野獣死すべし (1980年の映画) 野獣死すべし (1980年の映画)の概要

野獣死すべし (1980年の映画)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/19 05:57 UTC 版)

野獣死すべし
監督 村川透
脚本 丸山昇一
原作 大藪春彦
製作 角川春樹
製作総指揮 黒澤満
紫垣達郎
出演者 松田優作
小林麻美
室田日出男
鹿賀丈史
音楽 たかしまあきひこ
撮影 仙元誠三
編集 田中修
製作会社 角川春樹事務所/東映
配給 東映
公開 1980年10月4日
上映時間 118分
製作国 日本
言語 日本語
配給収入 7億3000万円[1][注 1]
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松田優作が鬼気迫る演技で主人公・伊達邦彦役を務めたが、人物描写などに原作との差異が少なからず存在するため、原作とは同名異作の映画とする評価(後述)がある。また、原作が主人公の行動を叙事的に描くことに注力するハードボイルド作品であるのに対し、本作は主人公の内面に主眼が置かれている。

封切り時の同時上映作品は『ニッポン警視庁の恥といわれた二人 刑事珍道中』。

ストーリー

ある大雨の夜、東京都内で警視庁捜査第一課の警部補、岡田良雄が刺殺されて拳銃を奪われ、さらにその拳銃を使用した違法カジノ強盗殺人事件が発生、世間は騒然となる。事件を起こした伊達邦彦は、東京大学卒のエリートで頭脳明晰、元射撃競技の選手でもあったが、かつて大手通信社外信部記者として世界各地の戦場を取材し、数々の地獄絵図を目の当たりにしたことで、社会性や倫理を捨て去った「野獣」と化した。伊達は通信社を退職後、翻訳のアルバイトをしながら趣味の読書とクラシック音楽鑑賞に没頭、社会とは隔絶した生活を送っていた。岡田の部下だった刑事、柏木秀行は伊達に目星をつけ、執拗につきまとう。

銀行を次の標的に定めた伊達は綿密な計画を企てるが、厳重な防犯体勢のもとでは単独犯行は不可能であると判断、計画の実行に向いた共犯者探しを始める。ある日、大学のゼミの同窓会に出席した伊達は、会場となったレストランで、無愛想で反抗的な態度を取るウェイターの青年、真田徹夫と出会う。真田に「野獣」を見て取った伊達は身元を調べ上げて行きつけのバーを探り、客として真田に接近。親しくなる中で、コンプレックスに満ちた生い立ちや、恋人・原雪絵に殺意を持っていることなどを聞き出す。

伊達は真田に銀行襲撃計画を明かし、さらに雪絵の殺害をそそのかす。銃の扱い方を伊達から教わった真田は、躊躇のすえに雪絵を射殺する。伊達は「君は今確実に、神さえも超越するほどに美しい」とたたえ、「野獣」として生きていくすべを説く。

2人は銀行襲撃を決行。行員に次々と銃弾を浴びせ、地下金庫から大金を収奪するが、伊達に思いを寄せる華田令子が客として偶然居合わせていた。伊達は、多くの客の中で令子にだけ引き金を引く。2人は鉄道を複雑に乗り継ぎ、警察の緊急配備網をすりぬけたが、柏木ただひとりが2人の乗る青森行きの夜行列車の中に追いつく。

列車の中でラジオから流れた事件の続報を機に柏木は伊達が一連の事件の犯人であることを確信して拳銃を向けながら取り調べを開始しようとするが、背後から迫ってきた真田にライフルを突きつけられ怯んだ所で拳銃を奪われてしまう。伊達は奪った拳銃の5連発のシリンダーに1発の銃弾を込め、柏木に向けて『リップ・ヴァン・ウィンクル』のあらすじを語りながらロシアンルーレットを始める。引き金が4回引かれても弾は発射されなかったが、逃げる柏木へ向けてついに5回目の引き金を絞った。伊達はさらに真田の持っていたライフルを奪い取って見回り中の車掌を射殺し、その死体を狂ったようにカメラに収める。

戦場記者時代の衣服を身に着けた伊達は、戦場の記憶と現実の区別がつかなくなり、ライフルを手放さず、支離滅裂なことを口走るようになっていく。列車の窓を破って飛び降りた2人は逃げた先の山中の洞窟で、居合わせたアベックを襲う。伊達が男を射殺したあと、真田が女を手込めにする間、伊達はその様子を何度も撮影しながら、戦場で人を殺すことの快楽に目覚めた経験を「神を超えた」という表現を用いてとうとうと語り続ける。すると伊達は目の前で女を抱く真田を射殺してしまう。天を指差す伊達の頭の中にはショパンピアノ協奏曲第1番第3楽章が流れていた。

白昼のコンサートホールの客席で、伊達はピアノ協奏曲第1番を聴きながら眠っていた。静かな暗いホールの中にただひとり残されていた伊達は目を覚まして立ち上がると、ホールの反響を確認するように2回短く叫び、その場を後にする。直後、伊達は砲弾が空を切る音を聞き、突然腹を押さえてのたうち回りながら、血まみれの柏木の姿を遠くに見た。

出演者

主人公。29歳。かつては通信社のカメラマンだったが、現在は友人の会社で翻訳の仕事を手伝っている。普段から生気が感じられず死人のようだと喩えられる事もある。読書と音楽鑑賞を趣味とする物静かな性格だが、多くの戦場を渡り歩いてきた経緯から心に狂気を秘めている。
23歳。社長秘書。伊達とはコンサート、レコード店と出会いを重ねる内に惹かれるようになっていく。後に伊達が引き起こした強盗事件の現場で彼が犯人であることを確信して追いかけようとするが、射殺されてしまう。
  • 役名不明(伊達の同窓生):林ゆたか
  • 東条(伊達の同窓生 総合商社鉄鋼部):阿藤海
  • 黒岩(闇カジノの店員):山西道広
  • 奥津(闇カジノの支配人):トビー門口
  • 梅津(東洋銀行課長):江角英
  • 峰原(ヤクザ 闇カジノの元締め):安岡力也
  • エリカ(伊達を誘う女):岡本麗
  • 預金係の行員:五月まりや、明日香和泉
  • 街頭の母親:船場牡丹
  • 石島(東洋銀行預金係):吉岡ひとみ
  • 東洋銀行警備責任者:清水宏
  • 東洋銀行ガードマン:友金敏雄
  • 東洋銀行ガードマン:草薙良一
  • 伊達の同窓生:鶴岡修、清水国雄
  • 平井(伊達の同窓生):加藤大樹
  • 白井(雪絵の店のボーイ):関川慎二
  • 夜行列車の車掌:相馬剛三
  • 街頭のチンピラ:畑中猛重、吉宮慎一
  • パトカーの警察官:谷本一
  • 東洋銀行ガードマン:永田伸介
  • 洞窟のアベック(女):雪江由紀
  • チンピラに絡まれる女:平野真理
  • 預金係の行員:古川みよ子、渡辺紀子、石田久美子、松香ふたみ
  • 東洋銀行資金係長:浜口竜哉
  • 東洋銀行ガードマン:二家本辰巳
  • 夜行列車の乗客:小見山玉樹
  • ガード下の中年男:伊豆見英輔、玉井謙介、島村謙次
  • ノンクレジット
伊達に偽りの取引で呼び出された挙句、強盗事件の計画に利用され、一時は逮捕拘束される。
訛りの混ざった口調で話す。伊達に銃を売り渡した直後、街中で射殺される。
警視庁の刑事。伊達が岡田殺害、カジノ襲撃事件の犯人とされる男の特徴と一致する事から他の刑事が無視する中、一人で執拗に追跡し時には接触する事もあった。強盗事件の後、逃亡を図る伊達を電車の中で追い詰めて自白させようとするが、すぐさま持っていた銃を奪われ撃たれてしまう。

注釈

  1. ^ キネマ旬報1981年2月下旬号では配給収入7.5億円となっている[2]

出典

  1. ^ 中川右介「資料編 角川映画作品データ 1976-1993」『角川映画 1976‐1986 日本を変えた10年』角川マガジンズ、2014年、281頁。ISBN 4-047-31905-8 
  2. ^ 「1980年邦画四社<封切配収ベスト作品>」『キネマ旬報1981年昭和56年)2月下旬号、キネマ旬報社、1981年、118頁。 
  3. ^ 『最後の角川春樹』、2021年11月発行、伊藤彰彦、毎日新聞出版、P149~150
  4. ^ 『昭和55年 写真生活』(2017年、ダイアプレス)p38
  5. ^ 角川春樹「§7 エクスカリバー」『試写室の椅子』角川書店、1985年9月10日、58頁。ISBN 4048831895 
  6. ^ 『最後の角川春樹』、2021年11月発行、伊藤彰彦、毎日新聞出版、P151~152


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