現代ポートフォリオ理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/22 06:11 UTC 版)
資産の価格付け
合理的な投資家は現有のポートフォリオのリスクと収益の特性を改善できると分かって初めて、投資を見直す。MPTは資産の価格付けという文脈において、正しく価格付けされた資産への要求される収益を導出する。
CAPM
資産の収益は今日保有する資産の量に依存する。資産が市場ポートフォリオに加えられる時に支払われるべき価格は市場ポートフォリオのリスク-収益の特性が改善することを保証せねばならない。もし投資家が活用できる無リスクレートと全体として市場のリスクがあるならば、CAPMは市場において、ある資産に対して理論的に要求された収益を導き出すモデルである。
市場ポートフォリオと資本市場線
CAPMが成立しているならば、接点ポートフォリオと全てのリスク資産からなる時価総額加重平均ポートフォリオは一致する。よってCAPMが成立している下での接点ポートフォリオ(全てのリスク資産からなる時価総額加重平均ポートフォリオ)のことを市場ポートフォリオ(market portfolio)と呼ぶ。またリスク・リターン平面上において切片が無リスクレートであり、市場ポートフォリオを通る直線を資本市場線(Capital market line, CML)と呼ぶ。リスク・リターン平面上において資本市場線はリスク資産のみからなる効率的フロンティアの接線となっている。
CMLを数式で表現すると以下の通りになる。
ここで、 は市場ポートフォリオの収益率、 は無リスクレートであり、 は市場ポートフォリオの収益率の標準偏差となる。CMLは任意の平均分散的に効率的なポートフォリオ の期待収益率 がポートフォリオ の収益率の標準偏差 の線形関数となっていることを述べている。
証券市場線
証券市場線(Security market line, SML)のグラフは縦軸に期待収益率を、横軸にベータ[8] を採る。ベータと期待収益率の関係式は以下の通りである。
SMLはベータ・リターン平面上において、任意の個別資産の期待収益率 がそのベータ の線形関数になっていることを述べている。ある資産が、リスクに対して妥当な期待収益を得られるかどうかを確認するには、SMLは有効な道具である。個々の証券はSMLのグラフ上にプロットされる。SMLよりも上の領域にある資産のリスクと収益がプロットされれば割安であり、下の領域ならばその逆である。なぜならば、同じベータでSMLよりも高い収益が出ているならばリスクに見合った以上の収益を得ていることであり、低い収益が出ているならばリスクに見合った収益を得ていないからである。
証券市場線を用いて、市場ポートフォリオと比べて、ある資産が割高か割安の指標を用いることが出来る。
証券特性線
証券特性線(security characteristic line, SCL)は市場リターンrM と個別証券i の収益率ri との間の関係で表現でき、一般的に以下の数式で表される。
リスクの分解
リスクは、市場関連リスクであるシステマティックリスク(systematic risk)と証券固有のリスクであるノンシステマティックリスク(nonsystematic risk, 固有リスク(idiosyncratic risk)とも、個別リスク(specific risk)とも呼ばれる)に分解される[9]。
リスクを分解して数式化すると以下の通りになる。
第2項である個別リスクは個々の資産に関連したリスクであり、市場とは無関係である為、分散投資で個別リスクを軽減することは可能である。
一方、第1項であるシステマティックリスクは、すべての証券に共通のものである為、キャンセルアウトは出来ない。マーケットニュートラル戦略を採用して、ベータを減らすことでリスクを減らすことが出来る。
プロジェクトポートフォリオと他の"非金融"資産への応用
専門家のいくらかは、MPTをプロジェクトや他の資産へ適用している[10]。金融ポートフォリオの範囲を越えてMPTを適用するときは、ポートフォリオの違いによって考慮しなければならないところがある。
- 金融ポートフォリオは絶えず可分(divisible)であるが、一方、新しいソフトウェアの開発といったプロジェクトのポートフォリオでは不可分(lumpy)である。例えば、3種類の株式をそれぞれ44%、35%、21%からなるポートフォリオを計算することは出来る一方、あるITポートフォリオへの最適ポジションは単純に計算できないかもしれない。ITプロジェクトは少なくとも全か無か(all or nothing)である為、分割不可能である。ポートフォリオの最適化の方法は、ITといった分割不可能なプロジェクトを考慮に入れなければならない。
- 金融ポートフォリオの資産は流動的であるため価格付けは可能であるが、新しいプロジェクトへの投資機会は制限されており、また、サンクコスト(sank cost、埋没費用)を失うことなしに既に着手したプロジェクトを放棄することは出来ない。
MPTや上述のポートフォリオを使う可能性を否定する必要性はない。通常には金融ポートフォリオに適用できない数学的に表現された制約で以ってMPTは最適化を行うことができる。
その上、MPTの最も単純な要素のいくつかは、いかなる種類のポートフォリオに事実上当てはめることが出来る。投資家のリスク許容度を理解するという概念は、様々な種類の分析問題に当てはめることが出来る。しかしながら、MPTはリスクの尺度として、歴史上に発生した分散(historical variance)を利用しているのでITのように歴史がないものには適用できない。このような場合、MPT投資との境界として、「資本を失うよりもROIの機会が少ない」とか、「投資の半分以上の資金を失う」とかを一般的な観点から用いる。不確実性の観点から予測される損失についてリスクを設定する時、投資家のリスク許容度を理解するという概念は他のいかなる投資のタイプと完全に置換されうる[10]。
注釈
出典
- ^ Markowitz & (1952)
- ^ a b c Merton & (1972)
- ^ 池田 & (2000), pp. 46–50
- ^ 池田 & (2000), pp. 65–68
- ^ a b 池田 & (2000), pp. 69–71
- ^ デービッド・G.ルーエンバーガー、2015、『金融工学入門』、日本経済新聞出版 ISBN 978-4532134587
- ^ Tobin & (1958)
- ^ ベータの導出証明はLuenberger[1997](今野・鈴木・枇々木[2002] pp.224-225)に記載されている。
- ^ Luenberger[1997](今野・鈴木・枇々木[2002] pp.229-231)
- ^ a b Douglas Hubbard How to Measure Anything: Finding the Value of Intangibles in Business" John Wiley& Sons, 2007
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