見かけの等級
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/05 04:50 UTC 版)
測定
精密な等級の測定には、写真や電子的な検出装置の校正が欠かせない。一般に校正は、分光フィルタを使って等級が正確にわかっている測光標準星を、同一の条件の下で同時観測することが必要とされる。さらに、望遠鏡で実際に受光される光の量は、地球の大気を透過することで減少するため、目標と測光標準星とのエアマスを考慮する必要がある。一般的には、等級がかなり近い既知の恒星をいくつか観測することとなる。大気の経路に大きな違いがないようにするため、測光標準星は目標と近い位置にある星が好まれる。目標と測光標準星の天頂距離(あるいは地平高度)が多少異なる場合は、エアマスの関数としての補正係数を導き出すことで、目標の位置のエアマスとして適用することができる。このような校正を経ることで、あたかも大気の上から観察されたときのような見かけの等級を得ることができる。
計算
天体が暗く見えるほど、その等級の値が大きくなり。5等級の差は、ちょうど明るさの比100に対応する。 したがって、等級をm、スペクトル帯をxとしたとき、この波長での等級mxは、以下の式で求められる。
これを常用対数でより一般的に表現すると、以下のようになる。
ここで、 Fxは分光フィルタxを使用して観測された流束密度であり、Fx,0はその測光フィルタの基準流束(ゼロ点)である。5等級の増加は正確に100分の1の明るさへの減少に相当するので、1等級の増加は、5√100 ≈ 2.512 分の1の明るさの減少に相当する(ポグソン比)。
等級の差を m1 − m2 = Δm、2つの星の流速密度をそれぞれF1、F2とした場合、明るさの比は、以下の式で求められる。
例:太陽と月
太陽の見かけの等級は−26.74(明るい)で、 満月の平均等級は−12.74(暗い)。
等級の差:
明るさの比:
太陽は満月の約400000倍明るく見える。
等級の加算
明るさを加算したい場合、例えば、近接した二重星の測光では、2つの星が出す光の出力を合成したものしか測定できないかもしれない。個々の成分の等級だけを知っていて、その二重星の合成等級をどのように計算するか? これは、各等級に対応する明るさ(線形単位)を足すことで計算できる[19]。2つの恒星の等級をm1、m2、合成等級をmfとすると、2つの恒星の明るさは以下の式で求められる。
を得るために解くと、
放射等級
一般的に等級がある波長範囲に対応する特定のフィルタバンドでの測定値を指すのに対し、見かけまたは絶対放射等級 (mbol、bolometric magnitude) は、ある天体が放射する電磁スペクトルのすべての波長にわたって積分された、天体の見かけまたは絶対等級である。(それぞれ、天体の放射照度または出力としても知られている)。見かけの放射等級スケールのゼロ点は、見かけの放射等級0等が2.518×10−8 W/m2の受信放射照度に相当する、という定義に基づいている[20]。
絶対等級
見かけの等級が特定の観測者から見た天体の明るさの尺度であるのに対して、絶対等級は天体固有の明るさの尺度である。星の流束は逆二乗則に従って距離と共に減少するため、星の見かけの等級は、その絶対光度と距離(および減光)の両方に依存する。たとえば、ある距離にある星の見かけの等級は、その2倍の距離にあって4倍明るい星と同じ見かけの等級となる。対照的に、天体の固有の明るさは、観測者の距離や減光に依存しない。
恒星など太陽系外の天体の絶対等級Mは、10 パーセク(約32.6光年)の距離から見たときの見かけの等級として定義されている。太陽の絶対等級は、Vバンド(緑)で4.83等、Bバンド(青)で5.48等である[21]。
惑星や小惑星などの太陽系内の天体の場合、絶対等級Hは、観測者と太陽の両方から1 天文単位 (au) 離れていて、太陽から照らされた側が全て観測者の側に向いていた場合の見かけの等級で表される。
標準参考値
波長域 | λ (μm) |
Δλ/λ (半値幅) |
m = 0での流束(Fx,0) | |
---|---|---|---|---|
Jy | 10−20 erg/(s⋅cm2⋅Hz) | |||
U | 0.36 | 0.15 | 1810 | 1.81 |
B | 0.44 | 0.22 | 4260 | 4.26 |
V | 0.55 | 0.16 | 3640 | 3.64 |
R | 0.64 | 0.23 | 3080 | 3.08 |
I | 0.79 | 0.19 | 2550 | 2.55 |
J | 1.26 | 0.16 | 1600 | 1.60 |
H | 1.60 | 0.23 | 1080 | 1.08 |
K | 2.22 | 0.23 | 670 | 0.67 |
L | 3.50 | |||
g | 0.52 | 0.14 | 3730 | 3.73 |
r | 0.67 | 0.14 | 4490 | 4.49 |
i | 0.79 | 0.16 | 4760 | 4.76 |
z | 0.91 | 0.13 | 4810 | 4.81 |
等級スケールは、逆対数スケールである。等級に関するよくある誤解に、スケールが対数的であるのは人間の目自体が対数的な反応を持っているためである、というものである。ポグソンの時代にはこれは真実であると考えられていたが(ウェーバー・フェヒナーの法則を参照)、現在では反応はべき乗則であると考えられている[23]。
光は単色ではないため、等級は複雑である。光検出器の感度は光の波長や光検出器の種類によって異なる。 そのため、等級の示す値を意味あるものにするには、どのように等級を測定するかを指定する必要がある。この目的を満たす等級システムとして、3つの波長帯で等級を測定するUBVシステムが広く使われている。このシステムでは、U(365.2 nmを中心とした近紫外域)、B(444.8 nmを中心とした青色領域)およびV(550.5 nmを中心とした、昼間の人間の視覚範囲の中央)の3つの異なる波長帯で等級を測定する。Vバンドは、人間の肉眼で見たときの等級に非常によく対応している。特に言及なく見かけの等級が示される場合、通常はV等級を示している。
赤色巨星や赤色矮星のような低温の星は、スペクトルの青や紫外領域ではほとんどエネルギーを放出しないため、それらの放射は、UBVスケールでは過小評価されることが多い。
等級の測定は、注意深く取り扱われる必要があり、似たもの同士を測定することが非常に重要である。20世紀初頭以前のオルソクロマチック写真フィルムでは、赤色光よりも青色光に敏感であったため、青色超巨星のリゲルと赤色超巨星の不規則変光星ベテルギウス(増光時)の相対的な明るさが、人間の目が知覚するものとは逆となる。この手法で得られた等級は、写真等級 (photographic magnitude, mpg) と呼ばれ、肉眼で見たときの等級である実視等級 (visual magnitude, mv, mpv) と区別された。後に写真で実視等級も測定されるようになったため、写真実視等級とも呼ばれた。
絶対等級が測定されている天の川銀河内の天体については、天体までの距離が10倍になるごとに、見かけの等級に5が加算される。天の川銀河をはるかに超えて非常に遠い距離にある天体では、この関係は赤方偏移と一般相対論による非ユークリッド幾何学的な距離測定のために補正を必要とする[24][25]。
惑星やその他の太陽系天体の場合、見かけの等級は、その位相曲線と、太陽と観測者までの距離から導き出される[要出典]。
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