日本の高山地形による地質の特徴と高山植生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/08 08:48 UTC 版)
「日本の高山植物相」の記事における「日本の高山地形による地質の特徴と高山植生」の解説
日本列島は大陸プレートであるユーラシアプレートと北米プレートに、海洋プレートである太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込む場所に位置している関係上、火山活動が活発である。そのため日本列島の高山帯は、富士山や大雪山などといった、主に第四紀後期という最新の地質年代の火山活動によって形成された高山帯、南八ヶ岳のように第四紀後期以前の火山活動によって形成された高山帯、赤石山脈、木曽山脈など火山活動以外の理由で形成された高山帯が見られる。富士山や大雪山のような新しい火山に比べて、古い火山や火山以外の成因によって形成された高山帯は侵食によって急峻な地形となっているが、日本では非火山の高山帯でも山頂付近に比較的起伏がなだらかな地形が多く見られる。この山頂付近の比較的起伏がなだらかな地形は、隆起前に形成されていた地形が残存しているものと考えられている。またヒマラヤ山脈やアルプス山脈で見られるような極めて急峻な山稜や岩壁は日本の高山帯では多くない。これは日本の高山帯は氷期に氷河による侵食活動の影響が比較的少なかったことと、日本の高山帯がヒマラヤやアルプスなどよりも新しい時代に形成されたためと考えられている。 また、日本列島の多くが海洋プレートの沈み込みの際、海洋プレートの堆積物の一部が剥ぎ取られて陸地に付加した、付加体によって形成されている点も日本の高山植物相に大きな影響を与えている。付加体の中にはよくメランジュと呼ばれる周囲の地質とは連続性を持たない岩塊層が見られるが、中生代のジュラ紀ないし白亜紀の付加体内にある蛇紋岩質のメランジュである早池峰山、至仏山、同時期と考えられる飛騨山脈の白馬岳や赤石山脈の北岳で見られる石灰岩のメランジュ、そして新生代に形成された日高山脈やその周辺にはかんらん岩、蛇紋岩質のメランジュであるアポイ岳や夕張岳、石灰石のメランジュである崕山など、日本国内には蛇紋岩やかんらん岩、石灰岩という特殊な地質に生育する多くの希少な高山植物で知られる地域がある。 このような成り立ちを経て形成された日本の高山は、様々な性格の地質が比較的狭い地域に存在するという多様性に富んだ特徴を持つようになった。例えば飛騨山脈では、白馬岳付近では流紋岩質の岩石とともに海洋プレート沈み込みに伴う付加体起源のメランジュである石灰岩や蛇紋岩が見られ、また比較的新しい火山地形である立山火山、そして日本で最も険しい山体の一つである槍ヶ岳や穂高岳は、主にかつて存在したカルデラ内に約180万年前噴出したとされる穂高安山岩で形成されており、常念岳や野口五郎岳などは花崗岩によって形成されている。一方赤石山脈では四万十帯起源の砂岩や泥岩が主体であるが、鳳凰三山や甲斐駒ヶ岳では花崗岩が見られ、北岳には付加体起源のメランジュである石灰岩やチャートがあるという多様性が見られる。本州中部の高山など、日本の高山帯はヨーロッパアルプスなどと比べると規模は小さいものの、ヨーロッパアルプスでは一つの山系はおおよそ同一の地質をしており、日本の高山のように狭い地域に様々な地質が存在するのは極めて珍しいことといえる。このような様々な地質の存在が、狭い地域であるにもかかわらず多様性に富んだ日本の高山植物相を育む要因の一つとなった。 地質の違いは植生に大きな影響を与える。例えば花崗岩質の場合、節理があまり発達していないことが多く、岩礫地帯となりやすい傾向がある、花崗岩の岩礫地帯にはクロマメノキ、ガンコウランなどが生育する風衝矮低木林などが形成される。また流紋岩質の場合は花崗岩よりも径が小さい岩礫地帯となって、礫の移動が激しいためにそのような環境に適応したコマクサやタカネスミレが生育するようになる。一方砂岩や泥岩地帯は土壌を形成しやすいために草原となりやすく、見事な高山植物のお花畑が見られることも多い。そして石灰岩地やかんらん岩、蛇紋岩地などの場合は岩に含まれる微量元素の影響などによって、その特殊な環境に適応した高山植物群落が形成されることになる。
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