プルアップ・プルダウン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 20:57 UTC 版)
「デジタル回路」の記事における「プルアップ・プルダウン」の解説
「プルアップ抵抗」も参照 上で述べたように、デジタル回路の電圧レベルは、原則として「High」または「Low」の論理レベルに合致した電圧が印加されていなければならない。「High」と「Low」の中間の電圧の状態になると、内部状態が不安定になり誤動作を起こしたり、消費電力が著しく増加したりする。また、「Low」よりも低い電圧や「High」よりも高い電圧が印加されると、設計外の電流の流れが発生して回路の破壊などが起こりえる。 一般に、デジタル回路の入力端子は内部インピーダンスが高い(電源回路との絶縁性が高い)。そのため、入力端子がどこにも接続されないような状態にあると、近辺の静電気や電磁誘導による電流の侵入によって予期せぬ電圧が印加される場合がある(電圧は電流とインピーダンスを掛け合わせた値で、微弱な電流でも高い電圧としてあらわれる)。このように、入力端子がどこにも接続されていない状態は「浮いている」と表現されることが多く、内部の回路に障害(影響)を受けないよう対策をとらなければならない。 対策としては、電源電圧または接地電圧と、入力端子との間に、数kΩから数百kΩという比較的高い値の抵抗器を挿入する。電源(電源電圧)側に抵抗器を挿入することをプルアップと呼び、しばしば「電源に吊りあげる」などと表現することもある。また、接地(接地電圧、グランド)側に抵抗器を挿入することをプルダウンと呼び、しばしば「グランドに落とす」などと表現される。 プルアップまたはプルダウンされた入力端子は、出力端子が何も接続されていない状態でも、抵抗器(「プルアップ抵抗」、「プルダウン抵抗」という)の効果により、大きな電磁誘導等が起こらない限り電源電圧(High)または接地電圧(Low)のデジタル回路としての電圧が常に保たれる。なお、他のデジタル回路から出力信号を受ける場合、その出力中の回路は内部インピーダンスが極めて低くなるため、プルアップやプルダウンに使われる抵抗値は、回路全体としてはほとんど無視できる状態になる。 プルアップ抵抗の値は、大きすぎると絶縁とあまり変わらない状態になり、電磁誘導などに弱くなってしまう。しかし、小さすぎるとそこに接続される出力素子に大きな電流を流す要因となり、回路の消費電力の増大や最悪の場合出力素子の破損につながることになる。 入力端子につながる信号線が、通信線などのように比較的長い距離を持つものである場合、その線で電磁誘導が起こって電源電圧や接地電圧の範囲外の異常電圧が加わる可能性が高くなる。こういった場合には、プルアップ抵抗に並列にダイオードを挿入し、異常電圧による電流が電源線のほうに逃げてデジタル回路素子内に流れ込まないように工夫をする。この用途のダイオードは「クランプダイオード」と呼ばれる。デジタル入力の保護目的以外でも、電圧値域を制限する目的のダイオードはクランプダイオードと呼ばれる。 複数の回路数を持つ汎用的な集積回路を使った設計を行うとき、ひとつの集積回路の中に入っている全ての回路を使わずに、一部の回路だけを使うということがよく行われる。この時、使用しない回路の入力端子はその状態が High だろうが Low だろうが動作に全く関係がないため、ともすればどこにも接続されずに放置されてしまうことがある。しかし、入力端子の電位が設計範囲外になったりしきい値付近になると設計外の電流の流れが生じ、周辺の回路を巻き込んで破壊されてしまうことがある。特にTTLでは入力端子が解放されていても破壊の危険性が比較的低かったため、配線省略などを意図して未使用入力端子の処理をしないことも多かった。しかし、CMOSの場合は中間電圧が加わった時に大電流が流れるなど回路破壊の可能性が高く、入力端子の処理を怠ると危険である。また、TTLであっても未使用入力端子を放置すればゲート回路はノイズを入力源としたアンプとして働き、電力をムダに消費しながら周囲の信号の変化に応じて電源とグランドの電位を揺らすため避けなければならない。これらの処理を正しく行っていない回路は、一応は動作するためミスに気付き辛く、量産をしたり長期運用をしたときに故障率が異常に高いことによって発見されるということもある。実際の回路設計では、TTLであるかCMOSであるかを区別せず、未使用回路の入力端子は必ず処理されなければならない。 近年の組み込み用CPUなどの集積回路の場合、外部に付けなければいけない部品点数を削減するために、このプルアップ抵抗を集積回路の中に内蔵しているというものが多くなってきている。また、製品によっては、このプルアップ抵抗を使うか使わないかをソフトウェアで選択できるようになっているものもある。
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