JR東日本E353系電車
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JR東日本E353系電車 | |
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基本情報 | |
運用者 | 東日本旅客鉄道 |
製造所 | 総合車両製作所横浜事業所 |
製造年 | 2015年 - 2019年 |
製造数 | 213両 |
運用開始 | 2017年12月23日 |
投入先 |
スーパーあずさ あずさ かいじ 富士回遊 おうめ はちおうじ 信州 |
主要諸元 | |
編成 |
9両(5M4T:基本編成) 3両(2M1T:付属編成) |
軌間 | 1,067 mm |
電気方式 | 直流1,500 V |
最高運転速度 | 130 km/h |
設計最高速度 | 130 km/h |
起動加速度 | 2.0 km/h/s(定員乗車) |
減速度 | 5.2 km/h/s |
編成定員 |
524名(グリーン車30名、基本編成) 150名(グリーン車なし、付属編成) |
編成重量 |
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全長 |
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全幅 | 2,920 mm |
全高 | 4,670 mm[要出典] |
車体 | アルミニウム合金 |
台車 |
軸梁式ボルスタレス台車 DT81、DT81A、DT82、DT82A(電動台車) TR265、TR265A、TR265B(付随台車) |
主電動機 |
かご形三相誘導電動機 MT75B |
主電動機出力 | 140kW/基 |
駆動方式 | TD平行カルダン駆動方式 |
編成出力 |
2,800 kW(基本編成) 1,120 kW(付属編成) |
制御方式 | IGBT素子VVVFインバータ制御 |
制動装置 | 回生・発電併用電気指令式ブレーキ |
保安装置 | ATS-P、ATS-Ps |
備考 | 出典:『鉄道ピクトリアル』通巻911号、pp.124 - 125 |
概要
1993年(平成5年)より中央本線(中央東線)の特急「スーパーあずさ」に使用されているE351系の老朽化による置き換え、および2001年(平成13年)より同線の特急「あずさ」「かいじ」を中心に使用されているE257系0番台についても、同じく老朽化が進行している185系を置き換えるための転用が予定されていることなどに対応するため、2014年(平成26年)2月4日に量産先行車の新造が発表され[1][JR 1]、2017年(平成29年)12月23日から営業運転を開始した[JR 2]。
9両編成(基本編成)と3両編成(付属編成)で構成され[2]、両者は主回路機器を中心に相違点が見られる。12両編成あたりの定員は674名(量産化後の定員)[JR 2]である。
総合車両製作所で量産先行車である基本編成のS101編成9両(4-12号車)と付属編成のS201編成3両(1-3号車)の計12両が製造され[3]、2015年(平成27年)7月25日に出場した[4]。松本車両センターに配属され、中央本線・篠ノ井線の東京駅 - 塩尻駅 - 松本駅間を中心に大糸線松本駅 - 南小谷駅間、篠ノ井線・信越本線松本駅 - 長野駅[5]間等にて性能評価や技術検証を行った後、量産車に反映されている[2]。
外観デザインは「伝統の継承」・「未来への躍動」をコンセプトにしており[6]、内装・外装ともにデザイン監修は工業デザイナーの奥山清行が担当した[2][7]。
「鉄道友の会」の第58回(2018年)ローレル賞を受賞した[8]。
構造
車体
車体は、アルミニウム合金製の中空押し出し形材を用いたダブルスキン構造を採用する[9]。運転台は高運転台構造で、先頭構体は屋根部と幌ふた部を除きFRPで構成されており、踏切事故対策のため先頭構体と運転室への出入台部をクラッシャブルゾーンとして設けている[10]。付属編成3号車のクモハE352形と基本編成4号車のクハE353形は貫通構造とし、連結・解放作業の容易化を目的に自動幌装置を装備しており、編成間の旅客の行き来が可能である[11]。付属編成1号車のクモハE353形と基本編成12号車のクハE352形も貫通構造の編成と同じデザインだが、貫通扉は準備工事段階に留めており、開くことができない[12][注 1]。
車体長は中間車が20,500 mm、先頭車が21,430 mm、台車中心間距離は14,150 mmである。曲線通過時に車体が傾斜した場合でも車両限界内に収まるよう、車体の最大幅を2,920 mmに抑えるとともに、車体断面を屋根部に向かって絞り込む構造としている[9]。床面高さは1,130 mmとし、ホームとの段差縮小を図っている[9]。また、中央本線の狭小トンネルに対応できるようにパンタグラフ折り畳み時の高さを3,950 mmとしている[9]。量産先行車には各車両間の車端外妻面(連結部)に車端ダンパーと車体間ダンパーの2つを取付けていた[13]が、量産車では全車両にフルアクティブ動揺防止装置を搭載したため車体間ダンパーは付いていない[JR 2]。各先頭車の屋根上には列車無線アンテナを搭載しており、3号車のクモハE352形0番台と12号車のクハE352形0番台には車内案内情報用のWiMAXアンテナを搭載している[14]。
床構造は、台枠上に粒状ゴム・アルミニウム板・ゴム床で構成された防音床構造として車内静粛性を向上させている[9]。なお、グリーン車はゴム床の代わりにカーペットを敷いている[9]。
車体塗色は、南アルプスの雪をイメージしたアルパインホワイトを基本に「あずさ」伝統のあずさバイオレット■の細帯を側面に配している[2][15]。前面は「ストリームブラック」、側窓周りは松本城の青みがかった漆黒をイメージした「キャッスルグレー」である[2]。
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シンボルマーク
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連結面
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PS39パンタグラフ
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行き先表示
車内
車内の内装は、南アルプスと沿線にある梓川の「きよらかさ」、ビジネスの「機能性」、レジャーの「高揚感」をコンセプトに、モダンでシンプルであるが上質で機能的な鮮やかさを表現しており、グリーン車と普通車で対照的な要素とすることで差別化を図っている[16]。
普通車は、2+2列配置の回転式リクライニングシートが960mmのピッチで設置されている。インテリアデザインは「活動的で明るい寒色」のライトグレーを基に車内全体を構成しており、腰掛は座面を黒色とし、背もたれ部分にはブルー系を基本をとした光沢感のある「みなも」のパターンを盛り込んだ配色としており、梓川の清らかな「水面のきらめき」を表現している。また、車体妻面から床にかけての配色は枕木方向に黒とライトグレーを分割した配色としており、空間的な広がりを意識させている[17]。
グリーン車は、2+2列配置の回転式リクライニングシートが1160mmのピッチで設置されている。インテリアデザインは「より上質な寛ぎ感のある暖色のベージュ」を基に黒と赤の色を効果的に配色しており、腰掛は座面をグレーとし、背もたれ部分には黒地に赤色を配置して、見る角度によってその割合が変化する表地を採用しており、「ハイテク・モダン」・「高揚感」・「機能感」を表現している。また、沿線の特産であるブドウを連想させる赤色を天井の中央部・車体妻面の妻壁(客室と出入口デッキを仕切る壁)にある貫通扉・床の通路部にレール方向に配色することで、ストリーム感を表現している[17]。
JR東日本の在来線特急車両としては初めて室内照明にLEDによる間接照明を採用しており、窓側の座席の上部にある荷棚の下部には、各座席の風向きと風量の調整が可能な個別吹出し式の空調装置を採用している[16]。また、グリーン車と普通車の全座席には、座席の後側の下部または肘掛けの下部[注 2]に電源コンセントとパソコンなどを置くことができるテーブルを設置[注 3]しており、車内案内表示器は2段表示のフルカラーLEDを採用している[16]。その他にも、多目的室・改良形ハンドル形電動車椅子での利用が可能な大型トイレ・横に2席ある座席を1席とし、開いたスペースに車椅子が固定可能な座席のほか、各車両の各デッキには防犯カメラ、客室とトイレには非常通話装置、1編成当たり1台の自動体外式除細動器(AED)などを備えている[18]。なお量産化に伴い、座席を減らしグリーン車などの一部号車に荷物置場が設けられた[JR 2]。なお普通車の座席上荷物棚にはE657系と同様に座席上方ランプが設置されている[19]。
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普通車車内
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グリーン車車内
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荷物置き場
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座席上方ランプ
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バリアフリートイレ
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洗面台
主要機器
電源・制御機器
制御装置は三菱電機製[20]のIGBT素子によるPWM制御インバータ1基で2両分(8基)の電動機を制御する1C4M(2群)のSC108 および1両分(4基)の電動機を制御する1C4MのSC109を搭載するVVVFインバータ制御である[21][22][23]。
ブレーキ方式は回生・発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキを採用している。これは、周囲に負荷となる車両が存在しない状況での回生ブレーキが失効することがあっても[注 4]、ブレーキ抵抗器・ブレーキチョッパ装置・ブレーキチョッパリアクトルなどで構成された回生・発電ブレンディングブレーキシステムによって発電ブレーキが併用されることで、安定した電気ブレーキ力の継続を図ることができる。ブレーキチョッパ装置はVVVFインバータ装置に内蔵されて両者間のぎ装配線の削減が図られているが[24]、車体傾斜に必要な機器が増加するため、従来は床下にあった機器の一部を車内に配置している[14]。
力行・ブレーキ指令とも、車両情報管理装置(TIMS)でノッチ条件や車両の荷重条件などが加味され、力行・ブレーキトルクの演算を行った後に、VVVFインバータ制御装置やブレーキ装置に力行指令やブレーキ指令を伝えている[14]。
補機用の電源となる補助電源装置 (SIV) は東洋電機製造製[20]のIGBT素子を使用した3レベル電圧系インバータで構成されており、集電装置からの直流1,500Vを電源として三相交流440V 60Hzを出力する[25]。並列同期運転が可能な SC110(定格容量260kVA)および待機二重形である SC89B(定格容量210kVA)を採用する[22][23]。基本編成は SC110 を3基搭載として並列運転を行うことで、故障時でも他の補助電源装置で基本編成全体の負荷を補うことができる[23]。付属編成は SC89B を1基搭載としたが、待機二重形とすることで故障時の冗長性を確保している[23]。
空気圧縮機はスクリュー式の MH3130-C1600S2(定格容量1,600L/min)を採用しており、車体傾斜装置使用に伴う圧縮空気の消費量の増加に対応するため、2号車のモハE353形1000番台を除いた全車両に搭載している[22][23]。
集電装置として搭載しているシングルアーム型パンタグラフ PS39は、E257系のPS36をベースに集電可能範囲を広くしたものである[14]。バネ上昇式・空気下降式であり、TIMSに対応する上昇検知装置を備える[26]、集電効率を向上させるためにメタライズドカーボンすり板を枕木方向に3列配置し、高速走行での追従性向上のためにオイルダンパーを搭載する[26]。
モハE353形2000番台とモハE353形0番台に1基、モハE353形500・1000番台に予備を含めて2基搭載する[27]。
主電動機は、E259系やE129系で実績のある自己通風式のかご形三相誘導電動機 MT75B を採用する[23][28]。降雪地帯での走行を勘案して、主電動機冷却風を車体妻面の幕部に設置された整風板から取入れて、風道のダクトを介して送る車体風道方式としている[23]。
空調装置は、集中式の AU738 を屋根上に1両あたり1台搭載しており[29]、容量は41.9kW(36,000 kcal/h)である[22]。E657系のAU734をベースに、車体傾斜させた場合でも車両限界内に収まるように外寸を変更したものである[29]。
台車
台車は、E259系やE657系をベースとした軸梁式軸箱支持装置を備えたボルスタレス台車を採用する[11]。電動台車は、フルアクティブ動揺防止装置を搭載したDT81、アンチローリング装置を搭載したDT82[注 5]、フルアクティブ動揺防止装置及びアンチローリング装置を省略したDT81Aを採用する[22]。付随台車は、フルアクティブ動揺防止装置および駐車ブレーキを備えたTR265、TR265から駐車ブレーキを省略したTR265A、フルアクティブ動揺防止装置及び駐車ブレーキを省略したTR265Bを採用する[11]。
車体傾斜機構は、E351系と同様の車体傾斜式車両であるが、マップ式制御のコロ式制御付き自然振子から、マップ式制御の車体と台車の間に取付けられた空気ばね(枕ばね)へ圧縮空気を吸排気することで、左右の空気ばねの高さを変えて車体を傾斜させる空気ばね式に変更されており、空気ばねへの吸排気機構に使用されている電磁弁を従来のON/OFF制御の電磁弁から比例制御の流量比例弁を用いることでE351系と同じ曲線通過速度を実現している[12][23]。最大傾斜角は1.5度とE351系より傾斜角度が小さいためパンタグラフは屋根の上に直接搭載されている[12]。パンタグラフを搭載した車両には前述のアンチローリング装置を搭載して車体傾斜の精度向上を図っている。量産先行車には12両編成時の両端となる制御車両(クモハE353形・クハE352形)およびグリーン車のサロE353形のみにフルアクティブ動揺防止装置を搭載していた[3]が、量産化では全車両に搭載され乗り心地に配慮することとなった[JR 2]。また、3両の付属編成は形式上全車が電動車となっているがクモハE352形とクモハE353形は運転台側の台車が付随台車、中間車側の台車が動力台車の「0.5M0.5T」の構成となり、編成単位では2M1TのMT比となっている[2]。
駆動装置は、CFRP製のたわみ板を採用した、TD平行カルダン駆動方式 TD282C-H であり[26][28]、耐水・耐雪構造を採用して歯車箱への浸水を防止している[28]。歯車は、はすば歯車を用いた一段減速式で歯車比は96:17=5.65とし、収納する歯車箱は騒音・振動抑制の観点から、FCD(球状黒鉛鋳鉄)製としている[28]。潤滑方式は、大歯車による完全飛沫潤滑方式とし、一体型歯車箱真円構造を採用して潤滑性能を向上させている。また、歯車と軸受への潤滑は共通の潤滑油によって行う[28]。
注釈
出典
- ^ a b c d e f 『鉄道ファン』通巻654号 p.10
- ^ “E353系が長野総合車両センターから出場”. 鉄道ファン・railf.jp. (2015年9月24日) 2015年10月18日閲覧。
- ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻911号 p.116
- ^ “HOME > DESIGN CONSULTING > WORKS > E353 SUPER AZUSA”. KEN OKUYAMA DESIGN. 2015年10月17日閲覧。
- ^ 『2018年 ブルーリボン・ローレル賞選定車両』(プレスリリース)鉄道友の会、2018年5月24日 。2018年5月24日閲覧。
- ^ a b c d e f 『鉄道ピクトリアル』通巻911号 p.121
- ^ 『鉄道ファン』通巻656号 p.51
- ^ a b c 『鉄道ピクトリアル』通巻911号 p.123
- ^ a b c “新型特急E353系、「空気ばね式車体傾斜」採用で変化は…外観と技術を見る”. Response (2015年8月4日). 2015年11月1日閲覧。
- ^ 『鉄道ファン』通巻656号 p.52
- ^ a b c d 『鉄道ファン』通巻656号 p.50
- ^ 『鉄道ピクトリアル』通巻911号 p.117
- ^ a b c 『鉄道ファン』通巻654号 p.14
- ^ a b 『鉄道ファン』通巻656号 p.49
- ^ 『鉄道ファン』通巻654号 p.15
- ^ 「次世代の中央線特急」こう変わる! 新型「スーパーあずさ」E353系に試乗 その乗り心地は - 乗りものニュース 2017年11月23日
- ^ a b 『月刊とれいん』通巻491号、中央東線特急“スーパーあずさ”用の次世代車 p.6
- ^ 石田俊之 (2016,1). “E353系特急形直流電車(量産先行車)の概要”. JREA (Japan Railway Engineers’Association) 59: 40100-40104.
- ^ a b c d e f 『鉄道ピクトリアル』通巻911号 p.124
- ^ a b c d e f g h 『鉄道ピクトリアル』通巻911号 p.125
- ^ 『鉄道ファン』通巻656号 p.53
- ^ 『東洋電機技報』通巻133号 p.31
- ^ a b c 『東洋電機技報』通巻133号 p.33
- ^ a b 『鉄道ピクトリアル』通巻911号 p.120
- ^ a b c d e 『東洋電機技報』通巻133号 p.32
- ^ a b 『鉄道ピクトリアル』通巻911号 p.119
- ^ a b c d e f g 『鉄道ファン』通巻687号 別冊付録 p.34
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 『鉄道ファン』通巻699号 別冊付録 p.34
JR東日本
- ^ 『中央線新型特急電車(E353系)量産先行車新造について』(PDF)(プレスリリース)東日本旅客鉄道、2014年2月4日 。2014年9月28日閲覧。
- ^ a b c d e f 『中央線新型特急車両 E353系の営業運転開始について ~12月23日(土)デビュー~』(プレスリリース)東日本旅客鉄道長野支社、2017年10月26日 。2017年10月26日閲覧。
- ^ 『2018年3月ダイヤ改正について』(プレスリリース)東日本旅客鉄道、2017年12月15日 。2017年12月15日閲覧。
- ^ 『2019年3月ダイヤ改正について』(PDF)(プレスリリース)東日本旅客鉄道、2018年12月14日 。2021年8月18日閲覧。
- ^ 『中央線特急に新たな着席サービスを導入します』(PDF)(プレスリリース)東日本旅客鉄道、2018年10月30日 。2021年8月18日閲覧。
- ^ 『通勤・通学に便利な臨時特急列車を運転します!』(PDF)(プレスリリース)東日本旅客鉄道長野支社、2023年1月20日 。2023年1月23日閲覧。
- 1 JR東日本E353系電車とは
- 2 JR東日本E353系電車の概要
- 3 形式
- 4 編成
- 5 脚注
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