筋筋膜性疼痛症候群 線維筋痛症との関係

筋筋膜性疼痛症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/31 22:02 UTC 版)

線維筋痛症との関係

線維筋痛症(せんいきんつうしょう)は全身に原因不明の激しい痛みが生じる病気である。

筋筋膜性疼痛症候群と線維筋痛症は類似点が多くあり、線維筋痛症の診断基準の一つに圧痛点が11カ所以上に見られる事という基準がある。一方で、筋筋膜性疼痛症候群の診断基準は圧痛点が1か所以上に見られる事という基準であり、筋筋膜性疼痛症候群の全身症状が線維筋痛症であると考えられている。

線維筋痛症との違い

線維筋痛症(FMS)との関連がしばしば指摘されるが、筋筋膜痛症候群(MPS)の筋骨格痛が限局しているのに対し、線維筋痛症は全身、複数に及ぶ。MPSの関連痛が高頻度なのに対し、FMSは低頻度である。MPSの圧痛点が限局しているのに対しFMSは複数で全身性である。MPSがトリガーポイントがあるのに対し、FMSではない。MPSでは疲労、不眠、異常感覚、頭痛、過敏性腸症候群、浮腫感覚が低頻度なのに対しFMSでは、これらが高頻度で起こるなどの違いがある。筋筋膜痛症候群は筋肉の使い過ぎが原因で起こる痛みと考えられるのに対し、線維筋痛症は、全身性の慢性疼痛である点などが違う[4]

椎間板ヘルニアなど神経根障害との誤診に対する警告

筋筋膜性疼痛症候群の痛みは、他の多くの病気と誤診されることがある。例えば、椎間板ヘルニア脊柱管狭窄症、すべり症、坐骨神経痛、椎間板症、分離症、椎間関節症、変形性関節症変形性脊椎症梨状筋症候群頸肩腕症候群腱鞘炎、半月板障害などいわゆる骨格系の異常により神経を圧迫している神経根障害の痛みと誤診される事がある。この誤診に対して複数の学者、医師から警告が出されている。

事例

有名な誤診事例の一つとして、筋筋膜性疼痛症候群を発表したDr.Janet G. Travellはジョン・F・ケネディ大統領の主治医であった。ケネディー大統領は椎間板ヘルニアと診断をされて、ヘルニアに対する手術をしたが、症状が改善せず、続いて脊椎固定手術をして更に症状が悪化。その後、このDr.Janet G.がケネディー大統領をこの筋筋膜性疼痛症候群と診断、トリガーポイント注射などの治療を施して、症状が大幅に改善した事例がある。

最初の警告

Dr.Janet G. TravellとDr.David G. Simonsは執筆した『Travell & Simons’ Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual (筋筋膜性疼痛と機能障害:トリガーポイントマニュアル)』にて、痛みの部位毎に誤診される可能性がある病名の例を上げ、筋筋膜性疼痛症候群が他の病気と誤診されているとの警告を出した。

海外での警告

Dr.Janet G. TravellとDr.David G. Simonsによる警告の他、後発の他の医学書などでも多くの警告が発せられている。例えばDr.I. Jon Russell が執筆した『Clinical overview and pathogenesis of the fibromyalgia syndrome, myofascial 』では、以下のような警告が書かれている。

Many patients with pain of muscular origin are misdiagnosed with other conditions including degenerative spine disease, degenerative disc disease, tendonitis, arthritis, bursitis, carpal tunnel syndrome, and temporomandibular joint syndrome [TMJ].

(日本語要約) 筋肉そのものを起源とする痛みを持った多くの患者は、脊髄・椎間板の異常、腱炎、関節炎、滑液包炎、手根管症候群顎関節症を含む他の病気と誤診されている。

日本では使用している言語の違いもあり、日本人にとってこれらの警告を直接的に見聞きする機会は非常に少なく認知度も低い。

日本での警告

日本では、多くの筋筋膜性疼痛症候群を治療している整形外科医の加茂淳などが、この誤診に関する警告を発しているが、その警告に対して十分な検討がなされているとは言えず、筋筋膜性疼痛症候群に対する認知も進んでいない。実際に、他国では国際筋痛症学会(International MYOPAIN Society)など筋筋膜性疼痛症候群を含む筋肉の疾患について研究する学会も組織されているが、日本ではこのような組織も無く、筋筋膜性疼痛症候群の情報を探しても日本語の文献は非常に少ない状態である。

歴史

  • 筋筋膜性疼痛症候群は1983年にアメリカの医師en:Janet G. TravellとDr.David G.Simonsが執筆した『Travell & Simons’ Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual (筋筋膜性疼痛と機能障害: トリガーポイントマニュアル)』にて明確に発表された。
  • 1990年にDr.David G. Simonsが筋筋膜性疼痛症候群の診断基準を発表。
  • 現在トリガーポイントの第一人者、関西医療大学(旧関西鍼灸大学)の黒岩共一教授(鍼灸師)らの研究によりTravell & Simonsの時代には解明されていなかった部分が増補・修正され、より高度な医療へと進化している。
  • 近年、結合組織(Fascia)・筋膜(Myo-Fascia)の機能に注目し疼痛治療を発展させている組織に、JMPS研究会(日本筋膜性疼痛症候群研究会)がある。

医師主体の組織ではあるが、鍼灸・理学療法等幅広い技術を検証しつつ、エコーガイド下で筋膜をリリースする注射療法を開発。離島・僻地であっても、大掛りな設備がなくても、貢献出来る技術である。 評価されるべきである。




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