【前進翼】(ぜんしんよく)
航空機の主翼形状の一種。後退翼とは逆に胴体から先端に向うにつれ前方に向うよう斜めに取り付けられた、前進角を持つ主翼の事。
後退翼同様、衝撃波を遅らせる効果が有り、亜音速以上の飛行に適しているが、逆に翼端失速し難い代わりに胴体との結合部に負荷が掛かる、ロールを加速させようとする力が働くなどの欠点も存在する。
前進翼
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/02 00:31 UTC 版)
前進翼とは、主翼に前進角を付けた翼で、後退翼と同等の効果に加え以下の特徴を持つ。 翼の根元あるいは機体の重心位置で失速が始まっても、まだ翼端には気流が残っているため、後退翼と比較して、原理的に失速限界が高い。 後退翼とは逆にロール方向に対しての静安定が負であるため不安定である。 後退翼の風見安定効果とは逆の効果が働き、ヨー方向に対して不安定である。 揚力と迎え角が相互に増加し続けるダイバージェンス(発散)により、翼がねじられる力がかかるため最悪の場合翼が破壊されてしまう。またそれに耐えうる強度を持たせようとすると翼の重量が増える。 ステルス性が低い。 前縁が機体に対して直角に近く、後縁に大きめの前進角が付いているテーパー翼のため前進翼に近い形状となっている機体は珍しくなく、特に大戦中のようなレシプロ機の時代には飛行速度がそれほど高くなかったこともあり、ゼロ戦や中島の帝国陸軍戦闘機(九七式戦闘機、一式戦闘機、二式単座戦闘機、四式戦闘機)のテーパー翼、スピットファイアの楕円翼や、He162の翼型といったように、多くの航空機で見られた。 大戦後も民間機などに採用例はいくつか見られ、例えばHFB 320 ハンザジェットは欠点が多かったもののビジネスジェットの先駆けとして、一部は旧西ドイツ空軍でも使用された。これは飛行性能を求めたものではなく、主翼の桁を後方にずらす事でキャビンの容積を大きくするための採用だった。複座の練習用グライダーにもよく使われ、特にLETクノヴィツェ社のL-13型が良く知られている。 しかし、前縁にも前進角が付いている機体は航空史上それ程多くはない。上述した特徴のうち2については、安定性の低さは逆説的に運動性・機動性の高さの表れであり、ドッグファイトを重視した戦闘機などでは利点になり得るものの、4で述べられた重量増加の欠点が最大の障害となっており、複合材料技術による成型技術が確立する以前の1960年代より前は本格的な前進翼の実現は困難だった。 1970年代以降、複合材料技術の発達に伴い、空力弾性テーラリングと呼ばれる成形技術を利用することで重量増加ペナルティを小さく留める事が可能になり、本格的な前進翼機の実現への機械工学的ハードルが下がった。さらにフライ・バイ・ワイヤの進歩による運動能力向上機(CCV)などにより本質的に不安定な飛行を制御することが可能になったことから、前進翼が有効な方法だと考えられるようになった。その結果として、NASAで実験機X-29が開発された他、ロシアのスホーイがSu-47をプライベート・ベンチャーで実用化した。また複合材製の実験機としての例でHonda MH02 が挙げられる。2015年には、練習機だが、前進翼を採用したSR-10が実用化されている。
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