法科学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/23 16:48 UTC 版)
分野
法科学は、分析する対象に応じ、多岐にわたる分野から成り立っている。
以下に代表的なものを記す。
犯罪科学・犯罪証拠学・犯罪鑑識学 (Criminalistics)
犯罪捜査の現場鑑識において一般的に行われるさまざまな科学的な手法をいう旧来からの総称である[10]。大まかに日本でいう古典的な鑑識に相当。
血や唾、精液、汗などの体液、髪の毛などの組織片などの生体遺留物の採取・DNA型鑑定や、残された跡、繊維、血痕、線条痕、射撃残渣その他の痕跡証拠、指紋や足跡の靴底痕やタイヤ痕といった紋様痕跡 (impression evidence)、規制薬物、さらには弾道、道具痕といったものが含まれる。
法医学
法科学の分野で医学的事項を研究または応用する社会医学の分野の総称。
法医病理学
病理学を元に、死因やケガの原因を法的に特定する。おもに司法解剖を含む検視において利用される。
法歯学
歯学を応用し、歯形の確認などを行う。生前の顔写真や歯医者の診療履歴(レントゲン)と比較して白骨化した頭蓋骨の歯形から個人を特定したり、被害者の体に残された噛みついた痕の歯形から犯人を絞り込んだりすることもできる。また、特定の歯の使用状況から年齢や食生活の特定などに役立てられる。
司法精神医学
精神医学の一種で法医学の中の一分野。被告人が裁判を受ける際の刑事責任能力の有無などを調べる精神鑑定や法廷での証言などを行う。
法血清学
法血清学は血清学を応用し、人体のさまざまな体液を分析する[27]。具体的には血液、精液、唾液、小便、母乳、吐瀉物、排泄物、汗などである。
法足病学
法足病学は足に特化した学問(足病学)の応用。歩き方や足跡や、靴底跡から犯人を特定することも含まれる。
法人類学
人類学およびその関連各分野を応用し、遺棄された遺骨の発掘、骨格などを元に身元を特定するための分析などを担う。全米には学会で承認された法人類学者が100名ほどいるという[28]。
法考古学
法考古学(仮訳)は、法人類学の中で、考古学的応用として用いられる。
法言語学
言語学的分析を行い、文章スタイルや訛り・方言などを元に、犯人などの出身地や身元を絞り込む。
法心理学
心理学の一種で、被告人の刑事責任能力の有無などについて法廷において証言をしたりする。また、犯罪者の心理や意図を分析し、犯罪心理学、行動科学を活用して犯罪者プロファイリング、またはより科学的アプローチとされるカーター方式を含んで捜査心理学[29] など、捜査における情報の評価や利用の方法の客観性を高める。
法昆虫学
昆虫学を応用し、遺体に湧いた各種昆虫の識別により、死亡場所・死亡推定時刻の推定を行う。死後、遺体が移動されたかどうかも法医昆虫学によって確認することができる。
法化学
化学を応用し、薬品やは薬物、微細粒子、繊維、塗膜を分析対象とする。爆薬の残渣や火災のススの分析なども行い、ガソリンなどが使われた放火なのかどうかの確認にも使われる。
法毒性学
法毒性学は体内の毒性の物質の分析を行う。分析化学、薬学、医学、生物学などの複数の分野をまたぐ毒性学。
法会計学
会計学を応用し、いわゆる経済犯罪、詐欺などの金融犯罪における犯罪捜査で金銭のやりとりを追う調査・分析を担当する。
法植物学
法植物学 各種植物の識別、付着状況・場所の推定などを行う。
法工学
法工学は、構造の破壊現象や変形、流体など、解析に関して工学的知識を扱う。例として、交通事故での物体の衝突の再現など。
法地質学
法地質学は、地質学を利用し、土や石などのミネラルなどから場所を特定したりする。
法微生物学
法微生物学は微生物学の応用。比較的新しい分野で、生物兵器の分析など。
法天文学
法天文学は、天文学で使われる手法を利用する。絵画の分析など稀に使われる。
法地震学
法地震学は、地震学を利用して地震波などを分析し、核爆弾の爆発を検知したりする。
法気象学
法気象学は、気象学を利用し、過去の天候などから状態変化の時点などを確認したりする。
法陸水学
法陸水学は、陸水学を利用し、水源の近くの犯罪現場において生物などを調査することによって、被害者と犯人を結びつけることに役立てる。
法地球物理学
法地球物理学は、レーダーなどを使い地下に隠されたもの調査する手法である[30]。また水中の調査も行われる[31]。
コンピューテーショナル・フォレンジクス
犯罪現場を3Dのモデリングを使用して再現したり、コンピューター・シミュレーションを行ったり、シグナル分析やアルゴリズムを開発して統計学的パターンを明らかにしたりするなど、捜査を支援するさまざまなコンピューター化された手法による法科学分析をいう。
デジタル・フォレンジクス
計算機科学分野におけるの応用、またはその総称。科学的手法や技術を用いて電子的記録媒体やデジタル機器から情報を復元し、解析・評価することを言う。コンピュータ犯罪(サイバー犯罪ともいう)に対応。
コンピューター・フォレンジクス
パソコンや周辺機器からのデータ解析を行う。
モバイルデバイス・フォレンジクス
携帯機器に特化し、通話履歴やSMSのメッセージ、さらにSIMカードなどを解析・評価する。
ネットワーク・フォレンジクス
通信ネットワークの解析を行う。
フォレンジック・データ分析
データベース・フォレンジクス
その他
血痕パターン分析
血痕パターン分析は、犯罪現場に残された血痕の形や飛散パターンなどを科学的に分析し、犯罪現場における出来事を再現するために行われる。専門家がいる。
耳紋分析
耳紋分析は、指紋分析と同様に個人の特定に使われる。
法文書
法文書[10] は、疑わしい文書の真偽鑑定または作成者の特定。これにはさまざまな科学的手法が使用される。多くの場合、既存の文書との比較が行われ、一般的な手法としては筆跡鑑定や法言語学分析などが挙げられる。
ビデオ解析
ビデオ解析 画像や動画を解析する。
音響解析
音(通常は録音された音)の分析・評価を行う。声紋の分析も含まれる。
芸術鑑定
芸術鑑定 芸術作品の鑑定を行う。
航空写真
Forensic aerial photography は航空写真をもとに事象の分析を行う一分野である。
鑑識写真
鑑識写真は、犯罪現場の当初の状態を写真にて記録・保全することを言う。各写真には目的があり種々の要件を満たしたものでなければならない。
備考
- ポリグラフ検査は犯罪捜査の事情聴取においてある程度有効な手法ではあるが、ポリグラフ検査の結果は米英においては「法廷で有効な証拠 (admissible evidence)」、つまり証拠能力があるとは一般に認められていない。裁判に「証拠」として提出するには条件があり、なおかつ提出しても弁護側から「法廷での有効性」を判例などを元に証拠能力を否定されてしまうためである[32]。アメリカ合衆国においては州ごとに法律が異なり、まったく認めない州(ニューヨーク州、イリノイ州、テキサス州)と、検察と弁護側の両方が同意したときに限り認められる州と分かれる[33]。つまりそれ自体が科学的なものであっても、法廷で有効でなければ「法科学」とはならない。ただし、より精度を上げるための研究や検査の実施は法心理学者が行う分野である。
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