古代ギリシア医学 ヘロピロスとエラシストラトス、古代ギリシアの解剖学

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古代ギリシア医学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/09 05:25 UTC 版)

ヘロピロスとエラシストラトス、古代ギリシアの解剖学

原著は前300年ころに書かれたテオプラストス『植物誌』の拡大・挿絵つき版(1644年)の扉絵。

解剖学研究のための命名法・方法・応用はすべてギリシア人にさかのぼる[27]。テオプラストス(紀元前286年没)以後、オリジナルの著作が生みだされることは少なくなっていった。アリストテレスの思想への関心は残っていたものの、それらは概して疑問視されることもなく受けいれられていた[28]。生物学の進歩がふたたび見られるようになるのは、プトレマイオス朝下のアレクサンドリア時代になってからである。

アレクサンドリアでの最初の医学教師は「解剖学の父」[29]と称されるカルケドンのヘロピロスで、彼はアリストテレスとは異なり、知能のありかを脳に置き、神経系を運動や感覚に結びつけた。ヘロピロスはまた、静脈動脈とを区別し、後者には脈拍があるが前者にはないことを指摘した。彼はこのことを、豚の首にある静脈と動脈を、鳴き声がしなくなるまで切るということを含む実験によって突き止めた[30]。同様のしかたで、彼は脈の種類を見分けることに依拠した診断法を開発した[31]。彼とその同時代人であるキオスのエラシストラトスとは、静脈や神経の役割を研究し、身体全体にわたる経路をマッピングした。

エラシストラトスは、人間の脳の表面が他の動物に比べて複雑であることを、その優れた知能に結びつけた。彼は籠に入れた鳥の体重を繰りかえし測定し、餌の時間と次の餌の時間とのあいだで体重が減るという実験を用いて研究を進めたこともある。また彼は師の空気力学の研究に従って、人間の血管系は真空によって統御され、血液を体中で引きこんでいると主張した。エラシストラトスの生理学では、空気は体内に入ると、肺によって心臓へと吸いこまれ、そこで生命のプネウマ (vital spirit) に変換され、それから動脈によって全身に送りだされる。この生命のプネウマの一部はに達し、そこで動物的プネウマ (animal spirit) に変化し、それから神経によって分配される[32]

ヘロピロスとエラシストラトスは、プトレマイオス朝の王たちから与えられた犯罪者を使って実験を行った。彼らはこれらの犯罪者を生きたまま解剖し、「まだ息をしている間に、自然がそれまで隠していた部分を観察し、それらの位置・色・形・大きさ・配置・硬さ・柔らかさ・滑らかさ・つながりかたを調べた」[33]

ルクレティウスのような数人の古代原子論者は、アリストテレスの生命に関する考えかたの目的論的な見かたに異論を唱えたが、目的論(そしてキリスト教の台頭後は自然神学)は、本質的には18世紀や19世紀に至るまで、生物学の思考の中心でありつづけることとなる。エルンスト・マイヤーの言葉を借りれば、「ルクレティウスとガレノス以後、ルネサンス期まで生物学で本当に重要なことはなにひとつなかった」のである[34]。アリストテレスの自然誌や医学の考えかたは生き残りつつ、概して疑われることもなく受けいれられていた[35]







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