主な失神の原因疾患
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/04 16:37 UTC 版)
失神患者は、救急室受診者の3%を占める。一般の市民を対象としたフラミンガム研究によると、26年間に失神歴を有した人は、男性3.0%、女性3.5%であった。失神の原因としては2000年代中盤のデータでは反射性(36 - 62%)、心原性(10 - 30%)、起立性(2 - 24%)、脳血管性(1%)とされている。 心原性失神 心拍出量の減少により脳血流が減って起こす失神。原因疾患は多く、洞不全症候群・房室ブロック・上室性頻拍・心室頻拍・心停止・大動脈弁狭窄・肥大型心筋症・急性心筋梗塞・ファロー四徴症・左房粘液腫などがある。 血管性失神 急性大動脈解離や腹部大動瘤破裂、肺塞栓症などでおこる。大動脈解離や腹部大動脈瘤破裂は疼痛や身体診察などで特徴づけられるが肺塞栓症の診断はよほどエピソードが特徴的でないと診断が難しい。しかし、肺塞栓症の14%は失神が初発であるというデータもある。もしD-ダイマーの迅速キットがあれば診断は容易になる。急性大動脈解離、静脈血栓塞栓症においてD-ダイマーの感度は100%である。すなわち、陰性ならばこれらの疾患をほぼ否定できる。 神経心原性失神 迷走神経反射などとかつては言われていたが、迷走神経以外の副交感神経の反射でも起こるので近年は神経心原性とか反射性ということが多い。基本的には失神をおこした状況によって疑いをかける。典型的には徐脈かつ低血圧であり、神経学的異常は認められず、検査によって他の疾患が否定できたときに診断できる。神経心原性失神の場合は点滴のみで改善できる。必要があれば硫酸アトロピンを0.5mg静注してもよい。全体としては交感神経機能の減退や糖尿病の合併がある高齢者の方が多い。排便時の迷走神経反射、排尿時の仙髄副交感神経反射、咳による舌咽神経反射、採血の迷走神経反射なども有名である。また、オーガズムによって起こることもある。 血管迷走神経反射性失神 略称VVR。最も頻度が高く、健康人にも起こる。若年者に多い。強い痛みや精神的ショックや情緒的ストレスが誘引となり、交感神経の活動が亢進、頻脈が起こる一方、静脈床に血液が貯留する。このため静脈還流量が減少し、逆に副交感神経が優位となり、血管拡張・徐脈となり、脳血流が低下、失神が起こる。病歴・身体所見には異常を認めない。臥位ではまず起こらない。 起立性低血圧 薬剤やニューロパチーなどによる自律神経異常があることが多いが、基礎疾患として糖尿病やパーキンソン病などがあることもある。 頚動脈洞性失神 頚動脈洞が過度に過敏な場合、頚部の刺激によって起こる。ネクタイを締めたり、後ろを振り向いたりするだけで起こることもある。50歳以上の男性に多い。頚動脈洞の圧受容器の圧迫によって、副交感神経が興奮し、房室ブロックや洞停止、血管拡張を起こすことによって失神する。 胸腔内圧上昇による失神 遷延する咳発作の持続中や直後にみられる咳失神は、基礎に慢性閉塞性肺疾患を持つ男性に多い。他に、前立腺肥大症や膀胱通過障害を持つ男性に多い、排尿中や排尿後に起こる排尿失神等がある。 過換気症候群 過換気による動脈血炭酸ガス分圧低下により脳血管の収縮がおこり、そのために脳血流が減少して起こる失神である。めまいを起こすが失神にまでは至らないことが多い。 神経原性失神 椎骨脳底動脈循環不全や、脳底動脈型片頭痛でも失神が起こることがある。脳底動脈型片頭痛では、脳幹障害症状や錯乱も見られ、思春期の女性にまれに起こる。 低血糖発作 糖尿病の治療の有無の問診だけでなく、血糖値測定は心電図と共に施行することが必要である。 低容量性失神 脱水や出血がある場合は起こりえる。いずれも高齢者に多い。出血の場合はメレナ(出血による黒い便)や腹痛の有無を確認する。 嚥下性失神 食物を飲み込むと発生する。
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