出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/19 23:20 UTC 版)
例
等比級数とそれの解析接続を複素平面上で可視化したもの。左図の水色点はsを表しており、水色の円形領域は級数∑∞ k=0 sk の収束半径を示している。 右図の連結した黄線は、∑∞ k=0 sk の有限和∑n k=0 sk において、n=0 からn=20 までの値をプロットし、それを繋いだものである。緑点は1/1−sを表している。 sが収束半径内にあるとき、有限和の値は1/(1-s)に吸い込まれる螺旋状に変化することがわかる。sが収束半径外にあるとき、有限和の値は中心を1/(1-s)として外側に広がる螺旋状に変化することがわかる。
※ 以下の説明においてi は虚数単位 とする。
複素数 z を変数とし、無限級数 によって定義される関数
f
0
(
z
)
=
∑
n
=
0
∞
z
n
=
1
+
z
+
z
2
+
⋯
{\displaystyle f_{0}(z)=\sum _{n=0}^{\infty }z^{n}=1+z+z^{2}+\cdots }
を考える。この関数は、収束半径 が 1 であり
g
(
z
)
=
1
1
−
z
{\displaystyle g(z)={\frac {1}{1-z}}}
に収束 する。すなわち |z | < 1 の時に g (z ) に収束する。
しかしながら、 g (z ) は z ≠1 において定義され、 f 0 (z ) と定義域が異なることが分かる。
※ 以下では見通しをよくするために g (z ) と級数を比べながら説明するが、普通は解析接続を用いるときに g (z ) のように定義域の広い関数はわかっていない。
ここで、 g (z ) を f 0 (z ) の収束円内の点 z = − 1/2 を中心にテイラー展開 してみれば
f
−
1
2
(
z
)
=
∑
n
=
0
∞
(
2
3
)
n
+
1
(
z
+
1
2
)
n
=
2
3
+
4
9
(
z
+
1
2
)
+
8
27
(
z
+
1
2
)
2
+
⋯
{\displaystyle f_{-{1 \over 2}}(z)=\sum _{n=0}^{\infty }\left({2 \over 3}\right)^{n+1}\left(z+{1 \over 2}\right)^{n}={2 \over 3}+{4 \over 9}\left(z+{1 \over 2}\right)+{8 \over 27}\left(z+{1 \over 2}\right)^{2}+\cdots }
であり、その収束半径は (3/2) であるので |z +(1/2) | < (3/2) において定義できることになる。つまり、 f (z ) から f −(1/2) (z ) に取り替えることによって定義域を拡げられることがわかる。さらに z = − 1, − 2, … でのテイラー展開を考えることにより定義域を拡げていくことができる。この操作により定義域を拡げていけば 実部 Re(z ) が 1 より小さい任意の z に関して、適当な無限級数をとればその値を定義できることが分かる。
さらに z = (1 + i )/2 における g (z ) のテイラー展開
f
1
+
i
2
(
z
)
=
∑
n
=
0
∞
(
1
+
i
)
n
+
1
(
z
−
1
+
i
2
)
n
{\displaystyle f_{1+i \over 2}(z)=\sum _{n=0}^{\infty }(1+i)^{n+1}\left(z-{1+i \over 2}\right)^{n}}
=
1
+
i
+
2
i
(
z
−
1
+
i
2
)
−
2
(
1
−
i
)
(
z
−
1
+
i
2
)
2
−
4
(
z
−
1
+
i
2
)
3
−
⋯
{\displaystyle =1+i+2i\left(z-{1+i \over 2}\right)-2(1-i)\left(z-{1+i \over 2}\right)^{2}-4\left(z-{1+i \over 2}\right)^{3}-\cdots }
を考えると収束半径は 1/√2 である。 O (a ,r ) によって、 a を中心とする半径 r の開円板 を表すことにすると f 0 は O (0,1) において定義され、 f (1+i )/2 は O ((1+i )/2,1/√2) において定義されていることになる。この 2つの開円板の共通部分 では f 0 (z ) = f (1+i )/2 (z ) であり
h
(
z
)
=
{
f
0
(
z
)
(
z
∈
O
(
0
,
1
)
)
,
f
1
+
i
2
(
z
)
(
z
∈
O
(
1
+
i
2
,
1
)
)
{\displaystyle h(z)={\begin{cases}f_{0}(z)&\left(z\in O\left(0,1\right)\right),\\f_{1+i \over 2}(z)&\left(z\in O\left({1+i \over 2},1\right)\right)\end{cases}}}
という関数を定義できる。この h (z ) は、共通部分では f 0 (z ) = f (1+i )/2 (z ) の値を取り、それ以外では、定義されている方の関数の値を取る関数である。これは Re(z ) = 1 という線を越えて、 f 0 の定義域を拡げることができることを意味している。このように級数で表現でき、定義域が異なるが、共通部分では同じ値を取る関数を用いて定義域を拡げていく手法、あるいは、 f 0 (z )に対して 上で与えたような h (z ) のように定義域を拡げた関数のことを解析接続という。