登山と自然破壊の問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/12 08:47 UTC 版)
近年、登山人口が増加したことによる自然に対するダメージが目立ってきている。例としては、ゴミやタバコを持ち帰らずポイ捨てする、むやみに木や枝を折る、遊歩道を歩かず、貴重な植物を踏んでしまうなどがある。これらは本来、登山者にとって守るべきマナーであるが、登山を始めたばかりの登山者の中にはそれを知らず結果的に自然や景観に影響を与えてしまうことがままある。以下に具体的な例を挙げる。 ごみの問題 登山の途中に発生するゴミは、原則的に当人が持ち帰らなければいけない。プラスチックやペットボトルなどの化学合成品は分解が遅く、長く自然界にとどまるため生態系に悪い影響を及ぼすとされる。また、生ゴミであれば捨てて良いというわけではなく、過多な栄養はその地に住む動植物の生態系を変え、結果的にはそれまでの生態系を破壊してしまう結果にもなる。 植物の盗掘 また、よくあるのが植物の持ち帰りである。高山植物は学術的にも貴重であり、ほとんどの山で持ち帰りが禁止されている。しかし、それを知らないがために野の花を摘むように持って行ってしまう登山者がある。あるいは、高山植物の生息域にロープ等で立ち入り禁止が示されているにも関わらず、自宅での鑑賞のために持って帰ってしまう者、悪質なものは土を掘り返し根元から大量に持ち去ってしまうこともある。代表的な高山植物であるコマクサは、その美しさに愛好家も多い花だが、山からの盗掘もまた多い。逆に、盗掘した植物を、本来その植物が自生していない別の山に移植してしまうケースも発生している。 動物生態系への影響 多くの登山者が山に入ることによる、野生動物が安心と思う住領域の縮小、また人間の持ち込んだごみにより、野生動物の食環境の変化、また人間が出すごみを好む動物が増えてしまうなどの影響が考えられる。また犬を連れての登山を禁止している山もある。これは犬が病原体を持ち込んだり野犬となったりして、野生動物の生態が乱されるのを恐れての処置である。また登山道における糞尿などのトラブルも発生している。犬連れ登山禁止に対しては、「長年犬は山小屋、猟師で飼われてきたが、犬から野生動物への病気感染があったか疑問である」「人間の方が犬より環境インパクトが大きい」などの反論がある。 排泄物の処理 槍ヶ岳や剱岳、八ヶ岳、尾瀬など、人気のある山においては山小屋での排泄物の処理が問題となる。以前は屎尿の処理は土に返すだけの処理であったが、登山人口の増加に伴って人間の排泄物が自然に与える影響が無視できない状況になってきた。加えて、排泄物に含まれる大腸菌等によって湧水が汚染され、飲用できなくなる事態も発生している。そこで、現在ではヘリコプターなどで排泄物を運搬、しかるべき施設で処理する方法や微生物で分解するバイオトイレなどへと変化して来ている。運送費や諸経費の調達のため、場所によっては山小屋の利用料を値上げしたり、トイレの使用料を取る山小屋もある。登山における休憩中の排泄も人数が多くなれば悪臭や栄養過多で影響を与えるため、簡易トイレの使用も推奨されている。 登山道の荒廃 近年の中高年の登山ブームにおけるオーバーユースによって登山道の荒廃が広がっている。加えて、えぐれた登山道では雨が降るとぬかるみ、それを避けるために登山道脇を歩くことによって植生は失われ、登山道が広がり中には車が通れるほどの広さになっている登山道もある。また、最近では登山時に腰やひざの負担を軽減する目的でステッキやストックなどを使用する人が多くなってきているが、それらで登山道の土が掘り起こされ、柔らかくなった土が雨で流出するなど登山道が荒れる原因になっている。
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