Winny事件 刑事裁判

Winny事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/23 20:42 UTC 版)

刑事裁判

裁判の経過

2004年5月31日、Winnyの開発・配布者である金子は、京都地方検察庁によって京都地方裁判所に起訴された。起訴するにあたっては、正犯である2人(愛媛県松山市の少年A・群馬県高崎市の男性B)の著作権侵害行為への幇助行為が、起訴事実として挙げられた。

また、京都府警察の事情聴取に対して、金子が「インターネットが普及した現在、デジタルコンテンツが違法にやり取りされるのは仕方ない。新たなビジネススタイルを模索せず、警察の取り締まりで、現体制を維持させているのはおかしい」などと供述していたことから、京都地検はコンピュータプログラム自体の違法性などの是非には言及せず、そのアプリケーションソフトウェアを作成・配布した金子の行為に幇助の故意を認め、雑誌などにより違法に使われている実態が既に明らかになった後も開発を続けていたことから、悪質であると断じた。これらの起訴事実について、金子は正犯A・Bとの面識がないことなどを挙げて全面否認し、以後、検察側と弁護側が全面的に争うこととなる。

2004年6月1日に保釈され、2006年7月3日に検察側は論告求刑において、金子に対して懲役1年を求刑した。第1審は、2006年9月の弁護側最終弁論の後に結審した。

控訴へ

2006年12月13日、京都地方裁判所(氷室眞裁判長)は、著作権法違反の幇助により、罰金150万円の有罪判決を言い渡した[31]。判決では著作権侵害に広く利用される現状を認識しながら不特定多数の者が入手できるようにしたことをもって幇助罪が成立するとした上で、「利用者の多くが著作権を侵害することを、明確に認識、認容しながら公開を継続した。影響は大きいが、自身は経済的利益を得ていない」と量刑の理由が述べられた[32]

京都地方検察庁の新倉明次席検事は「罰金刑は想定外で、非常に軽い」と不満を表し[33]、同日、検察・被告人双方が、判決を不服として、大阪高等裁判所に控訴した。

2009年10月8日大阪高等裁判所は、一審の京都地裁判決を破棄し、金子に無罪を言い渡した。小倉正三裁判長は「悪用される可能性を認識しているだけでは、幇助罪には足りず、専ら著作権侵害に使わせるよう提供したとは認められない」と、無罪の判決理由を述べた。

2009年10月21日大阪高等検察庁は判決を不服として、最高裁判所に上告した。

無罪確定

2011年平成23年)12月19日最高裁判所第三小法廷岡部喜代子裁判長)は、上告を棄却し、金子の無罪が確定した[34]。最高裁は「例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していたとまで認めることは困難である」との判断を下した。

判決は4対1の多数決で、大谷剛彦裁判官は「被告人に侵害的利用の高度の蓋然性についての認識と認容も認められると判断する」として多数意見に反対した。大谷は「Winnyは、侵害的利用の容易性といったその性質、不特定多数の者への無限定の提供というその態様などから、大量の著作権侵害を発生させる素地を有しており、現にそのような侵害的な利用が前述のように多発もしていたのであって、法益侵害という観点からは社会的に見て看過し得ない危険性を持つという評価も成り立ち得よう」「侵害的利用の抑制への手立てを講ずることなく提供行為を継続していたのであって、侵害的利用の高度の蓋然性を認識、認容していたと認めざるを得ない」などの理由を挙げ、「幇助犯が成立する」との反対意見を述べた[35]


注釈

  1. ^ 金子は一方で、ファイルをダウンロードするだけで自らはネットワーク上にアップロードしない「フリーライダー(タダ乗り)」を問題視していた。同時期に登場したBitTorrentFreenetオープンソースだったが、Winnyはソースコードを非公開にした理由も、別のユーザーにダウンロード専用に改造されることを防ぐためだったという[8]

出典

  1. ^ 株式会社インプレス (2023年3月10日). “映画化された「Winny」はどんな事件を引き起こしたか〜本誌記事で振り返る当時の衝撃”. INTERNET Watch. 2023年3月12日閲覧。
  2. ^ 津田大介『だからWinMXはやめられない』インプレス p2~3,249~255
  3. ^ https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1605/06/news004.html
  4. ^ https://ascii.jp/elem/000/000/420/420558/
  5. ^ a b https://atmarkit.itmedia.co.jp/news/200612/15/winny.html
  6. ^ a b c d e 木村公也「秘伝のサイバー捜査術」『警察公論』2015年3月号 p48~54
  7. ^ a b ファイル交換ソフト「Winny」で初の逮捕者,著作権侵害や帯域圧迫の歯止めになるか”. 日経XTECH. 2023年3月11日閲覧。
  8. ^ https://www.glocom.ac.jp/wp-content/uploads/2020/10/chijo106_042-053.pdf
  9. ^ https://web.archive.org/web/20040512063907/http://www.sanspo.com:80/sokuho/0511sokuho017.html
  10. ^ https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0405/11/news059.html
  11. ^ 第3回:京都府警がWinnyに叩きつけた挑戦状―「われわれはすべてを解き明かした」”. インプレス. 2023年3月11日閲覧。
  12. ^ http://www.law.tohoku.ac.jp/~serizawa/Napster2.html
  13. ^ https://xtech.nikkei.com/it/free/ITPro/USIT/20010218/1/
  14. ^ 『時事ニュースワード2005』時事通信出版社、2005年2月10日、182-183頁。ISBN 4788705508 
  15. ^ 『毎日新聞』2006年7月12日 朝刊 2面
  16. ^ ファイル交換ソフトに関する複数関与者の著作権侵害”. 日本弁理士会. 2023年3月9日閲覧。
  17. ^ デジタル化に伴う著作権の課題への対応のあり方”. 文部科学省. 2023年3月9日閲覧。
  18. ^ なぜWinnyからの情報流出が止まらないのか?”. ZDNET. 2023年3月9日閲覧。
  19. ^ https://www.businessinsider.jp/post-251652
  20. ^ 「ファイルローグが著作権侵害」、二審も認める”. ITMedia News. 2023年3月19日閲覧。
  21. ^ 平成14年(ワ)第4237号著作権侵害差止等請求事件”. 裁判所. 2023年3月19日閲覧。
  22. ^ 神近 博三 (2007年5月22日). “Winny事件判決で考える内面の問題”. ITPro (日経BP). https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20070514/270833/ 2016年11月17日閲覧。 
  23. ^ 三柳英樹 (2006年12月13日). “「Winny」開発者の金子勇氏が会見、本日中に控訴へ”. INTERNET Watch. https://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/12/13/14225.html 2016年11月17日閲覧。 
  24. ^ 秋田真志、石井徹哉、指宿信「Winny事件を考える」『情報ネットワーク・ローレビュー 』情報ネットワーク法学会、商事法務 2013年11月号 p163~184
  25. ^ https://internet.watch.impress.co.jp/docs/event/stnf/352462.html
  26. ^ https://diamond.jp/articles/-/9697
  27. ^ 濱野智史「脱社会性をめぐる試論」『智場』国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 2006年3月号 p58~62
  28. ^ 高木浩光「なぜ、それは「P2P」と呼ばれるのか」『智場』国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 2006年3月号 p54~57
  29. ^ 「ファイル共有」を巡る技術的問題点”. 産業総合研究所. 2023年3月11日閲覧。
  30. ^ 映画『Winny』公開記念 杉浦隆幸氏、高木浩光氏たちが振り返る「Winnyとは何だったのか」”. @IT. 2023年5月4日閲覧。
  31. ^ “「Winny」開発者の金子勇氏に罰金150万円の有罪判決”. INTERNET Watch. (2006年12月13日). https://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/12/13/14222.html 
  32. ^ 『毎日新聞』2006年12月14日号 朝刊 5面
  33. ^ 「ウィニー開発者が控訴 著作権違反幇助事件 - 関西」asahi.com: 2006年12月13日
  34. ^ “ウィニー開発者無罪確定へ…最高裁が上告棄却”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2011年12月20日). オリジナルの2012年1月3日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/20120103150459/http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111220-OYT1T00963.htm 2011年12月20日閲覧。 
  35. ^ 著作権法違反幇助被告事件(平成21(あ)1900号)”. 裁判所. 2023年3月13日閲覧。
  36. ^ 壇俊光 (2009年10月6日). “ブログとメディアと”. 2014年6月23日閲覧。
  37. ^ “「無罪主張悪あがき」NHK記者、ウィニー開発者に”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2009年10月9日). オリジナルの2009年10月12日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/20091012003048/http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20091009-OYT8T00259.htm 
  38. ^ “Winny事件”題材の映画「Winny」、本編映像を一部公開 公開は3月10日”. ITmedia NEWS. 2023年2月14日閲覧。


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