X Window System 歴史

X Window System

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/15 14:03 UTC 版)

歴史

先駆的開発

X以前にも、ビットマップディスプレイを使ったシステムは存在していた。ゼロックスAlto(1973年)とStar(1981年)を開発している。AppleLisa(1983年)と Macintosh(1984年)を開発した。UNIX関連ではAndrew Project(1982年)とロブ・パイクBlit端末(1984年)がある。

Xの名称は、それ以前のW Window Systemの後継であることから名づけられた。W Window SystemはVというOS上で動作した。Wはネットワークプロトコルを使って端末やグラフィックウィンドウをサポートし、サーバ側でディスプレイリストを管理する。

1990年代初期のX Window Systemによるデスクトップ。twmxterm、xbiff、xload、グラフィカルなmanページブラウザなど、MIT X Consortiumのディストリビューションにあったアプリケーションが動作している。

起源と初期の開発

Xの考え方がMITで生まれたのは1984年、Jim Gettys(Project Athena)とBob Scheifler(MITコンピュータ科学研究所)によるものであった。ScheiflerはArgusというシステムのデバッグ用の表示環境を必要としていた。Project Athena(DEC、MIT、IBM によるコンピュータのユーザインタフェースを改善するプロジェクト)ではプラットフォームに依存せず、マルチベンダーシステムで利用できるグラフィックスシステムを必要としていた。当時、カーネギーメロン大学のAndrew Projectでウィンドウシステムが開発中だったが、ライセンス提供を受けることができず、他に代案もなかった。

解決策として、ローカルなアプリケーションも動作させることができ、リモートでも動作させることができるプロトコルの開発という考えが生まれた。1983年中ごろ、WがUNIXに移植された(Vのときの5分の1の速度)。1984年5月、Scheiflerは同期型だったWのプロトコルを非同期型に変更し、これがXバージョン 1となった。Xは世界初のハードウェアやベンダーに依存しないウィンドウシステム環境となった。

Scheifler、Gettys、Ron Newmanが開発を進め、Xは急速に進化していった。1985年1月にはバージョン 6をリリース。当時Ultrixを搭載したワークステーションをリリースしようとしていたDECは、Xの搭載を決断した。DECの技術者がX6をDECのQVSSディスプレイ付きMicroVAXに移植した。

1985年第二四半期、Xはカラーをサポートし、DEC VAXstation-II/GPXで動作した。これがバージョン 9となる。MITはX6を外部グループに料金を徴収してライセンスしていたが、X9リリース時点からMIT Licenseを適用することとした。X9は 1985年9月にリリースされた。

ブラウン大学のグループがIBM RT-PCにX9を移植したが、整列されていないデータの読み込みで問題が発生し、プロトコルに非互換となる変更が必要となった。このため、1985年末にバージョン 10となった。1986年には外部からXについての問合せが増えてきた。X10R2は1986年1月、X10R3は1986年2月にリリース。X10R3では広く製品に採用されるようになった。DECとヒューレット・パッカードはX10R3ベースの製品をリリースし、他のグループが アポロコンピュータのマシンやサン・マイクロシステムズのワークステーションへの移植を行い、IBM PC/ATへの移植も行われた。このころ、Autofactという見本市でXを使った商用アプリケーションが初めてデモンストレーションされた(Cognition Inc.の機械系CAEシステム)。X10の最後のバージョンはX10R4で、1986年12月にリリースされた。

Virtual Network Computing (VNC) がデスクトップの共有を可能にしているように、Xサーバをそのように拡張する試みはこのころから既に行われていた。例えば、Philip J. GustのSharedXツールがある。

X10は強力な機能を持っていたが、Xプロトコルはさらに広く使われるようになる前に、もっとハードウェア中立となるよう再設計する必要があることがわかってきた。しかし、MIT だけではそのような全面的な再設計をするだけのリソースがなかった。そこでDECのWestern Software Laboratory (WSL) がこのプロジェクトに参加を申し出た。DEC WSLのSmokey WallaceとJim Gettysは、DEC WSLがX11を開発し、それをX9やX10と同じ条件でフリーにリリースすることを提案した。設計は1986年5月に開始され、8月にはプロトコルが完成した。アルファテストは1987年2月に開始され、ベータテストは1987年5月に開始された。X11のリリースは、1987年9月15日に行われた。

Scheiflerが中心となって行われたX11プロトコルの設計は、USENETのニュースグループとオープンなメーリングリスト上で盛んに議論しながら進められた。したがって、Xは最初の大規模フリーソフトウェアプロジェクトと言われることもある。

MIT X ConsortiumとX Consortium, Inc.

1987年、X11の成功が明らかになると、MITはXの運営責任を放棄したいと考えるようになった。しかし、1987年6月に9社の主なベンダーが集まった会議で、各社はMITに対してXをまとめていくには中立的な団体が管理する必要があることを訴えた。1988年1月、MIT X Consotiumが非営利の業界団体として設立された。責任者はScheiflerで、今後のX開発の方向性を業界と学界の動向を加味して決定することとなった。1988年1月にはJim Fulton、1988年3月にはキース・パッカードが参加し、Jim はXlib/フォント/ウィンドウマネージャ/ユーティリティの開発、キースはサーバの再実装を分担するようになった。Donna ConverseとChris D. Petersonが同年末までに参加し、ツールキットとウィジェットを分担し、Project AthenaのRalph Swickと連携して作業を行った。MIT X ConsortiumはX11のリビジョンをいくつかリリースしていった。最初のX11R2は1988年2月にリリースされた。

1993年、MIT X Consortiumの後継としてX Consortium, Inc.(非営利組織)が設立された。そして、1994年5月16日にX11R6をリリース。1995年には、MotifツールキットとCommon Desktop Environmentの開発管理も行うようになった。X Consortium, Inc.は1996年末には解散し、X11R6.3を最後にリリースした。コンソーシアム参加各社による囲い込みのような状況になったことが解散の原因とされている[12][13]

The Open Group

1997年中ごろ、X Consortium, Inc.はXの管理運営をThe Open Groupに移管した。これは、Open Software FoundationX/Openが1996年初めに合併して結成された業界団体である。

The Open Groupは1998年初めにX11R6.4をリリースした。しかし、The Open GroupはXの開発資金を確かなものとするため、これまでのライセンス条件を変更し、これが議論を呼んだ[14]。新たな条件では、多くのプロジェクト(XFree86など)やいくつかの商用ベンダーでの採用が困難であった。これを受けてXFree86が分裂しそうになると、The Open Groupは1998年9月にX11R6.4を改めて従来のライセンス条件でリリースした[15]。The Open Groupの最後のリリースはX11R6.4 patch 3であった。

X.OrgとXFree86

XFree86の起源は、Thomas RoellとMark W. Snitilyが1991年に書いたPC/AT互換機向けのX11R5であるX386 serverに遡る。Snitily Graphics Consulting Services (SGCS) はこれを1992年にMIT X Consortiumに寄贈した。XFree86は時と共に進化していき、Xの実装としてのデファクトスタンダードとなった[4]

1999年5月、The Open GroupはX.Orgを設立した(後のX.Org Foundationとは異なる)。X.Orgは当時進行中だったX11R6.5.1のリリースを実施した。当時のX開発は壊滅寸前であった[16]。X Consortium, Inc.が解散した後の技術的進歩の多くはXFree86プロジェクトで生まれた[17]。1999年、XFree86はX.Orgの(会費を払わない)名誉会員となり[18]、XFree86とLinuxを製品に使いたいと思っていた多くのハードウェア企業がこれを歓迎した[19]

2003年までにLinuxとXの組合せが非常に一般的になってきても、X.Orgは活発にはならず[20]、やはり開発の中心はXFree86であった。しかし、ここでXFree86内で大きな意見の相違が発生した。XFree86は、あまりにも伽藍的開発モデルであり、開発者はCVSにコミットアクセスできず[21][22]、ベンダーは多数のパッチを保守する必要があった[23]。2003年3月、XFree86からキース・パッカードが追い出された。彼はMIT X Consortiumの消滅後にXFree86に参加していた[24][25][26]

X.OrgとXFree86は、Xの開発を推進するための組織改編についての議論を開始した[27][28][29]。Jim Gettysは2000年ごろからオープンな開発モデルが必要であることを強調していた[30]。GettysとPackardは他の何人かと共に効率的なXのオープン開発の要求仕様について議論を開始した。

そしてX11R6.4のライセンス問題の結果、XFree86 version 4.4はより制限されたライセンスで2004年2月にリリースされ、Xを使っている多くのプロジェクトでこれを使うのが困難になった[31]。追加された条項はBSDライセンスの宣伝条項に基づいており、フリーソフトウェア財団DebianもこれをGNU General Public License (GPL) と非互換であるとした[32]。このライセンス問題とソース修正の困難さから、多くの人が分裂の機が熟したと感じていた[33]

X.Org Foundation

2004年初め、 X.Orgとfreedesktop.orgの様々な人々が集まりX.Org Foundationが結成され、The Open Groupはx.orgというドメイン名の権利を譲渡した。これにより、Xの管理運営は大きく変化した。1988年以来(前のX.Orgも含めて)Xの開発運営は業界団体が行っていた。しかし、X.Org Foundationはソフトウェア開発者が主導し、バザールモデルに基づいたコミュニティによる開発であり、外部からの参加に依存している。個人参加も可能で、企業がスポンサーとして参加することも可能である。現在、ヒューレット・パッカードなどの企業がX.Org Foundationに援助している。

FoundationはX開発における監督的役割を担う。技術的判断はコミュニティでの合意形成によってなされ、何らかの委員会で決定されるわけではない。これはGNOME Foundationの非干渉主義的開発モデルに非常に近い。Foundationは開発者を雇っていない。

2004年4月、X.Org FoundationがXFree86 4.4RC2にX11R6.6の変更をマージしたX11R6.7をリリースした。GettysとPackardは、従来のライセンスのXFree86の最新版をベースとしてオープンな開発モデルを採用しGPLとの互換性を維持することで、かつてのXFree86開発者の多くを呼び戻した[32]

2004年9月、X11R6.8がリリースされた。これには多くの新機能が追加された(透明なウィンドウサポート、その他の視覚効果のサポート、3次元表示サポートなど)。また、外部アプリケーションとして、コンポジット型ウィンドウマネージャと呼ばれるもので見た目のポリシーを提供できるようになった。

2005年12月21日、X.Orgは従来からのユーザー向けにモノリシックなソースコードであるX11R6.9と、同じコードをモジュール化して分割したX11R7.0をリリースした[34][35]2006年5月22日、多数の機能強化を施したX11R7.1をリリースした[36]


  1. ^ Licenses”. X.org (2005年12月19日). 2007年10月23日閲覧。
  2. ^ Robert W. Scheifler and James Gettys: X Window System: Core and extension protocols: X version 11, releases 6 and 6.1, Digital Press 1996, ISBN 1-55558-148-X
  3. ^ Robert W. Scheifler (2012年6月7日). “X Window System Protocol” (英語). X.org. The Open Group. 2019年7月9日閲覧。
  4. ^ a b Announcement: Modification to the base XFree86(TM) license. 02 Feb 2004
  5. ^ SuperASCII 1991年8月号, p. 41.
  6. ^ "The X-Windows Disaster"
  7. ^ Re: X is painful 15 Nov 1996
  8. ^ SNAP Computing and the X Window System 2005
  9. ^ An LBX Postmortem 2001-1-24
  10. ^ タイムアウトの検出と回復 (TDR)”. Microsoft Docs. マイクロソフト (2021年1月1日). 2021年1月1日閲覧。
  11. ^ Why Apple didn't use X for the window system August 19, 2007
  12. ^ Financing Volunteer Free Software Projects 10 Jun 2005
  13. ^ Lessons Learned about Open Source 2000
  14. ^ X statement 02 Apr 1998
  15. ^ X11R6.4 Sample Implementation Changes and Concerns
  16. ^ Q&A: The X Factor February 04, 2002
  17. ^ The Evolution of the X Server Architecture 1999
  18. ^ A Call For Open Governance Of X Development 23 Mar 2003
  19. ^ XFree86 joins X.Org as Honorary Member Dec 01, 1999
  20. ^ Another teleconference partial edited transcript 13 Apr 2003
  21. ^ Keith Packard issue 20 Mar 2003
  22. ^ Cygwin/XFree86 - No longer associated with XFree86.org 27 Oct 2003
  23. ^ On XFree86 development 9 Jan 2003
  24. ^ Invitation for public discussion about the future of X 20 Mar 2003
  25. ^ A Call For Open Governance Of X Development 21 Mar 2003
  26. ^ Notes from a teleconference held 2003-3-27 03 Apr 2003
  27. ^ A Call For Open Governance Of X Development 24 Mar 2003
  28. ^ A Call For Open Governance Of X Development 23 Mar 2003
  29. ^ Discussing issues 14 Apr 2003
  30. ^ Lessons Learned about Open Source 2000
  31. ^ XFree86 4.4: List of Rejecting Distributors Grows Feb 18, 2004
  32. ^ a b Appendix A: The Cautionary Tale of XFree86 June 5, 2002
  33. ^ X Marks the Spot: Looking back at X11 Developments of Past Year Feb 25, 2004
  34. ^ X11R6.9 and X11R7.0 Officially Released December 21 2005
  35. ^ Modularization Proposal 2005-03-31
  36. ^ Proposed Changes for X11R7.1 2006-04-21
  37. ^ Getting X Off The Hardware July, 2004
  38. ^ X - a portable, network-transparent window system 2005年2月
  39. ^ Releases/7.2
  40. ^ Releases/7.3
  41. ^ Releases/7.4
  42. ^ Releases/7.5
  43. ^ Releases/7.6
  44. ^ Releases/7.7
  45. ^ X.Org






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