我 我の概要

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/04 17:07 UTC 版)

仏教用語
我, アートマン
サンスクリット語 Ātman
中国語
日本語
(ローマ字: ga)
英語 Ātman
テンプレートを表示

ヒンドゥー教では世俗的な我意識のみを否定してニラートマン(nirātman、無我)といい、自我意識(ahaṅkāra)のない純粋な実体としての真我(paramātman)を否定しないが[要出典]、仏教は、永遠に存続し、自主独立して存在し、中心的な所有主として、コントロール・支配能力を持つ我の存在、すなわち常一主宰(じょういつしゅさい)な我を否定して無我説を立てた[2]

また我見(がけん, atta-diṭṭh)とは、自分は単なる五蘊の集合体であるにも拘らず、我(アートマン)が存在しているという誤った見解(Ditti)のこと[3]。しばしば有身見と同一視される。有部の阿毘達磨大毘婆沙論では「五は我見なり、謂はく等しく隨って色は是れ我なり、受想行識は是れ我なりと觀ず」と記載されている[3]

初期仏教

初期仏教における我は、諸法無我と表記され、ここでの我は形而上学的な自己を意味するとピーター・ハーヴェイは述べている[4]。この概念は、仏教以前のヒンドゥー教ウパニシャッドを参照しており、それによれば人は低次の自己(無常の身体・人格)および、高次の大いなる自己(真の永久的な自己・魂・アートマン・我)を持つと見なされている[5][6][7]

初期の仏教文献は、ウパニシャッドにおける「自己」と「我」の概念の妥当性を探り、すべての生物は無常の自己を持っているが、本当の高次の自己は存在しないと主張している[8]。経蔵においては、生物の実質的な絶対性または本質であるアートマンと呼ばれるものの存在を否定しており、これは仏教をバラモン教(ヒンドゥー教の原型)の伝統と区別する考え方である[9]

阿含の仏教は、次の4つの有我説を否定した[2][注釈 1]

  1. 「五蘊が我である」 - 人間の個体全体が我であるという見解。我見。
  2. 「我は五蘊を有す」 - 個体の内にあって、その中心生命となるものが我であるという見解。我所見。
  3. 「我中に五蘊がある」 - 宇宙原理が我であるという見解。我所見。
  4. 「五蘊中に我がある」 - 存在要素がそれぞれに固有な性質(自性)をもっているという見解。我所見。

部派仏教

部派仏教では種々な解釈がなされた[2]

説一切有部では、個体の中心生命としての我(人我)を否定したが、存在の構成要素の実体としての自性(法我)は常に実在するとした[2]。この見解を二種我見という[2]

犢子部正量部は、非即非離蘊の我という我が存在するとした[2]経量部には勝義補特加羅の説がある[2]


注釈

  1. ^ この4つの有我説は後世、二十句の有身見と呼ばれた[2]
  2. ^ この真我は、如来法身を意味する[2]
  3. ^ また、この場合、「我様」「わり様」という表現を用いる場合もある。

出典

  1. ^ 』 - コトバンク
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 総合仏教大辞典編集委員会(編)『総合仏教大辞典』 上巻、法蔵館、1988年1月、158-159頁。 
  3. ^ a b 望月信亨 編『望月仏教大辞典 第1巻 (アーケ)』世界聖典刊行協会、1954年、我見。doi:10.11501/3000331 
  4. ^ Harvey 1995b, p. 17.
  5. ^ Harvey 1995b, pp. 17–19.
  6. ^ Charles Johnston (2014). The Mukhya Upanishads. Kshetra Books (Reprint), Original: OUP (1931). pp. 706–717. ISBN 978-1-4959-4653-0. https://books.google.com/books?id=hZUBBQAAQBAJ&pg=PA706 
  7. ^ [a] Michael Daniels (2013). Harris L. Friedman. ed. The Wiley-Blackwell Handbook of Transpersonal Psychology. Glenn Hartelius. John Wiley & Sons. p. 26. ISBN 978-1-118-59131-4. https://books.google.com/books?id=pfBvAAAAQBAJ 
    [b] Eugene F. Gorski (2008). Theology of Religions: A Sourcebook for Interreligious Study. Paulist Press. p. 90. ISBN 978-0-8091-4533-1. https://books.google.com/books?id=NE9wnQlcC7wC ;
    [c] Forrest E. Baird (2006). Classics of Asian Thought. Pearson Prentice Hall. p. 6. ISBN 978-0-13-352329-4. https://books.google.com/books?id=alUwAAAAYAAJ 
  8. ^ Harvey 1995b, pp. 17–28.
  9. ^ Peter Harvey (2013). The Selfless Mind: Personality, Consciousness and Nirvana in Early Buddhism. Routledge. pp. 1–2, 34–40, 224–225. ISBN 978-1-136-78336-4. https://books.google.com/books?id=SfPcAAAAQBAJ 
  10. ^ 狭衣物語
  11. ^ 式亭三馬浮世床


「我」の続きの解説一覧




我と同じ種類の言葉


品詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「我」の関連用語

我のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



我のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの我 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS