自律神経失調症 自律神経失調症の概要

自律神経失調症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/07 12:16 UTC 版)

自律神経失調症
概要
診療科 精神医学, 心身医学
分類および外部参照情報
ICD-10 G90[要出典]
ICD-9-CM 337.9[要出典]
MeSH D001342

概念

自律神経失調症とは、

  1. 色々な身体の症状の訴えがあるが,それに関連する器質的な異常は見つからないものについて、これを自律神経系に関連した症状とみなして呼ぶ呼び名で[1][6][3][2][8][9][10]
  2. 症候群として理解され[1][8]
  3. 定義は漠然としており,いわゆる医学的に正式な病名ではなく、明確な定義がない[8][10][11]

この病気は日本では広く認知されているもののDSMでは定義されていない。ICD-10 においては、G90 Disorders of autonomic nervous system [12][13]に分類され、特定の病名に帰着しないものを G90.9 としている[要出典]

日本で一般に広く使われている用語「自律神経失調症」は、1960年代東邦大学の阿部達夫の提唱によるものだが[14]現在は医学界では独立した病気として認めていない医師も多い。疾患名ではなく「神経症うつ病に付随する各種症状を総称したもの」というのが一般的な理解である[要出典]。なお「自律神経失調症」の研究は第二次世界大戦前はドイツ語圏などで自律神経学の中心テーマだったのだが、戦後は「自律神経失調症」は「junk disease」とみなされて、戦前の研究は忘れられた[14]。ただし「自律神経失調症」の意味するところは、各時代・各研究者すなわち戦前の各研究、阿部達夫の当初の提唱で違いがある[14]。阿部達夫自身は1965年に以下のように述べている[15]

「…その訴えが自律神経を介しておこるものが多いところから,いわゆる自律神経失調症などとよばれている場合もある.しかしこれら患者の多くは脚気とは全く無関係であることや,一部は自律神経失調とも関係のないところから,わたくしは不定愁訴症候群として一括しておくのがよいかと考えている」

阿部達夫は、自律神経失調症を「不定愁訴[16]や「不定愁訴症候群」[9]とほぼ同義として提唱したのである[17]

2009年、宮岡等北里大学医学部精神科学主任教授)らは「かつて内科医は自律神経失調症という病名をよく用いていた」[18]と記述し、同年、天野雄一(東邦大学医学部心身医学講座)らも、『最近では用いられなくなってきたがいわゆる「自律神経失調症」と呼ばれるカテゴリーに相当する』と述べた[19]。2011年には「かつて『不定愁訴症候群」や「自律神経失調症」という言葉を用いていた病態』[20],といった言及がなされた。「不定愁訴症候群」に関連しては、和雑誌における研究論文において,DSM-IVの登場以降は『「不定愁訴」という表現は減少し,「身体表現性障害」がMUSを代表する表現となっていたように思われる』[21] (MUS: medically unexplained symptoms)と記述されている。しかしながら、自律神経失調症という用語そのものは2024年時点でも医学論文で見られる表現である[注釈 1]

この病気は実際にはうつ病、パニック障害過敏性腸症候群頚性神経筋症候群身体表現性障害などが原疾患として認められる場合が多く、原疾患が特定できない場合でもストレスが要因になっている可能性が高いため、適応障害と診断されることもある[要出典]。また、などであっても似たような症状が表れることがある[要出典]

批判

自律神経失調症は、暫定的な診断[22]であるとか、「便宜的な“診断名”」[23]、「病名のくずかご」[24]、「ゴミ箱的診断」で「医学的に正しいものとは言いがたい」[25]、安易な使用が「精神疾患の鑑別をなおざりにし,時に身体疾患の厳密な鑑別さえ失わせてきた」という批判[18]がある。

症状

めまい、冷や汗が出る、体の一部が震える、緊張するようなところではないのに動悸が起こる、血圧が激しく上下する、急に立ち上がるときに立ち眩みが起こる、朝起きられない、耳鳴りがする、吐き気、胃痛、胃もたれ下痢頭痛、微熱、過呼吸、倦怠感、不眠症頻尿アレルギー腰痛関節痛、生理不順、味覚障害といった身体症状から、人間不信、情緒不安定、不安感やイライラ、被害妄想状態など精神的な症状が現れることも多い。

自律神経失調症には様々な症状があり、病態は人それぞれの為、判断しにくい。どの症状がどれだけ強いのか弱いのかは患者それぞれである。患者によっては、その他の症状はあまり強く現れないにもかかわらず、ある特定の症状のみが強く表れる場合もあり、症状はきわめて多岐に亘る。また、シェロンテストで異常がみられることも多い。

原因

薬物やアルコールの過剰摂取、著しい精神的ショックを起因とするもの、また女性では更年期が原因のホルモンバランスの乱れ等が挙げられるが、遺伝的に自律神経の調整機能が乱れている患者も存在するため一概に言う事は出来ない。しかし、少なくとも患者の半数は日常生活上のストレスがあると言われている。

機序

目前に捕食動物が現れたり、敵との闘争が必要な状況下になると、副腎髄質よりアドレナリンなど神経伝達物質が分泌され、交感神経を興奮させる。交感神経は脈拍や呼吸数の増加、体温の上昇などの反応を引き起こし、身体を予想される激しい活動に備えた状態にする。このため交感神経は「闘争と逃走の神経」などとも呼ばれる。

一方で副交感神経は、睡眠や休息を行う時に活性化し、脈拍や呼吸数の低下、身体の弛緩など、身体をリラックスさせ、休息に適した状態にする。睡眠や安静には、副交感神経の活動が必須である。

健康な状態では、これら相反する2つの神経活動の綱引きのバランスが保たれ、身体は問題なく休息と活動のそれぞれに適した状態に移行できる。しかしなんらかの理由により、これらの神経活動の調和が崩れ、休息し入眠したいのに交感神経が活性化し、異常な興奮や発汗で眠れない、また全く正反対に、副交感神経が過剰に活発化し、活動が必要な状況で極端な無気力・無反応になるなどの症状が現れたものが自律神経失調症である。

人体ではおよそ12時間交代でこの二つの神経の優位が入れ替わるとされているが、過労、ストレスなどで脳を休める時間が減ると自律神経が興奮し、結果的に交感神経と副交感神経の優位入れ替わりのバランスが崩れ、自律神経失調症となるとされている。

自律神経の中枢は脳の視床下部というところにあり、この場所は情緒、不安や怒り等の中枢とされる辺縁系と相互連絡していることから、こころの問題も関わってくる。

治療

多くの患者は内科ではなく心療内科神経科に通院する[要出典]。治療には抗不安薬やホルモン剤を用いた薬物療法や、睡眠の周期を整える行動療法などが行われている[要出典]。最近では体内時計を正すために強い光を体に当てる、見るなどの療法もある[要出典]

西洋医学での改善が認められない場合は、鍼灸整体マッサージカウンセリングなどが有効な場合もある[要出典]

成長時の一時的な症状の場合、薬剤投入をしないで自然治癒させる場合もある[要出典]。また、自ら自律訓練法を用いて心因的ストレスを軽減させ、症状を改善させる方法もある[要出典]

薬物療法

トフィソパムは自律神経失調症に対して適応がある[26]頭痛めまい不安、意欲低下などの症状を改善するとされる一方、副作用にもめまいや頭痛が含まれる[26]

漢方薬

漢方薬の場合、若年から老年まで幅広い年齢に適用できる[信頼性の低い医学の情報源?][27]。方で副作用が既往に生じたものは原則として適応外[28]

症状と所見を元にした頻用処方を以下に示す(主訴→随伴症状の順)[28]

脚注

注釈

  1. ^ 医学中央雑誌で、2019年から2024年まで、自律神経失調症を検索したところ、299件以上の論文(会議録除く)があった。

出典

  1. ^ a b c 医学書院 2009, p. 1368.
  2. ^ a b c 医歯薬出版 2005, p. 886.
  3. ^ a b c 弘文堂 2011, p. 503.
  4. ^ a b c 日外アソシエーツ 1990.
  5. ^ 日本ストレス学会 & 財団法人パブリックヘルスリサーチセンター 2011, p. 491.
  6. ^ a b 南山堂 2015, p. 1182.
  7. ^ 日本神経学会用語委員会 2008, p. 209.
  8. ^ a b c 金原出版 2013, p. 292.
  9. ^ a b 弘文堂 1993, p. 377.
  10. ^ a b 井口 登美子 1993.
  11. ^ 実務教育出版 2011, p. 491.
  12. ^ WHO作成 ICD-10リスト(2007) G90 Disorders of autonomic nervous system[リンク切れ]
  13. ^ 標準病名マスター作業班 病名検索[リンク切れ]
  14. ^ a b c 田村直俊「自律神経失調症と自律神経不全症」『自律神経』第52巻第1号、日本自律神経学会、2015年、(2)-(3)頁。
  15. ^ 阿部 達夫 1965.
  16. ^ 南山堂 2015, p. 2157.
  17. ^ 阿部達夫 (1982). “不定愁訴症候群”. 東邦医学会雑誌 29 (3): 318-327. 
  18. ^ a b 宮岡 等 2009.
  19. ^ 天野 雄一 2009.
  20. ^ 宮岡 等 & 宮地 英雄 2011.
  21. ^ 岡田 宏基 2017.
  22. ^ 日本女性心身医学会 2015.
  23. ^ 田中 聡 2011.
  24. ^ 永田 勝太郎 2007, p. 111.
  25. ^ 渡邉 義文 2005.
  26. ^ a b 処方薬事典 トフィソパム錠50mg「トーワ」の基本情報”. 日経メディカル. 2024年9月7日閲覧。
  27. ^ 精神疾患・発達障害に効く漢方薬―「続・精神科セカンドオピニオン」の実践から (精神科セカンドオピニオン) 内海 聡 (著)
  28. ^ a b c d e f g h i j k 日本医師会『漢方治療のABC』医学書院〈日本医師会生涯教育シリーズ〉、1992年、129-132頁。ISBN 4260175076 

参考文献

  • 伊藤 正男、井村 裕夫、高久 史麿 編『医学書院 医学大辞典』(2版)医学書院、2009年。ISBN 978-4-260-00582-1 
  • 『南山堂医学大辞典』(20版)南山堂、2015年。ISBN 978-4-525-01080-5 
  • 『最新医学大辞典 第3版』(3版)医歯薬出版、2005年。ISBN 978-4-263-20563-1 
  • 『現代精神医学事典』弘文堂、2011年。ISBN 978-4-335-65143-4 
  • 『新版精神医学事典』弘文堂、1993年。ISBN 4-335-65080-9 
  • 『現代臨床精神医学』(12版)金原出版、2013年。ISBN 978-4-307-15067-5 
  • 日本ストレス学会、財団法人パブリックヘルスリサーチセンター『ストレス科学事典』実務教育出版、2011年。ISBN 9784788960848 
  • 『内科學』(9版)朝倉書店、2007年。ISBN 978-4-254-32230-9 
  • 永田 勝太郎『心身症の診断と治療 : 心療内科新ガイドラインの読み方』診断と治療社、2007年。ISBN 9784787815637 
  • 日本女性心身医学会 編『最新女性心身医学』ぱーそん書房、2015年。ISBN 9784907095246 
  • 『ステッドマン医学大辞典 改訂第6版』(6版)メジカルビュー社、2008年。ISBN 978-4-7583-0021-6 
  • 『和英医学用語大辞典』日外アソシエーツ、1990年。ISBN 978-4-8169-0915-3 
  • David Robertson『ロバートソン自律神経学』(3版)エルゼビア・ジャパン、2015年。ISBN 9784860343040 
  • 野間 俊一「DSM-5 によって失われた身体症状症に関連する歴史的概念」『精神科治療学』第32巻第8号、2017年8月、997-1002頁。 
  • 岡田 宏基「医学的に説明困難な身体症状 ─ MUS (medically unexplained symptoms) および FSS (functional somatic syndrome) ─」『精神科治療学』第32巻第8号、2017年8月。 
  • 田中 聡「神経衰弱」『精神科治療学』第26巻増刊号 神経症性障害の治療ガイドライン、2011年10月、209頁。 
  • 宮岡 等、宮地 英雄「機能性身体症候群 (FSS)」『精神科治療学』第26巻増刊号 神経症性障害の治療ガイドライン、2011年10月、261頁。 
  • 田中 英高「起立性調節障害」『精神科治療学』第22巻第7号、2007年7月、791-800頁。 
  • 熊野 宏昭「うつ病,自律神経失調症,心身症の鑑別」『日本医師会雑誌』第139巻第9号、2010年12月、1845-1849頁。 
  • 宮岡 等「精神科診療とFSS」『日本臨牀』第67巻第9号、2009年9月。 
  • 渡邉 義文「身体愁訴とうつ近縁疾患」『綜合臨牀』第54巻第12号、2005年12月、3092-3096頁。 
  • 井口 登美子「婦人科と自律神経失調症」『日本産科婦人科学会雑誌』第45巻第5号、1993年5月。 
  • 天野 雄一「身体症状の訴えが持続する患者への対応」『心身医学』第49巻第3号、2009年、255-259頁、doi:10.15064/jjpm.49.3_255 
  • 瀧井 正人「不定愁訴症候群(いわゆる自律神経失調症)の臨床像に関する検討 : 当科心身症外来患者における知見に基づいて」『心身医学』第34巻第7号、1994年10月、573-580頁、doi:10.15064/jjpm.34.7_573 
  • 片山 義郎「自律神経失調症と精神神経科臨床」『心身医学』第29巻第1号、1989年1月、63-69頁、doi:10.15064/jjpm.29.1_63 
  • 阿部 達夫「ビタミンと臨床」『日本内科学会雑誌』第54巻第9号、1965年、989-1006頁、doi:10.2169/naika.54.989 
  • 安部井 瑠美子「自律神経失調症の臨床的および機能的研究」『日本内科学会雑誌』第50巻第5号、1961年、369-381頁、doi:10.2169/naika.50.369 
  • 角田 美穂「精神科外来における病名記載の実態に関する検討」『信州医学雑誌』第54巻第6号、2006年、387-393頁、doi:10.11441/shinshumedj.54.387 
  • 日本神経学会用語委員会『神経学用語集』(改訂第3版)文光堂、2008年5月12日。ISBN 9784830615375 

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