日本国有鉄道の荷物運送 歴史

日本国有鉄道の荷物運送

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/01 13:45 UTC 版)

歴史

荷物扱いの様子
関東鉄道取手駅、1978年)

明治時代から長年、郵便小包とともに小口荷物輸送の一翼を担っていた[9]

明治

鉄道による少量物品輸送は明治時代に鉄道開業と共に始まった。1872年7月18日には、鉄道による品川 - 横浜間郵便物輸送が開始された[12]。1872年10月14日(明治5年)には、新橋 - 横浜間で鉄道が開業すると同時に手荷物運賃が設定され、旅客が携行する物品輸送が開始された[注釈 4]

1873年(明治6年)9月15日には、鉄道貨物運送補則において小荷物運送方と運賃が制定され、旅客以外の者の委託を受けて少量物品を輸送する託送貨物制度が開始された[12]

第1条 日本政府は左の表に載する規則に従い定款の賃銭を取り東京の新橋及横浜の鉄道ステーションの間に貨物を運送する
第3条 託送貨物の事 託送の貨物は鉄道係りに渡す時送る所の貨物品名を表記し必ず託送の人一名或は連名又は其代人にて手記したる送状をを添え可し

鉄道貨物運送補則(1873年)、抜粋[14]

大正

第2章 手荷物運送
第149条 旅客は旅行用具及び鉄道省において別に定める物品に限り之を手荷物として託送することを得るものとす。
第151条 手荷物は乗車券の経路と同一経路に由り之を運送す。
第152条 手荷物は旅客一人に付左の斤量迄は無賃にて之を運送す。
  三等  五十斤
  二等  七十斤
  一等  百斤
第3章 小荷物運送
第157条 左に該当せさる物品は小荷物として之を託送することを得るものとす。
第158条 小荷物の運賃は最短経路の哩程により一か所毎に之を計算す。
第160条 小荷物には荷送人及荷受人の住所、氏名並送先駅を記載したる強靭なる荷札を附すべきものとす。
第4章 旅客付随小荷物運送
第182条 旅客は左の物品に限り旅客付随小荷物運送として之を託送することを得るものとす。
  一 人力車、自動自転車、自転車、小児車
  二 旅客の携帯する犬及小動物
  三 行商人、呼売商人の携帯する商品
  四 行商人、呼売商人の自用の商品運搬車
  五 度量衡器取締官吏の携帯する度量衡検査用具
第184条 旅客付随小荷物の運賃は一箇所毎に之を計算す。
国有鉄道旅客及荷物運送規則 (1920年)、抜粋

1919年(大正8年)には、新たに南満州鉄道との間に連絡運輸が開始された。

戦時体制

第二次世界大戦中の1942年には荷物運送一元化が行われ、小口貨物は「小荷物扱貨物」と「小口扱貨物」に区分された[15]。また小荷物扱貨物は、原則として10kg以下と定められた[1]

さらに 1944年昭和19年)3月14日には、決戦非常措置要綱に基づく旅客の輸送制限に関する件が閣議決定され、長距離旅客の制限等に併せて託送手荷物制度は全廃、小荷物扱い貨物に一元化された[16]

戦後

戦後は制度が復活したものの、終戦直後には急速なインフレーション進行に伴う物価高騰に対応するため、度々値上げが繰返された。1970年代に入ると国鉄の運営と国鉄労働組合国鉄動力車労働組合の関係が悪化、激しい労働争議が頻発した。これが荷主からの信頼を失う結果となる。加えて、国鉄による少量品輸送そのものが、貨物局が取扱う小口貨物と旅客局が取扱う手小荷物とで重複して運営されており非効率的であると言う批判が内部からも取沙汰されていた。

このことから国鉄では「小口貨物輸送改善」が行われ、1974年(昭和49年)10月ダイヤ改正に合わせて小口扱貨物を「普通扱第二種荷物」として手小荷物に統合し、国鉄による少量品輸送を旅客局の運営する手小荷物営業に一本化する、いわゆる「荷貨一元化」が行われた[1][17]

荷物輸送個数(単位:千個) [18][19]
年度 昭和50 55 56 57 58 59
手荷物 4,631 2,026 1,564 1,037 537 255
普通扱小荷物 74,714 39,492 33,351 27,397 20,360 15,463
特別扱新聞紙·雑誌 43,099 37.108 35,283 33,681 29,696 21,880
託送郵便物 836 497 422 369 254 43
123,280 79,123 70,620 62,483 50,847 37,642

1976年(昭和51年)にヤマト運輸が「宅急便」の名称で宅配便サービスを開始したことや、新聞輸送のトラック輸送への転換や全国紙現地印刷開始により、取扱個数が減少に転じた。これに対抗するため1982年(昭和57年)には集配サービスを付加した「宅配鉄道便Q」(人気漫画「オバケのQ太郎」をキャラクターに起用)を開始し、1985年(昭和60年)にはさらに取次店での荷物引受サービスを加えた「ひかり宅配便」の取り扱いを開始したものの凋落に歯止めはかからず、1986年(昭和61年)に鉄道小荷物サービスが廃止された。

この後、駅構内で旅客の手荷物を車廻りまで運ぶ独特の服装の赤帽も姿を消した。


  1. ^ 鉄道運輸規程(令和三年) 第四十一条 鉄道ハ託送手荷物ヲ旅客ト同一列車ヲ以テ運送スベシ但シ運送上ノ支障アル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
  2. ^ 駅での荷物発送や引取り目安とするためと、列車番号は荷物列車のものでも、中には回送では無く営業用として旅客車が連結されている場合があり、旅客列車としての利用も考慮されていたため。
  3. ^ 預り証を示す英語の check(チェック・チェッキ)からチッキと呼ぶ。同様の意味を持つ ticket が訛ってチッキと呼ばれた、と言う説もある
  4. ^ 右荷物の儀は富分之内手回り荷物と難も一人前六十斤まてに限り候事 [13]
  5. ^ 1974年日本国有鉄道荷物営業規則において新聞は1kg当たり6円、雑誌は11円と定められており、一般の荷物で最も安価な第一地帯の10kgまでの300円より非常に安く設定されていた。
  1. ^ a b c d e 岡田清「競争的環境下における鉄道貨物輸送の変遷」『成城大學經濟研究』第128巻、1995年、204-187頁、NAID 110000245085 
  2. ^ 日本通運『流通百科』1966年、80-93頁。doi:10.11501/2509776 
  3. ^ a b c d e 榊原一郎「鉄道手小荷物運搬の最近の動向」『日本機械学会誌』第65巻第518号、1962年、402-406頁、doi:10.1299/jsmemag.65.518_402 
  4. ^ a b c d e f 交友社編集部 編『目で見てわかる鉄道常識事典』交友社、1966年、29-31頁。doi:10.11501/2509702 
  5. ^ a b c 鉄道省『鉄道旅行案内』国立国会図書館デジタルコレクション、1924年、13頁。doi:10.11501/952041 
  6. ^ a b 和田俊憲「注釈鉄道営業法罰則」『慶應法学』第40巻、2018年、229-264頁、NAID 120006414543 
  7. ^ a b c d e f g h 『鉄道辞典 下巻』日本国有鉄道、1958年、てにもつ, てにもつきっぷ。doi:10.11501/2486300 
  8. ^ 鉄道運輸規程(令和三年)第四十条 鉄道ハ運送ノ為手荷物ヲ受取リタルトキハ手荷物符票ヲ交付スベシ
  9. ^ a b c d 鉄道省『鉄道の話』国立国会図書館デジタルコレクション、1921年。doi:10.11501/2942269 
  10. ^ 郵便物運送委託法 昭和24年05月』国立公文書館デジタルアーカイブ、1949年https://www.digital.archives.go.jp/item/1704301.html 
  11. ^ 日本国有鉄道 編『貨物運送規則同補則』中央書院、1952年。doi:10.11501/2465463 
  12. ^ a b 鉄道主要年表』(レポート)国土交通省、2012年11月https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_fr1_000037.html 
  13. ^ 太政官『品川横浜ノ間鉄道仮賃銭伺』国立公文書館デジタルアーカイブ、1872年https://www.digital.archives.go.jp/file/3048031 
  14. ^ 太政官『鉄道貨物運送補則并賃金表追加・二条』国立公文書館デジタルアーカイブ、1873年https://www.digital.archives.go.jp/img/1390887 
  15. ^ a b c d 『日本国有鉄道荷物運賃料金制度の概要とその変遷』日本国有鉄道、1960年。doi:10.11501/1700945 
  16. ^ 決戦に備えて旅行を大幅制限(昭和19年3月15日 毎日新聞(東京) 『昭和ニュース辞典第8巻 昭和17年/昭和20年』p783 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
  17. ^ 昭和48年度 運輸白書』運輸省、1972年、第3章経営の現状 第1節 日本国有鉄道https://www.mlit.go.jp/hakusyo/transport/shouwa48/index.html 
  18. ^ 日本国有鉄道監査委員会『日本国有鉄道監査報告書 昭和59年度』(レポート)国立国会図書館デジタルコレクション、1985年8月、230-231頁。doi:10.11501/12066723 
  19. ^ 日本国有鉄道監査委員会『日本国有鉄道監査報告書 昭和38年度』(レポート)国立国会図書館デジタルコレクション、1964年、6.統計資料。doi:10.11501/2521882 
  20. ^ a b 『鉄道辞典 下巻』日本国有鉄道、1958年、てまわりひん。doi:10.11501/2486300 
  21. ^ 国有鉄道旅客及荷物運送規則 第160条
  22. ^ 種村直樹『新・地下鉄ものがたり』日本交通公社、1987年、46頁





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