公立学校選択制 公立学校選択制の概要

公立学校選択制

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/03 05:51 UTC 版)

形式

教育バウチャー

従来型の公的教育制度では、学校は政府から生徒の数に比例して資金を受け取っている。教育バウチャー制度では、生徒は政府よりバウチャーを受け取り、学校は生徒から提出されたバウチャーによって政府から資金を受け取ることとなる。このバウチャーは私立学校でも利用可能とする。

バウチャーを配る方法は、全員に配る場合と、ミーンズテストに基づいて配る場合に分かれる。後者は低所得家庭を対象として行われる。

チャーター・スクール

チャーター・スクールとは、一般的な公立学校に課せられる様々な規制を免除された、独立した公立学校である。たとえば教師組合との契約や、雇用、カリキュラムなどについて、その学校が自律的に柔軟に意思決定を行うこととなる。そのためチャーター・スクールは他の学校よりも、より教育費用と教育成果について、明確に説明責任を負う責任がある。

米国の主な州ではチャーター・スクールを規定する法が存在し、いくつかのチャーター・スクールが認可されている。[1]オハイオ州デイトンにおいては、児童の22-26%がチャーター・スクールへ就学しており、これは最も全米で高い割合である[2]。他の市の場合、カンザス市で24%、ワシントンDCで20-24%である。アリゾナでは公立学校の4つに1つはチャーター・スクールである。

マグネット・スクール

ホームスクーリング

教育貯蓄口座

教育貯蓄口座(Education Savings Accounts, ESAs)とは教育バウチャーと似た制度であり、ある家庭の子供が私立学校に通う場合、政府はもし公立学校に通っていた場合の支出額相当の金銭を、その口座に預け入れる。この口座の残高は、その家庭が私立学校の学費として引き出すことができる。

加えてESAでは、口座の利用にある程度の柔軟性を持たせており、民間の塾やオンライン教育に使用することもでき、また残高を高等教育に使う事も検討されている[3]

現在ESAプログラムは、米国アリゾナ州("Empowerment Savings Accounts")とフロリダ州("Personal Learning Scholarship Account Program")で実施されている。

教育支出控除

米国のいくつかの州では、教育関連の支出を所得税控除の対象としている。たとえば私立学校、教科書、学習用品、家庭教師、通学費など。現在米国では、アラバマ州、イリノイ州、インディアナ州、アイオワ州、ルイジアナ州、ミネソタ州、ウィスコンシン州でこのプログラムが存在する[4]

寄付金税額控除

米国では、州レベルでの教育税控除プログラム(States with scholarship tax credit programs)が存在する。この制度では、個人や企業が奨学金団体に対して寄付を行った場合、それは税控除対象となる。

このプログラムは、アラバマ州、アリゾナ州、フロリダ州、ジョージア州、イリノイ州、アイオワ州、カンザス州、ルイジアナ州、ミネソタ州、ニューハンプシャー州、オクラホマ州、ペンシルベニア州、ロードアイランド州、バージニア州で実施されている[5]

各国の制度

アメリカ

アメリカではチャーター・スクールという形で、従来の公立学校に加えて、別の選択肢を地域住民が用意することもある。ただし、こうしたチャーター・スクールが必ず優れた教育実践を行っているわけではなく、衆目の一致する教育困難校と化す場合もある[6]

日本

日本においては学校教育法施行令第5条に、市町村教育委員会が就学予定者が就学すべき小学校(中学校)を指定することが定められている。一般的には、個々の就学予定者が就学すべき学校の決定は、教育委員会が通学区域を設定するといった形で、一方的に指定する。これに対し、文部省は1997年に「通学区域制度の弾力的運用について」という通知を出し、就学すべき学校の指定に際して、あらかじめ保護者の意見を聴取し、それを踏まえて就学すべき学校を指定することが認められるようになった[7]

最初に学校選択制を導入したのは三重県紀宝町で、1998年度からである。2000年には東京都品川区がこの制度を導入。2002年には「規制改革推進3か年計画」が閣議決定されたが、その中にも学校選択制の推進を促す文言が含まれており、これを受けて、2003年には前述の学校教育法施行令が改正され、市区町村の教育委員会の判断によって学校選択制を導入出来ることが明記されるに至った。

東京の区部などでこの制度を採用する地域は拡大し、内閣府2006年に行った調査では小学校の14.9%、中学校の15.6%が導入しているとされる[注釈 1]

教育学者の藤田英典によると、このような学校選択制の導入は教育委員会や現場の教職員ではなく、首長教育長の強い意向であることが多いという[8]

しかし、こうした学校選択制の広がりを疑問視する見方も市町村レベルで生まれており、2008年9月には江東区教育委員会が、学校選択制による地域コミュニティーの崩壊を防止するという観点から、小学校における学校選択制を2009年度より選択範囲を「徒歩圏に限る」と変更した(中学校は従来どおり)。また、前橋市も2011年度から小中学校の学校選択制を廃止することとなった。長崎市も2012年度から制度が縮小された。


注釈

  1. ^ 品川区では小学校は17%、中学校は23%の児童生徒が従来の学校以外を選択していて、選択率は年々増加していた(数字は2003年度)。

出典

  1. ^ “Clinton touts success of public charter schools”. CNN. (2000年5月4日). オリジナルの2008年8月21日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080821180747/http://archives.cnn.com/2000/ALLPOLITICS/stories/05/04/education.debate/ 2008年8月27日閲覧。 
  2. ^ Elliot, Scott (2005年12月2日). “Catholic schools: Victims of choice”. Dayton Daily News. 2008年8月27日閲覧。
  3. ^ The Way of The Future: Education Savings Accounts for Every American Family”. Friedman Foundation for Educational Choice. 2015年2月1日閲覧。
  4. ^ The ABC's of School Choice, 2014 Ed., Friedman Foundation for Educational Choice, 107.
  5. ^ School Choice Programs”. Friedman Foundation for Educational Choice. 2015年2月1日閲覧。
  6. ^ 林壮一『アメリカ下層教育現場』光文社光文社新書〉(原著2008年1月17日)。ISBN 978-4-334-03433-7 
  7. ^ よくわかる用語解説”. 文部科学省. 2011年12月29日閲覧。
  8. ^ a b 藤田英典『義務教育を問いなおす』筑摩書房ちくま新書〉(原著2005年7月6日)。ISBN 978-4-480-06243-7 
  9. ^ 子どもの不登校 意外な事実! 公立の小中学校間での転校は可能?”. ダイヤモンドオンライン (2023年12月6日). 2024年5月3日閲覧。
  10. ^ 子どもの不登校 意外な事実! 公立の小中学校間での転校は可能?”. ダイヤモンドオンライン (2023年12月6日). 2024年5月3日閲覧。
  11. ^ 学校選択制”. Web東奥/ニュース百科. 東奥日報 (2007年5月26日). 2008年7月8日閲覧。
  12. ^ a b 深谷昌志 (2004年). “学校選択制の光と影”. モノグラフ・中学生の世界 VOL.79. ベネッセコーポレーション. pp. 3. 2008年7月8日閲覧。
  13. ^ 山本紀子 (2007年8月27日). “記者ノート:学校選択制の弊害”. 毎日新聞. http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/edu/news/20070827ddm004070015000c.html 
  14. ^ “学校選択制、相次ぎ見直し「地域との関係薄れた」”. http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008092701000628.html 


「公立学校選択制」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「公立学校選択制」の関連用語

公立学校選択制のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



公立学校選択制のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの公立学校選択制 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS