大量化学療法、高用量化学療法
大量化学療法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/25 07:27 UTC 版)
上記のような取り組みの一つとして、大量化学療法が有望視されており、海外では数々の臨床試験が行われて実績を上げつつある。大量化学療法は、通常の限界量の何倍もの抗がん剤を大量投与することによって、腫瘍細胞の根絶を図るものであり、主として難治性かつ化学療法感受性のある腫瘍に適応がある治療法である。このような激しい治療法が認められるのは、近年になって新しい制吐剤や抗生剤、G-CSF、そして末梢血造血幹細胞救援(PBSCT : peripheral blood stem cell transplantaion。「造血幹細胞移植」の項参照)のような数々の支持療法が生み出され、比較的安全に行えるようになってきたこと、そしてそれが治癒を目的とするものであるからに他ならない。 末梢血造血幹細胞救援は、このような通常使用量の限界を超えた大量の抗がん剤を投与すると、造血機能を担う骨髄が破壊されてしまい、造血機能が回復しなくなるという重大な恐れがあるため、これを末梢血造血幹細胞の注入によって救済しようとするものである。すなわち、大量化学療法に入る前に採取しておいた造血幹細胞を、事前に冷凍して保存しておき、抗がん剤大量投与後、それを解凍して点滴によって血液内に戻すことによって、造血幹細胞を生着させ、失われた骨髄の造血機能を回復するという治療法である。そして、事前の末梢血造血幹細胞の採取(ハーベスト[要曖昧さ回避])は、通常量の弱い化学療法を行った後、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子。グラン、ノイトロジン、ノイアップなど。化学療法後の免疫低下=骨髄抑制を速やかに回復し、減少した白血球を増加させる薬剤として、1991年頃に開発された)を投与した際、末梢血に造血幹細胞が現れるという現象が知られるようになって生み出されたものである。この末梢血に現れた造血幹細胞を含む血液を遠心分離機に掛けることによって造血幹細胞のみを取り出してパック化し、冷凍保存をするのである。 末梢血幹細胞のハーベストは、投与すべきG-CSFの量、G-CSFの投与後、ハーベストするタイミング(白血球数の立ち上がり時期の微妙なタイミングを見極めることが必要である)、遠心分離機の操作、ハーベスト時に体内から血液を取り出し、遠心分離機に掛けた後、体内に戻すという数時間の作業が必要であり、その間遠心分離機につながれたまま身体を動かすことができないため、小児には苦痛を与えるものであることなど、数々の技術的なポイントがある。 また、抗がん剤の大量投与についても、小児に対する限界量を熟知していることが必要であるし、もちろん、患児の個別の状態を見極めることができることが必要である。骨髄機能がゼロに近くなり、免疫機能が働かなくなった時期の感染症対策(無菌の環境を整えるとともに、感染が疑われた時は適切な抗生剤を時期をはずさずに投与し、その効果がないときは次々に抗生剤を変更する)など、一歩間違えれば生命に危険が生じるため、深い知識と経験が必要とされるものである。 また、当然のことであるが、抗がん剤なら何でもよいというわけではなく、原則、骨髄抑制以外の特筆すべき副作用がない抗がん剤を用いることが必要である。末梢血幹細胞救援によって救えるのは骨髄抑制の副作用のみであって、腎毒性、聴器毒性、心毒性などは救援できないからである。また、大量に用いることによって、抗腫瘍効果が高くなる抗がん剤でないと大量投与してもあまり意味がない。このような抗がん剤の代表がアルキル化剤である。さらに、通常の化学療法で用いられてきたものでは、腫瘍に耐性が生じているため、効き目が薄くなることから、今までに用いられていないものを使用することが必要であるし、脳には血液脳関門というバリアーがあるので、抗がん剤が浸透しにくいため、分子量の小さい、中枢神経移行性のよいものであることが望まれる。 このような治療法は、数十年にわたって行われてきた小児白血病などの骨髄移植治療、近年になって広く行われるようになった神経芽腫や横紋筋肉腫などの小児固形腫瘍における大量化学療法などについて深い知識と経験を有する小児血液腫瘍内科医でなければ行えるものではなく、経験のない脳外科では、たとえ側面からの小児科のアドバイスがあったとしても、決して単独で治療を実施することはできない。
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