ઉ (u) と ઊ (ū) はそれぞれ同音である。
- ઋ (ṛ) および ૠ (ṝ) は、インドの古典言語であるサンスクリットにおいて母音扱いされた発音であり、現代のグジャラート語ではもっぱらサンスクリットからの借用語に用いられる。
- ઍ (â) と ઑ (ô) は、英語からの借用語に用いられる。
- 子音字+付加母音字のうちいくつかは、例外的な字形をとる。
- જી jī (જ ja + ી ī )
- રૂ rū (ર ra + ૂ ū )
- હૃ hṛ (હ ha + ૃ ṛ )
母音aについて
અ (a) の母音は、単語内での位置によっては、文字上では表記されていても発音されない。
- 語末では発音されない。
- 直後の音節の子音につく母音が発音される場合は、発音しない。
ただしこれらの規則は、二重子音字の場合は必ずしも適用されない。
子音
グジャラーティー文字の子音字は次のようなものであり、(最後の二重子音の2文字を除いて)下表の順番を辞書順とする。さらに発音(ラテン文字への翻字と発音記号 (IPA) も併記する。概要で述べたように、これらの子音字は、単独ではそれぞれ「子音+a」を表している。子音に後続する母音がa以外のものを表すためには、各字母の上下左右に前述した母音付加記号を加える。
この配置は、似た発音同士を並べている点で合理的であり、デーヴァナーガリーなど他の北方インド系文字の並べ方と同じである。
グジャラート語は母音間の子音の弱化に特徴があり、帯気音はしばしば摩擦音化する(有声帯気音ではさらに母音が息もれ声をともなう)が、正書法上は閉鎖音として記される。
閉鎖音・破擦音 | 鼻音 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
無声無気音 | 無声帯気音 | 有声無気音 | 有声帯気音 | |||||||
軟口蓋音 | ક | ka [kə] | ખ | kha [kʰə] | ગ | ga [ɡə] | ઘ | gha [ɡʱə] | ઙ | ṅa [ŋə] |
硬口蓋音 | ચ | ca [tʃə] | છ | cha [tʃʰə] | જ | ja [dʒə] | ઝ | jha [dʒʱə] | ઞ | ña [ɲə] |
そり舌音 | ટ | ṭa [ʈə] | ઠ | ṭha [ʈʰə] | ડ | ḍa [ɖə] | ઢ | ḍha [ɖʱə] | ણ | ṇa [ɳə] |
歯音 | ત | ta [t̪ə] | થ | tha [t̺ʰə] | દ | da [d̪ə] | ધ | dha [d̪ʱə] | ન | na [nə] |
両唇音 | પ | pa [pə] | ફ | pha [pʰə] | બ | ba [bə] | ભ | bha [bʱə] | મ | ma [mə] |
その他 | ||||||||||
半母音・流音 | ય | ya [jə] | ર | ra [ɾə] | લ | la [lə] | વ | va [və], [wə] | ||
摩擦音 | શ | śa [ʃə] | ષ | ṣa [ʃə] | સ | sa [sə] | ||||
その他 | હ | ha [ɦə] | ળ | ḷa [ɭə] | ||||||
二重子音 | ક્ષ | kṣa [kʃə] | જ્ઞ | jña [gnə] |
ક્ષ (kṣa) と જ્ઞ (jña) は結合文字の一種であるが、特殊な形をとるために上のように基礎字母表に含めることが多い。なお、 જ્ઞ (jña) はグジャラート語では "gna" と発音する。
また、上表に /ʃə/ と発音する字母が શ (śa) と ષ (ṣa) の2つある。これは、昔のサンスクリットにおいては別々の発音を示す文字だった(ષ (ṣa) の発音はそり舌音 ʂə の発音だった)。しかし現代のグジャラート語では同じ発音であるが、単語によって書き分けることになっている。
グジャラーティー文字と同じ種類の言葉
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