火星の植民 居住適性

火星の植民

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/16 15:06 UTC 版)

居住適性

生理学的に見れば、火星の薄い大気は真空同然である。宇宙服などで保護されていない生身の人間であれば、火星の表面ではわずか20秒で失神状態に陥り、1分たりとも生存できないと考えられている。しかし火星の環境は、灼熱の水星金星極低温の木星、さらに遠い軌道を巡る外惑星真空小惑星と比べればはるかに住みやすい環境だとも言える。なお、火星よりも地球に近いのは金星の雲の上くらいであろうと言われている[5]。また、地球上の人間が探検した範囲内にも、火星と類似した自然環境がある。有人気球が到達した最高高度は、1961年5月に記録された34,668m(113,740フィート[6]で、この高度での気圧は火星表面と同じぐらいである[7]南極の最低気温はマイナス90度ほどであり、火星の平均気温よりも少し低い。また、地球の砂漠も火星の地形と類似している。

2007年3月21日、NASAの副局長のシャナ・デールは「地球から4000万マイル離れた火星に人類の第2の故郷が見出されることを期待している」と語った[8]

将来的には、火星の環境を、人間を含めたさまざまな生物がそのまま居住可能なように改造することが出来るようになるのではないかと予測されている。とはいえ、火星環境の地球化、いわゆるテラフォーミングが本当に実現可能かどうかは現時点では何ともいえない。特に火星の脱出速度が小さいため、居住可能な大気を維持し続けるのは困難である[9]。倫理上の問題も指摘されており、議論となっている。

放射線

火星は地球に見られるような全惑星規模の強い地磁気を持っていない。このことは薄い大気と相まって火星表面に到達する電離放射線の量を増やすことになる。マーズ・オデッセイは、搭載された火星放射線環境測定機器 (MARIE) によって人間への危険がどの程度かを測定した。その結果、火星周回軌道上は国際宇宙ステーションと比べて放射線のレベルが2.5倍も高く、平均で22mrad/日(220µGy/日、または0.8Gy/年)であることがわかった。3年間このレベルの放射線に晒された場合、現在NASAが採用している安全基準の限界付近まで到達する。ただし、火星表面では大気による吸収によって放射線レベルは多少低くなるだろうし、高度やその地方に固有な磁場によって、大きな地域差が生じている可能性もある。地表に設置される住居や作業場は火星の土を使って保護することができ、屋内で過ごしている間は被曝を大きく減らすことができる。

太陽フレアに伴って起こる荷電粒子の放出現象英語版 (SPE) は大量の放射線を発生させる。火星の宇宙飛行士は、より太陽に近い軌道にあるセンサーによってSPEの警告を受け、火星に放射線が到達する前にシェルターに避難すればよい。だが、SPEには指向性があるらしく、火星軌道上のMARIEによって観測されたが地球では検出されないものもあった。つまり、太陽から見て地球と火星が違う方向にあるときにSPEが起きて火星の方向へ粒子が放出された場合は地球ではこれを探知できず、火星は何の前触れも無く放射線に襲われることになる。したがって、火星を脅かす全てのSPEを確実に探知するには、太陽の周囲を取り巻くSPE観測機のネットワークを構築する必要がある。

宇宙放射線について知らなければならないことはまだ多く残っている。2003年、NASAのジョンソン宇宙センターは新たにNASA宇宙放射線研究室 (NSRL) を開設し、ブルックヘブン国立研究所とともに加速器を活用して、宇宙放射線のシミュレーションを行っている。この施設では宇宙線を防護する技術を開発する[10]とともに、宇宙線が生物へおよぼす影響についても研究する[11]

通信手段

地球との通信は、火星の地平線上に地球が存在する半火星日の間は比較的簡単に行える。また、NASAはいくつかの火星周回機により通信を中継しているので、火星は既に通信衛星を持っていると言える。これらは植民が行われる遥か以前に使えなくなると思われるが、その頃にはまた別の通信衛星が使われているはずである。

会合周期の一部の日、つまり太陽が火星と地球の間に入り一直線になる外合の前後の約2週間は、地球との直接通信は困難になる[12]。また、光の速さには限りがあるため、通信が1往復するまでに、最接近時で6.5分、外合時では44分のタイムラグが発生する。このため、地球とのリアルタイムな音声会話は不可能である。しかし他のコミュニケーション手段、例えばEメールや音声メールを用いることは、若干の不便を伴うにしても可能である。

普通のトランシーバーは見通し距離以上に届くはずである。火星の高層大気にも、地球の高層大気と同様に電離層が存在するものの、地球での場合と同じように、火星でも電離層を利用して火星表面の遠く離れた地点間での長距離短波通信が、果たしてどの程度行えるのかは未だはっきりしていない。

また、外合の期間は地球との通信を諦めるのならともかく、もしも外合の期間でも地球との通信を行いやすくしたいのであれば、外合の間の通信が行いやすくするために地球と太陽のラグランジュ点に中継衛星を用意する必要がある。


  1. ^ Variable-Specific-Impulse Magnetoplasma Rocket”. NASA (2001年9月1日). 2011年7月23日閲覧。
  2. ^ Zubrin, Robert (1996). The Case for Mars: The Plan to Settle the Red Planet and Why We Must. Touchstone. ISBN 0-684-83550-9 
  3. ^ Mars24 Sunclock — Time on Mars” (英語). NASA (2015年6月30日). 2016年11月1日閲覧。
  4. ^ Sibling Rivalry: A Mars/Earth Comparison”. NASA (2004年4月21日). 2011年7月23日閲覧。
  5. ^ Atmospheric Flight on Venus” (PDF). NASA (2002年6月). 2011年7月23日閲覧。
  6. ^ Higher, Farther, and Longer — Record Balloon Flights in the Second Part of the Twentieth Century”. NASA. 2011年7月23日閲覧。
  7. ^ Barometric Pressure vs. Altitude Table”. Sable Systems. 2011年7月23日閲覧。
  8. ^ Remarks as Prepared for Delivery By the Honorable Shana Dale, NASA Deputy Administrator”. NASA. 2008年12月6日閲覧。
  9. ^ Technological Requirements for Terraforming Mars”. The Terraforming Information Pages. 2011年7月23日閲覧。
  10. ^ Space Radiobiology”. NASA (2010年1月27日). 2011年7月23日閲覧。
  11. ^ Zubrin, Robert (1996). The Case for Mars: The Plan to Settle the Red Planet and Why We Must. Touchstone. pp. 114–116. ISBN 0-684-83550-9 
  12. ^ During Solar Conjunction, Mars Spacecraft Will Be on Autopilot”. NASA (2006年10月20日). 2011年7月23日閲覧。





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