薙刀 その他の薙刀

薙刀

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/18 02:35 UTC 版)

その他の薙刀

鍵付薙刀

鍔の代わりに鍵()の付いた薙刀。薙刀本来の動作に加え、鍵で引っかけることが可能。戸田派武甲流薙刀術が使うことで知られている。

筑紫薙刀

筑紫薙刀(つくしなぎなた)とは、室町時代九州で流行した特異な形状の長柄武器で、九州の筑紫地方で多く用いられたためこの名がある。通常の薙刀とは違い茎を柄に挿して目釘で固定するのではなく、刀身の後端部、通常の刀であれば茎に相当する部分の峰側に櫃(ひつ)と呼ばれる輪状の金具を持ち、この部分に柄を挿込んで固定する、日本の武器としては珍しい方式の武具である。

個性が強く、戦闘力も高い薙刀である[13]

中国大陸より伝来した各種の長柄武器から発展したものと考えられているが、農器具としての「」には「草刈大鎌」「枝切大鎌」と呼ばれる長い柄をつけたものがあり、同じように櫃を用いて固定する形式のものであることから、これらの長柄鉈から発展したという説も有力である。このため、筑紫薙刀を「鉈長刀(なた-なぎなた)」または「無爪鉈長刀(むそう-なた-なぎなた)」とも呼称する。「鉈長刀」の呼び名は、『大友興廃記』の中でも度々登場し、大友氏ではこの武具が重用されていたことを示している。

また、大阪府羽曳野市壷井八幡宮には神功皇后所持との伝承がある薙刀が収蔵されており、この薙刀は筑紫薙刀の形式である。

袋薙刀

安土桃山時代になり、筑紫薙刀と同じように刀身の峰側に櫃(ひつ)を持ち、この部分に柄を挿し込んで固定して使用する形式の長柄武器が出現した。これらは「袋薙刀(ふくろなぎなた)」と呼ばれ、瀬戸内水軍衆を中心に用いられている。

“袋”という名称であるが、「袋槍(ふくろやり)」とは違って刀身の根元がソケット状の「袋穂(ふくろほ)」になっているわけではなく、武器としての形状は筑紫薙刀とほぼ同じである。筑紫薙刀との違いは、刀身の形状が薙刀とほぼ同じ冠落造りや菖蒲造りの刀身形状を持つものからの無い平造りのもの、ほぼ半月形に近い形状のものまで多岐に渡っていることと、櫃が二つあるものが多く存在することである。

通常の薙刀や槍と違い刀身と柄が容易に分離できる構造となっているのは、持ち運びの際に嵩張ることを避けるためである、との考察もあるが、長柄武器で持ち運びの際に嵩張るのは柄であって刀身ではないことから、この説には異論も出されている。水軍衆に多く用いられた武器であることから、を応急的に長柄武器として用いるための手段として誕生したのではないか、とも考えられている。

筑紫薙刀とは起源・発祥共に関連性はない、と考えられているが、何故ほぼ同形状同用途の武具が年代を経て出現しているのかについては判然としていない。現在のところ、筑紫薙刀と同じく農器具としての長柄鉈から発展したという説が有力とされているが、既存の脇差や短刀を長柄武器として用いるために櫃を付け足して後造の薙刀として用いたものが発祥であるとの説もあり、起源や発祥については解明されていない部分が多い。

日本式眉尖刀

日本式眉尖刀(にほんしきびせんとう)または眉尖刀(びせんとう)は中国大陸より伝来した眉尖刀から発展したものと考えられている。中国式の眉尖刀とは違い日本刀や薙刀と同様の重ね構造で刃金が存在するとされるが、身幅が広いという特殊な形状である。現存する流派では元戸隠流(忍術)の武神館が使用している。しかし、実際に昔から日本で使われていたかは不明な武器である。


注釈

  1. ^ 長巻の登場以後は、長巻を“薙刀”もしくは“長刀”として記述している例もあるので注意が必要である。
  2. ^ 「てぼこ」とも読む。
  3. ^ 刀身の長さと同程度。
  4. ^ 徒歩で行う戦闘。
  5. ^ 切先を右に向けて刃をにしたときに見える側に銘を刻む。

出典

  1. ^ a b ダイヤグラムグループ編 編、田村優・北島孝一 訳「棹状武器4」『武器 歴史,形,用法,威力』(第19刷)マール社、1982年12月20日(原著1980年)、62頁。ISBN 4-8373-0706-X 
  2. ^ a b “なぎなた”, プログレッシブ英和中辞典goo辞書, 小学館, http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/je2/56138/m0u/ 2011年9月11日閲覧。 
  3. ^ a b c d 樋口隆晴. 歴史群像 武器と甲冑. 歴史群像 
  4. ^ 金子常規. 兵器と戦術の日本史. 中公文庫 
  5. ^ a b 近藤好和. 騎兵と歩兵の中世史. 吉川弘文館 
  6. ^ 日本の武器と武芸. 宝島社 
  7. ^ a b 戸田藤成. 武器と防具 日本編. 新紀元社 
  8. ^ a b 中西豪・大山格. 戦国武器甲冑事典. 誠文堂新光社 
  9. ^ a b c トマス・D・コンラン. 日本社会の史的構造 古代・中世 南北朝期合戦の一考察. 思文閣出版 
  10. ^ 図説 日本武道辞典. 柏書房 
  11. ^ 歴史人 2020年9月 p.40. ASIN B08DGRWN98
  12. ^ 戸部民夫. 日本武器・武具事典. ワニ文庫 
  13. ^ a b c d e f 図説・日本武器集成. 学研 
  14. ^ a b c HELENE, BELLEC, CHLOE ANNE「なぎなたの変遷に関する歴史社会学的研究――武士の武器、女性の武道、そして国際発展――」『京都大学学位論文』14301甲第20720号、2017年9月25日、doi:10.14989/doctor.k20720 
  15. ^ 啓子, 福田「【原著】「リズムなぎなた」の発祥から伝播・発展に関する研究」『武道学研究』第46巻第1号、2013年9月30日、doi:10.11214/budo.46.31ISSN 0287-9700 
  16. ^ a b c 金梨子地家紋散薙刀(きんなしじかもんちらしなぎなた)(市指定重要有形文化財) | 歴史・文化 | 観光 | 広島の観光スポット”. 広島の観光情報ならひろたび. 2021年8月26日閲覧。
  17. ^ 笹間良彦. 図説日本合戦武具事典. 柏書房 
  18. ^ a b 得能一男. 日本刀図鑑 保存版. 光芸出版 
  19. ^ イラストで時代考証2 日本軍装図鑑 上. 雄山閣 
  20. ^ 『日本刀が語る歴史と文化』雄山閣、8,131頁。 
  21. ^ 福永酔剣「ほねばみ【骨喰み】」『日本刀大百科事典』 5巻、雄山閣、1993年、28頁。ISBN 4-639-01202-0 
  22. ^ 福永酔剣「なまずおとうしろう【鯰尾藤四郎】」『日本刀大百科事典』 4巻、雄山閣、1993年、86頁。ISBN 4-639-01202-0 
  23. ^ 大薙刀
  24. ^ 大多喜城分館 収蔵資料 大薙刀 <館蔵>
  25. ^ 大薙刀銘備州長船兼光一振 - 南アルプス市


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