国内法との関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 06:16 UTC 版)
この問題は、古くは、「一元論」(monism)対「二元論」(dualism)として争われてきた。特に「一元論」の国際法優位主義は、国際法秩序が各国の国内法秩序を包合し、全体として国際法が優位するとする。しかし、国際判例や国家実行は、一貫して「二元論」の立場を支持してきている。「二元論」とは、国際法秩序と各国の国内法秩序は、独立した関係にあるとする立場である。ただし、これは、国内法秩序、国際法秩序がそれぞれ無視しあってよいということではなく、互いに尊重し調整しあうという「等位理論」を意味する。 まず、国際法秩序における国内法の地位を述べる。 国際判例は、一貫して「二元論」の立場をとる。国際司法裁判所は、1989年の「シシリー電子工業会社事件」判決において、公の機関の行為が国内法に違反するからといって、それが国際法における違反とは必ずしもならない、と判示した(I.C.J.Reports 1989, p.74, para.124)。さらに、ウィーン条約法条約27条は、「当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することはできない」と規定する。 次に、国内法秩序における国際法の地位である。 各国は、それぞれ多様な国際法の国内法秩序への編入方式を採用している。一つの立場は、「編入一般的受容」(incorporation or adoption)方式であり、国際法はなんら国内的措置を経ずに、国内法秩序に直接適用されるとする方式である。第二のものは、「変形」(transformation)方式であり、国際法を国内法秩序に適用するには、国内法への変形が必要とする方式である。第三のものは、「執行指示」(Vollzungsbefehl)方式であり、国内の法適用機関に国際法を直接適用するように指示、命令をし、そのための権限を国内的措置により執るという方式である。 条約と慣習法によっても、各国においてそれぞれの扱われ方が異なる場合が少なくない。各国毎に詳しく述べるには余白がないので、ここでは、特に問題となる「自動執行力のある」(self-executing)条約の国内法秩序への直接適用性(l'applicabilité directe)について述べることにする。 米国では、米国のそのときの意図(the intention of the United States)により、ある合意が「自動執行力がある」か否かが判断されることになり、そうでない場合には立法か適切な執行または行政行為による履行を待たなければならない(Restatement of the Law Third. The Foreign Relations Law of the United States, Vol.1, §111, h.)。一方、イギリス及びコモンウェルス諸国の場合には、たとえ「自動執行力のある」条約でも、国内法に変形する必要があると判例で確立している(「変形」方式)。他のヨーロッパ各国では、「編入一般的受容」方式をとる国として、ベルギー(判例で確立)、スペイン(最高裁判例で確立、通常、公布が必要)、フランス(官報で公示が条件)、ギリシア(判例で確立)、ルクセンブルク(裁判所が判断する)、オランダ(改正憲法93条、公示が必要)、「変形」方式をとる国として、アイルランド(憲法29条5項)、デンマーク(憲法19節によれば国会の立法または行政命令が必要)、「執行指示」方式を採る国として、ドイツ(「承認法」による)、イタリア(執行命令)、十分な結論が確立していない国として、ポルトガル、スイスがある。日本の場合には、判例は一貫して、「自動執行力のある」条約は、天皇の公布によって、国内法秩序に直接適用されるという立場をとっており、「一般的受容方式」に分類される(日本国憲法第98条2項、7条1号)。ただし、国際法は法律には優位するが、国内では憲法が最高法規であるとする立場が通説である。なお、ドイツ連邦共和国基本法第24条は国際機関による主権の制約を認め、同第25条は国際法の規範が憲法と一体をなすことを明記している。 最新の動向によれば、特に国連安保理決議の国内への直接適用性が議論となっている。すなわち、テロ行為に荷担する行為を規制するために国内の私人や法人に直接、義務を課す安保理決議の妥当性が欧州司法裁判所(EC司法裁判所)によって審理され、同裁判所は、安保理決議が強行法規(jus cogens)に反する場合にはこれを無効とできると判示した(2005年7月21日「Yusuf事件」第一審判決(T-306/01))。同判決は、安保理の司法的コントロールの可能性に道を開いたことでも、大変注目されている。 EC法秩序と国内法秩序の関係は特殊である。EC法、特にその二次法規のうちの「規則」(le règlement)は、加盟国の国内法秩序に直接適用される(EC条約249条)。判例も、「規則」が加盟国の国内法秩序に直接適用され、かつその国内法に優位するという点で確立している(1964年「Costa対ENEL事件」欧州司法裁判所判決)。EU/EC各国も、その国内憲法において、「規則」の国内法秩序における直接適用性を認めている。しかし、「指令」(la directive)の直接適用性については、個別的に検討する必要がある。また、EC法と各国憲法との優位性については不明瞭であり、加盟国の立場では、ドイツ(1974年の「Solange I事件」および1986年の「Solange II事件」連邦憲法裁判所判決)、イタリア(1973年12月27日、憲法裁判所判決)などは、国内ではEC法より憲法が優位する立場をとっている。
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