外患罪 概説

外患罪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/07 04:27 UTC 版)

概説

外患罪は国家の存立に対する罪である。刑法の中でも最も厳しい刑罰を科すものである。未遂予備に留まらず、陰謀をすることによって処罰されうる点でも特異である。内乱罪が国家の対内的存立を保護法益とするのに対し、外患罪は国家の対外的存立を保護法益とする。

本罪の罪質については、国民の国家に対する忠実義務違反であるとする説[1]と国家の存立の危殆化を罰するものであるとする説[2]とがある。

本罪は国内犯はもちろん国外犯にも適用がある(刑法1条刑法2条3項)。通常、「武力の行使」は国際法上の戦争までは意味しないと解されるが、何を以って武力とし(たとえば国内の自衛隊警察の装備及び人員の利用など)、どのような手段を以って行使とするかについて明確な法解釈は存在しない。

外交問題にも直結するため、警察検察裁判所ともに適用に非常に消極的で、同罪状で立件した例はいまだにない。1942年に起訴されたゾルゲ事件において適用が検討されたが、公判維持の困難さのために見送られ、国防保安法治安維持法等により起訴された。

外患誘致罪と外患援助罪は裁判員制度の対象となる。なお、裁判員制度には「裁判員や親族に対して危害が加えられるおそれがあり、裁判員の関与が困難な事件」(裁判員法3条)については、対象事件から除外できる規定がある。

元来は戦争状態の発生及び軍隊の存在を前提とした条文だったが、日本国憲法第9条の関係で、昭和22年(1947年)の「刑法の一部を改正する法律」(昭和22年法律第124号)により根本的に改正され、「戰端ヲ開カシメ」「敵國ニ與シテ」等の字句や、利敵行為条項(第83条〜第86条)・戦時同盟国に対する行為(第89条)等、日本国政府が戦争の当事者であることを意味する規定を削除・改正している。

ただし、武力の行使が前提となることに変わりはない(サイバー攻撃金融通貨を含む経済戦争には対応していない)。

刑法新旧条文の比較は以下の通り。

旧条文
  • 第81条[外患誘致] 外國ニ通謀シテ帝國ニ對シ戰端ヲ開カシメ又ハ敵國ニ與シテ帝國ニ抗敵シタル者ハ死刑ニ處(処)ス
  • 第82条[外患援助] 要塞、陣營、軍隊、艦船其他軍用ニ供スル場所又ハ建造物ヲ敵國ニ交附シタル者ハ死刑ニ處ス
    兵器、彈藥其他軍用ニ供スル物ヲ敵國ニ交附シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス
  • 第83条[通謀利敵] 敵國ヲ利スル爲、要塞、陣營、艦船、兵器、彈藥、汽車、電車、鐵道、電線其他軍用ニ供スル場所又ハ物ヲ損壊シ若クハ使用スルコト能ハサルニ至ラシメタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ處ス
  • 第84条[同前] 帝國ノ軍用ニ供セサル兵器、彈藥其他直接ニ戰闘ノ用ニ供ス可キ物ヲ敵國ニ交附シタル者ハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ處ス
  • 第85条[同前] 敵國ノ爲メニ間諜ヲ爲シ又ハ敵國ノ間諜ヲ幇助シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ五年以上ノ懲役ニ處ス
    軍事上ノ機密ヲ敵國ニ漏泄シタル者亦同シ
  • 第86条[同前] 前五條ニ記載シタル以外ノ方法ヲ以テ敵國ニ軍事上ノ利益ヲ與ヘ又ハ帝國ノ軍事上ノ利益ヲ害シタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ處ス
  • 第87条[未遂] 前六條ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
  • 第88条[外患予備・陰謀] 第八十一條乃至八十六條ニ記載シタル罪ノ豫備又ハ陰謀ヲ爲シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ處ス
  • 第89条[戰時同盟國ニ対スル行爲] 本章ノ規定ハ戰時同盟國ニ對スル行爲ニ亦之ヲ適用ス
新条文
  • 第81条[外患誘致] 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。
  • 第82条[外患援助] 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する。
  • 第83条から第86条まで 削除
  • 第87条[未遂] 第八十一条及び第八十二条の罪の未遂は、罰する。
  • 第88条[外患予備・陰謀] 第八十一条又は第八十二条の罪の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
  • 第89条 削除

  1. ^ 前田雅英 『刑法各論講義 第二版 』 東京大学出版会(1995年)480頁
  2. ^ 林幹人 『刑法各論 第二版 』 東京大学出版会(1999年)424-425頁






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