ウイルス 名称

ウイルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/20 12:54 UTC 版)

名称

英語のウイルス(virus)の語源は、ラテン語の「virus」で病毒因子という意味であり、英語のVirusは古くは動物が出す毒液も含めて用いられていた[7]

ヨーロッパの主な言語での発音を以下に列挙する[10]

ヨーロッパ諸言語での綴り・発音
言語 文法的性 単数形 複数形
綴り 発音 綴り
国際音声記号
ラテン語 中性 vīrus [ˈwiːrʊs] vīra[11][12]
イタリア語 男性 virus [ˈvirus] virus
ドイツ語 中性又は男性 Virus [ˈviːrʊs] Vira, Viren
スペイン語 男性 virus [ˈbiɾus] virus
フランス語 男性 virus [viʁys] virus
英語 virus [ˈvaɪɹəs] viruses
(viri[13], vira[14])

以上のような発音をもとに、多様な日本語表記が使用された。

日本語での表記(歴史的仮名遣含む)[15][16][17][18][19] [20]
太字三省堂大辞林』掲載表記)
音写
(語頭の "vi" の音写の違いで分類)
意訳
"v"\"vi" 1音節 2音節
1モーラ 2モーラ
長音含む)
3モーラ
(長音含む)
2モーラ
子音 [b] ビルス ビールス ビイールス バイラス 病毒[注 1][注 2]
濾過性病原体
[v] ィルス ヴィールス ヴイールス
ールス
ヴァイラス
イラス
[w][β̞] ウィルス ウィールス ワイラス
母音 [u̜]/[ɯ̹] ウイールス ウイルス

日本語表記としてはラテン語に近い「ウィールス」や「ウイルス」あるいはドイツ語に近い「ビールス」や「ヴィールス」があった[7]。1949年(昭和24年)に日本ウイルス学会の前身となる「ヴィールス談話会」が発足した後、1953年昭和28年)に日本ウイルス学会が設立されたのを機に、「ウイルス」という表記が採用された[7]。その一方、日本医学会はドイツ語発音に由来する「ビールス」を用い、1970年代頃は「ビールス」呼称が学校や一般で使用されていた。現在は宿主に関わらず「ウイルス」が正式名称である[21][22]。表記上は「イ」が大文字の「ウイルス」と小文字の「ウィルス」があるが、メディアでも直音の大文字で表記されることが一般的になっている[7]

なお、ウイルスの細胞外粒子を表す「: virion」の語には、「ウイリオン」ではなく「ビリオン」の読み表記が定着している。


注釈

  1. ^ 日本細菌学会が意訳。中国語に取り入れられ、現在でも使用されている。
  2. ^ 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第61条第1項第1号”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2019年12月17日閲覧。に「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」とあるが、この場合の伝染性疾患とは結核を指すとされている(労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について 平成12年3月30日・基発第207号より)。すなわち、この場合の病毒はウイルスではなく、細菌である結核菌を指す。

出典

  1. ^ Virus Taxonomy: 2021 Release”. International Committee on Taxonomy of Viruses (ICTV). 2022年4月19日閲覧。
  2. ^ 「国際ウイルス分類委員会の新しい分類体系(「ICTV New Taxonomy Release(2019)」)で提唱された目より上位の分類(2020年3月承認)」神谷茂 監修、錫谷達夫・松本哲哉 編『標準微生物学 第14版』付録:表 27-4、医学書院、2021年(2022年4月19日閲覧)
  3. ^ a b 辻野 2010, p. 63.
  4. ^ 森安史典『あなたの医学書 C型肝炎・肝がん』(誠文堂新光社、2009年)17ページ ISBN 978-4-416-80933-4
  5. ^ パトリック・フォルテ―ルはパスツール研究所及びパリ=サクレ大学名誉教授。インタビュー記事「ウイルスは生命体」『朝日新聞』GLOBE(朝刊別刷り)233号/2020年9月6日付【特集】世界はウイルスに満ちている(7面)による。
  6. ^ 中屋敷均 2016, p. 136-137.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l 見えざるウイルスの世界 (PDF) 東京大学医学部東京大学医学部附属病院 健康と医学の博物館(2021年8月22日閲覧)
  8. ^ 山内一也:病気を引き起こすのは「氷山の一角」『朝日新聞』GLOBE(朝刊別刷り)233号/2020年9月6日付【特集】世界はウイルスに満ちている(3面)
  9. ^ 国際組織「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)による。【環境】パンデミックを防ぐため、世界的な自然保護政策を、報告書/哺乳類や鳥類に未知のウイルスは推定170万種、うち85万が人間に感染する恐れ ナショナルジオグラフィック日本語サイト(2020年11月4日)2021年6月24日閲覧
  10. ^ Definition of "virus" > Translations for 'virus' (Collins English Dictionary)
  11. ^ William T. Stearn: Botanical Latin. History, Grammar, Syntax, Terminology and Vocabulary. Third edition, David & Charles, 1983. 「Virus: virus (s.n. II), gen. sing. viri, nom. pl. vira, gen. pl. vīrorum (to be distinguished from virorum, of men).」
  12. ^ Pons: virus
  13. ^ e.g. Michael Worboys: Cambridge History of Medicine: Spreading Germs: Disease Theories and Medical Practice in Britain, 1865-1900, Cambridge University Press, 2000, p. 204
  14. ^ e.g. Karsten Buschard & Rikke Thon: Diabetic Animal Models. In: Handbook of Laboratory Animal Science. Second Edition. Volume II: Animal Models, edited by Jann Hau & Gerald L. Van Hoosier Jr., CRC Press, 2003, p.163 & 166
  15. ^ 『文章表現辞典』(東京堂出版、1965年)p.48
  16. ^ 野田省吾「学術集談会演説要旨」『実験医学雑誌』1937年 21巻 4号 pp.385-388, doi:10.3412/jsb1917.21.4_38
  17. ^ 遠藤保太郎「植物のヷイラス病」『蠶絲學雜誌』7(3): 195-207(1935), hdl:10091/6066
  18. ^ 深井孝之助,土佐英輔,西義美「インフルエンザ・ヴイールスの赤血球による收着」『VIRUS.』1951年 1巻 2号 pp.135-140, doi:10.2222/jsv1951.1.135
  19. ^ 波多野基一「日本脳炎ウイールスの赤血球凝集反応 (第1報)」『VIRUS.』1952年 2巻 3号 pp.187-194, doi:10.2222/jsv1951.2.187
  20. ^ 田久保茂樹,川久保義典「家兎ニヨル發疹チフス病毒ノ實驗的研究」『細菌學雜誌』1930年 1930巻 416号 pp.643-652, doi:10.14828/jsb1895.1930.643
  21. ^ 日本ウイルス学会について”. 日本ウイルス学会ホームページ. 2020年4月6日閲覧。
  22. ^ 日本植物病理学会編 (1995). 植物病理学事典. 養賢堂. p. 91 
  23. ^ マシューズ、ホルダ、アハーン『カラー生化学』(西村書店刊、2003年5月15日発行)16ページ
  24. ^ a b c 細菌とウイルスとの違い? - 東邦微生物病研究所
  25. ^ Krupovic M, Koonin EV (February 2015). "Polintons: a hotbed of eukaryotic virus, transposon and plasmid evolution". Nat Rev Microbiol. 13 (2): 105–115. doi:10.1038/nrmicro3389. PMC 5898198. PMID 25534808. 2020年6月10日閲覧
  26. ^ 加藤茂孝『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を越えて』(丸善出版 平成25年3月30日発行)p.4
  27. ^ Wendell M. Stanley - Facts”. NobelPrize.org. 2020年4月6日閲覧。
  28. ^ ハーシーとチェイスの実験”. 生物分子科学科 > 高校生のための科学用語集 > 生物用語. 東邦大学理学部. 2013年5月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月6日閲覧。
  29. ^ 驚異のウイルスたち(3)「巨大」出現 新生命体へ進化?多数の遺伝子 揺らぐ定義日本経済新聞』朝刊2020年6月7日(サイエンス面)2020年6月10日閲覧
  30. ^ Coronavirus Resource Center” (英語). Harvard Health (2020年2月28日). 2022年6月12日閲覧。
  31. ^ 日本ウイルス療法学会が発足、理事長は東大医科研の藤堂具紀教授」日経バイオテク(2022年10月31日)2022年11月26日閲覧
  32. ^ 中屋敷均 2016, pp. 27–30.






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