アルプス山脈 産業

アルプス山脈

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/09 09:24 UTC 版)

産業

農業は主に標高が低く温暖な渓谷部分で行われているが、アルプスでは酪農が広く行われている。かつては冬の間は渓谷にある牛小屋で牛を飼い、春になると中腹の牧草地で、夏にはさらに高いところにある牧草地へと牛を移動させ、秋が来るとまた牛を低地へと移動させる移牧が盛んに行われていたが、手間がかかるため近年では姿を消しつつある。祭りチーズ作りなどの様々な文化的要素はあるため、2023年にスイスのアルプス山脈の牧草地の季節はユネスコ無形文化遺産に登録された[9]。また、林業やそれを基盤とした製材業も行われている。製材業のほかにも、時計などの精密機械工業などの工場も多く立地している。こうした工場を動かすエネルギー源は、山脈中のダムや滝に設置された水力発電所から得られる豊富な電力を利用している。

19世紀半ばより、アルプス山脈は避暑地として注目されるようになり、観光産業が大きく発展した。避暑のほかにも、19世紀に入ると氷河や滝、険しい山岳といった厳しい自然の光景がヨーロッパにおいて美しいと感じられるようになり、このような風景を多く持つアルプスは観光地として脚光を浴びるようになった[10]。普通の観光のほか、空気療養など医学的な見地でも注目され、ダヴォスをはじめとして各地にサナトリウムが建設された[11]20世紀にはいるとスキーがこの地域に導入され、1930年代に施設や器具の改良が行われて大衆化が進み、各地にスキー場が開設されるようになった。現在では夏は冷涼な気候と美しい自然を求める観光客が訪れ、冬はスキーなどウィンタースポーツを楽しむ多くの観光客を集める一大観光地となり、観光産業がこの地域の主要産業のひとつとなった。かつては夏が最も観光客の多いシーズンであったが、近年ではスキー客の増加する冬が観光収入が高くなってきている[12]。スキー種目のうち滑降競技の別名「アルペン競技」(Alpine(s)) の名はアルプスに由来する。

アルプス山脈の山麓および山中の都市は、しばしば冬季オリンピックの開催地となっている。フランスのシャモニーで開催された第1回のシャモニーオリンピック(1924年)から、第2回のスイス・ サンモリッツ(1928年)、第4回のドイツ・ガルミッシュ=パルテンキルヒェン (1936年)、第5回のサンモリッツ (1948年)、第7回のイタリア・ コルティナダンペッツォ (1956年)、第9回のオーストリア・インスブルック (1964年)、第10回のフランス・グルノーブル (1968年)、第12回のインスブルック (1976年)、第16回のフランス・アルベールビル (1992年)、第20回のイタリア・トリノ (2006年)と、2010年現在の21回のうち10回がアルプス山脈で行われており、この地域のウィンタースポーツの盛んさと施設の充実を示している。


注釈

  1. ^ ヨーロッパとアジアの境にあるカフカース山脈エルブルース (5,642 m) をヨーロッパ最高峰とする考え方もある。

出典

  1. ^ 泉井久之助『ヨーロッパの言語』岩波書店岩波新書699)1968年、2刷 1969年、163頁。
  2. ^ 『事典現代のドイツ』p38(大修館書店、1998年)
  3. ^ Ore of the Alps UNESCO Global Geopark” (英語). UNESCO (2021年7月26日). 2022年10月20日閲覧。
  4. ^ Ledro Alps and Judicaria Biosphere Reserve, Italy” (英語). UNESCO (2022年4月). 2023年3月19日閲覧。
  5. ^ 「ビジュアルシリーズ世界再発見4 イギリス・中央ヨーロッパ」p124 ベルテルスマン社、ミッチェル・ビーズリー社編 同朋舎出版 1992年5月20日第1版第1刷発行
  6. ^ 「図説スイスの歴史」p30 踊共二 河出書房新社 2011年8月30日初版発行
  7. ^ 『観光大国スイスの誕生 「辺境」から「崇高なる美の国」へ』p54 河村秀和 平凡社新書 2013年7月12日初版第1刷
  8. ^ 「国民百科事典1」平凡社 p122 1961年2月1日初版発行
  9. ^ UNESCO - Alpine pasture season” (英語). ich.unesco.org. 2024年1月5日閲覧。
  10. ^ 『観光大国スイスの誕生 「辺境」から「崇高なる美の国」へ』p50 河村秀和 平凡社新書 2013年7月12日初版第1刷
  11. ^ 『観光大国スイスの誕生 「辺境」から「崇高なる美の国」へ』p155 河村秀和 平凡社新書 2013年7月12日初版第1刷
  12. ^ 「ビジュアルシリーズ世界再発見4 イギリス・中央ヨーロッパ」p126 ベルテルスマン社、ミッチェル・ビーズリー社編 同朋舎出版 1992年5月20日第1版第1刷発行
  13. ^ 『観光大国スイスの誕生 「辺境」から「崇高なる美の国」へ』p42 河村秀和 平凡社新書 2013年7月12日初版第1刷
  14. ^ 『観光大国スイスの誕生 「辺境」から「崇高なる美の国」へ』p40-41 河村秀和 平凡社新書 2013年7月12日初版第1刷
  15. ^ 森田安一『物語 スイスの歴史』中公新書 p203 2000年7月25日発行
  16. ^ スイス文学研究会『スイスを知るための60章』明石書店、2014年、p348
  17. ^ スイス文学研究会『スイスを知るための60章』明石書店、2014年、p350
  18. ^ アルプス縦貫の「ゴッタルド鉄道トンネル」開通、世界最長57キロ”. ロイター (2016年6月1日). 2018年7月15日閲覧。
  19. ^ 「ウィーン・オーストリアを知るための57章 第2版」p54 2011年4月25日 明石書店 広瀬佳一・今井顕編著
  20. ^ アルプスの画家 セガンティーニ ー光と山ー”. SOMPO美術館. 2024年4月4日閲覧。






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