翼面荷重 航空機の発達と翼面荷重

翼面荷重

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/08/09 04:12 UTC 版)

航空機の発達と翼面荷重

1903年ライトフライヤー号(翼面荷重:7.1kg/m2)の初飛行以来、航空機の速度は大きくなっていき、それに比例して翼面荷重は大きくなっていった。しかしながら高速で飛行する航空機であっても、離着陸の際には速度を落とす必要があるため、翼面荷重を大きくするにも限界があった。

しかし1930年代にフラップが発明された事により、高翼面荷重の機体でも低速時のみ大揚力を発生させる事が可能となったため、低速性能と高速性能の両立が可能になった。旅客機DC-2は当時としては高翼面荷重の機体であり、300km/hを超える最高速度を誇ったが、同時に低速性能にも優れており100km/h以下であっても失速しないで飛行可能であった。以降、航空機は高翼面荷重の設計に拍車がかかる事となった。

第二次世界大戦期の戦闘機開発と翼面荷重

上述の通り、速度性能の向上に伴う高翼面荷重化は世界的な傾向であり、第二次世界大戦期も例外ではない。

ただし、第二次世界大戦期の日本軍は、戦闘機の開発の際この翼面荷重を低く抑えることを非常に重視している。理由は、概ね以下のようなものだと考えられる。

  • 空戦の際、低翼面荷重による旋回力を生かした水平方向の格闘能力を重視したこと。
  • 艦上戦闘機の場合、その空母での運用の制約で80mほどの滑走距離で離陸する能力が求められたということ(空母用のカタパルトを実用化できなかった事が影響している)。
  • 陸上での運用においても、アメリカなどに比べ滑走路整備能力に著しく劣っていたため、距離の短い簡易な滑走路でも運用できること。
  • 主たる戦場が太平洋島嶼部であるため長大な航続能力が求められたこと(ただしこれは低翼面荷重のみならず、主翼内に燃料タンクを設けた事とも関係する)。

現代機の翼面荷重

高翼面荷重機の例(SEPECAT ジャギュア)。超音速攻撃機練習機。高速性、安定性を重視し、主翼面積は小さい。
低速性能重視の航空機は、低翼面荷重の設計になる。その最たるものはグライダーである。

航空機の登場からしばらく、航空機の速度性能は上昇の一途をたどっており、それにつれて翼面荷重も高くなっていき、F-104戦闘機でそのピークに達した。しかし1950年代から60年代にかけて、速度性能はほぼ頭打ちとなっている。よって現代の航空機の設計では、速度性能と翼面荷重の値に相関関係は見られず、別の理由によって翼面荷重が決定される傾向にある。

F-104以降の戦闘機は、運動性を重視し、翼面荷重を小さく設計する傾向にある。例えばアメリカ機では、F-4戦闘機は比較的翼面荷重を小さく設計した。これは艦上戦闘機としての離着艦性能を重視したためであるが、結果としてその運動性の高さでベトナム戦争で活躍した。その次世代機であるF-15はさらに翼面荷重が小さくなった。

軍用機・民間機を問わず大型機は、高翼面荷重の設計になる傾向にある。大型機において翼面荷重を低くすると野放図に機体規模が大きくなってしまうため、要求される性能を満たしかつ機体規模を最小限に抑えるには、高翼面荷重の設計にする事が欠かせない。前述のF-104戦闘機は主翼面積が極めて小さく、高翼面荷重設計の機体の代表格であるが、後述の通り大型ジェット旅客機の翼面荷重は、軒並みF-104よりも高い。

A-10攻撃機のように低速性能を重視した機体は、翼面荷重が小さい。また現代航空機においても、小型プロペラ機、グライダーといった極めて低速の機体は、依然として翼面荷重は極めて小さい。

ただし戦闘機の設計においては、近年はあまり翼面荷重の値にはこだわらない傾向がある。かつては航空機の翼平面形は直線翼のみであったが、現代では後退翼やデルタ翼、可変翼など種類が多くなっている。さらにはストレーキカナードといった種々の設計手法が存在する事から、単純な翼面荷重の値で戦闘機の性能比較ができなくなっている。ブレンデッドウィングボディのような胴体と翼を滑らかにつないだ設計では、どこまでが翼でどこからが胴体なのか区別ができないため、翼面積、ひいては翼面荷重の値がそもそも明確ではない。最近ではCCV設計やジェットエンジンの推力偏向など、揚力を上げるという手段以外での旋回性能向上手段が存在することから、なおさら翼面荷重が性能に寄与する割合は低くなっている。




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