日本国有鉄道の荷物運送 今日的な評価

日本国有鉄道の荷物運送

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/01 13:45 UTC 版)

今日的な評価

明治から戦後間もない時期の日本においては、近代的な道路網の整備が遅れていたことも関係して、荷物輸送における鉄道の重要性は非常に高かった。しかし、一方では社会環境の変化に伴い、旅客鉄道の速度向上が求められ、駅ごとに荷物積卸を行う荷物輸送がその障害と見なされたこと、もう一方では、道路網の整備が進んだことで路線トラック事業者が小口荷物の配送事業に進出したことにより、荷物輸送における鉄道の重要性は1970年代 - 80年代にかけて急速に低下していった。以上のような状況の中で、鉄道小荷物が宅配便に対して後れを取った大きな理由として、集配サービスにおける柔軟性の欠如が挙げられる。

個人による物品輸送は、基本的に差出人の家から受取人の家までの輸送を基本とする。しかし、鉄道小荷物は基本的に発駅―着駅間における輸送が主であり、差出人の家から発駅までと着駅から受取人の家までの配送は、別建ての配送料金を支払わない限りは行われない附加役務と言う性質が強かった。また、当時の国鉄は集配事業を直接担うことが出来ないため、集配事業は日本通運や地方の運送事業者との間に契約を結んだ上で配送を委託していた。このため、集荷・輸送・配送サービスが一貫したネットワークの下において構築されていた郵便小包や宅配便に比べて効率性が低くコストが高くなりやすい特徴があった。

加えて、物資輸送はユニバーサルサービスとしての性質をも帯びることから、採算が取りにくい地方線区における荷物取扱も簡単には廃止することが出来ず、結果的に高コスト構造が温存される原因となった。70年代に宅配便が普及するまでは、ごく少量の物品(5キログラム以下)を運ぶ郵便小包とそれ以上の重量の物品を輸送する鉄道小荷物と言う棲み分けがなされており、特に郵便小包では扱えない5kg以上の小口荷物輸送に関しては鉄道の独占事業状態が続いていたため、上記のような問題は大きく取沙汰されることは無かった。しかし、宅配便の急成長が進んだことや、これに対抗するために郵政省が郵便小包の重量制限を緩和したことに伴い、郵便小包と鉄道小荷物との棲み分けが崩壊したことで収益バランスが崩れたことで鉄道小荷物輸送の高コスト構造が顕在化したのである。

日本の鉄道においては、その旅客輸送密度の高さ故に荷物輸送のためのスペース・人員・ダイヤを確保出来なくなったのが実情である。客室にも相対的にゆとりがあり、乗車中の手荷物託送の必要性は航空機や高速バス程には高くないが、乗り降り、ターミナル移動時等を含めると必要性が認められることも少なくない。


  1. ^ 鉄道運輸規程(令和三年) 第四十一条 鉄道ハ託送手荷物ヲ旅客ト同一列車ヲ以テ運送スベシ但シ運送上ノ支障アル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
  2. ^ 駅での荷物発送や引取り目安とするためと、列車番号は荷物列車のものでも、中には回送では無く営業用として旅客車が連結されている場合があり、旅客列車としての利用も考慮されていたため。
  3. ^ 預り証を示す英語の check(チェック・チェッキ)からチッキと呼ぶ。同様の意味を持つ ticket が訛ってチッキと呼ばれた、と言う説もある
  4. ^ 右荷物の儀は富分之内手回り荷物と難も一人前六十斤まてに限り候事 [13]
  5. ^ 1974年日本国有鉄道荷物営業規則において新聞は1kg当たり6円、雑誌は11円と定められており、一般の荷物で最も安価な第一地帯の10kgまでの300円より非常に安く設定されていた。
  1. ^ a b c d e 岡田清「競争的環境下における鉄道貨物輸送の変遷」『成城大學經濟研究』第128巻、1995年、204-187頁、NAID 110000245085 
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  20. ^ a b 『鉄道辞典 下巻』日本国有鉄道、1958年、てまわりひん。doi:10.11501/2486300 
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  22. ^ 種村直樹『新・地下鉄ものがたり』日本交通公社、1987年、46頁





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