原色
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/22 21:26 UTC 版)
減法混合
色を表現する媒体のうち、色や光を反射して観る者に色刺激を起こすものは、減法混合を使用して色を作っている。
物体の表面を特定の色にするためにインク等を塗る場合、元の光を遮る形で色を作る。その合成の元になる基本色は一般に「絵の具の三原色」や「色料(色材)の三原色」などと言われ、下記の三色を用いる。
この三色を合成して着色された物体の表面は、光の三原色の場合と反対に黒色になる。なお、加法混合の三原色も、それによって作り出されている光も「色」なので、明確に区別したいときは「色料の三原色」と表現する。「絵の具の三原色」は、「色料」の中でも絵具は一般に広く知られているので、わかりやすさに重点を置きたい場合に適する。しかし実際には、減法混合が適用できる色の材料は絵具に限らないので、それを強調する際に「色料の三原色」が使われる。
伝統的な減法混合
RYB(赤、黄色、青)はかつての減法混合における三原色(色料の三原色)であり、近代の科学的な色彩理論に先立つものである。美術および美術教育において使われ、特に絵画では盛んに使われた[11]。
RYBは標準的な色相環の中で正三角形をなす。またこの三原色を混ぜ合わせてできる二次色(VOG:紫、オレンジ、緑)がもう一つの三角形をなす。特定の色相環の中で等距離にある三色が「色の三角形」をなすが、知覚的に均等に配された色相環の中ではRYBもVOGも等距離にはならない。RYB色相環においては、これらが等距離になるように色相環が作られていた[12](ゲーテの色彩論も参照)。
画家たちは長年、パレットの上に三つ以上の「原色」の絵具を置いて色を混ぜていた。たとえば赤、黄色、青、そして緑が「四つの原色」とされた[13]。この四色は現在でも心理的な原色として認知されている[14][15] が、赤、黄色、青が三つの心理的な原色として挙げられ[16]、白と黒が第四・第五の原色に加えられることもある[17]。
17世紀後半にアイザック・ニュートンがプリズムにより太陽光を分光させてスペクトルを取り出す実験を行ったが、18世紀の色彩理論の専門家たちはこれを意識して赤・黄色・青を三原色と考えた。これらは基本的な感覚の性質と推定され、すべての物理的な色についての感覚や、顔料や染料の物理的な混合の中には、この三色が混ざっていると考えられた。しかし、赤・黄色・青の三色の混合では他のすべての色を作ることはできないという多くの反証があったにもかかわらずこの理論はドグマと化し、今日にまでこの考えは残っている[18]。
赤・黄色・青の三色を原色として使った場合の色域は比較的小さなものとなり、なかでも鮮やかな緑・シアン・マゼンタを作ることが困難という問題があった。これは知覚的に均等に配された色相環においては赤・黄色・青は間隔が偏っていることが原因であった。こうしたことから、今日の三色印刷・四色印刷やカラー写真ではシアン・マゼンタ・イエローが色料の三原色として使用される[19]。
絵画においては色の合成方法が印刷とは異なる為、CMYKが普及した現在でも、多くの画家はシアン、マゼンタ、イエローの絵具の混合によって作れない色を呈する絵具をパレットに加える。ある者はパレットに置く三原色に印刷業者が使う、より幅広い色の作れるシアン・マゼンタ・イエローを置き、またある者は色域を広げるために六つ以上の絵具を原色として使用している[20]。
CMYK、あるいは四色印刷
印刷産業では、様々な色を表現するために減法混合の原色であるシアン、マゼンタ、イエロー(黄色)の三色が用いられる。「シアン」や「マゼンタ」という色名が標準的に使われる以前は、印刷の三原色は「青緑(水色に近い)」や「赤紫」、あるいは「青」や「赤」などとも呼ばれていた。また日本ではそれぞれ「藍」や「紅」とも呼んだ。正確な三原色は長年の間に、新たな顔料や技術の開発とともに何度も変えられている[21]。
イエローとシアンを混ぜると緑が、イエローとマゼンタを混ぜると赤が、マゼンタとシアンを混ぜると青(紫みの青)が生まれる。理論上は三色すべてを均等に混ぜると灰色になり、三色に充分な光学濃度(光学密度、optical density)があれば黒が生まれるはずである。実際には、暗色になりきれいな黒は作れない。美しい黒を印刷するため、また三原色のインキを節約し消費量と乾燥時間を減らすため、この三色に加えて黒のインキがカラー印刷に使われる。
これはCMYKモデルとよばれるもので、シアン (Cyan)、マゼンタ (Magenta)、イエロー (Yellow)、キー (Key) の略語である。キーとは印刷する画像の細部(輪郭や濃淡)を表現するために用いられるキープレートという版の略称で、通常は黒インキが使われる[22]。
実際には、絵具など実際の物質からできた着色料を混ぜることはより複雑な色の反応を起こす。顔料やバインダーといった物質が有する自然科学的な性質は色の成立過程に影響する。たとえば黄と青(紫青)の塗料やインクなどの着色材を混ぜると、黒い緑ないし黒いマゼンタ(赤紫)ができる。これは実際の絵具の混合[23] が理想的な減法混合と異なることを示している。印刷の場合は、三原色の顔料は実際にはあまり混ぜられることなく、網点(ハーフトーン)の状態で印刷され、一定のパターンで配置された各色の微小の網点を見ることにより、混ぜられた色が知覚されることになる。
減法混合では、白色顔料を加えることで一定の効果を挙げられる。顕色材の量を減らすか二酸化チタンなど反射率の高い白色顔料を混ぜることで着色材の色相をあまり変えずに彩度を下げることができる。また減法混合の印刷は、印刷面や紙面の色が白かまたはそれに近い場合、もっとも効果を発揮する。
減法混合のシステムは、RGBのカラートライアングルのように、色度図上で色域を簡単にあらわす方法はなく、色域は三次元のモデルで表現する必要がある。また二次元の色度図や三次元の色空間でCMYKの色域を表現する試みは非常に多くある[24]。
実際の印刷では、CMYKに加えて蛍光色などの特色インクを用いて色彩表現の幅を広げる事が良く行われる。またパソコン用のカラープリンタでは、以前は低価格機ではコストダウンのためにCMYのみのモデルも存在したが、現在ではCMYKにやはり中間色のインク(ライトシアン・ライトマジェンタ・グレーなど)を加えて色再現性を高めるのが主流となっている。
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- ^ 俗に、混色などと言われる。
- ^ たとえば、googleで“cmyk gamut”(CMYK、色域)で画像検索をした結果 を参照のこと。
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- ^ Michael Foster (1891). A Text-book of physiology. Lea Bros. & Co. p. 921
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