元朝秘史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/26 02:51 UTC 版)
研究史
元朝秘史は中国では長らく『永楽大典』所収の15巻本のみが知られていたが、国外では存在も知られておらず、ようやく19世紀中葉に至ってロシアの掌院パルラディ・カファロフによって翻訳が出版された。一方、12巻本は清の考証学者によって再発見され、20世紀に至って再発見された12巻本が国内外の歴史家の手に渡り、広く知られるようになる。
元朝秘史は成立年代がチンギス・カンの死後からそれほど離れていない時期であると考えられ、また『元史』や『集史』には見られない記述をふんだんに含むことから、20世紀の前半にはチンギス・カンの青年期を伝える貴重な史料として歴史学において幅広く使われた。20世紀の後半に入り、『集史』の記述との詳細な比較を通じて、別々の年に起こった別々の事件が同時に連続して起こった事件として記述されていることが明らかにされ、史料として用いる際には、注意すべき所があると考えられるようになった。
一方、モンゴル語による解釈を含めた文献学・言語学的な研究は日本の那珂通世による12巻本最初の外国語訳注『 成吉思汗実録』が先駆であるが、広く行われるようになったのは20世紀中頃からである。フランスのペリオ、ドイツのヘーニシュ、ベルギーのモスタールト、ロシアのコージン、日本の小林高四郎らが研究や訳注を行った。また、20世紀の後半に、小澤重男が数十年をかけて元朝秘史の詳細な言語学的研究を行い、日本語への全訳及び浩瀚な全釈を著している。
主な日本語訳
- 那珂通世(訳注)『成吉思汗實録』大日本図書、1907年。
- 小林高四郎『蒙古の秘史』 生活社、1940年。
- 岩村忍『元朝秘史 チンギス=ハン実録』 中公新書、1963年。抜粋訳と紹介
- 村上正二『モンゴル秘史 チンギス・カン物語』 平凡社東洋文庫(全3巻)、1970-76年。
- 小澤重男『元朝秘史』 岩波文庫 全2巻、1997年。
参考文献
- 那珂通世「 元朝秘史の来歴」『成吉思汗実録』大日本図書、1907年
- 那珂通世が『成吉思汗実録』の序論に書いた元朝秘史の解説文
- 宇野伸浩「根本史料を比較する 英雄の偉業を伝える『秘史』と『集史』」
- 『草原の英雄"蒼き狼"の覇業』(歴史群像シリーズ25号 チンギス・ハーン 上巻)、学習研究社、1991年、pp.182-185。
- 岡田英弘『チンギス・ハーン』 集英社、1986年、朝日文庫、1994年、ビジネス社、2016年
- 小澤重男『元朝秘史』 岩波新書、1994年
- 小林高四郎『チンギス・ハーン』 岩波新書、1960年
- 村上正二『モンゴル秘史』 平凡社東洋文庫版・第3巻 訳者解説
- 栗林均・确精扎布編『「元朝秘史」モンゴル語全単語・語尾索引』(東北アジア研究センター叢書 第4号)
元朝秘史と同じ種類の言葉
- 元朝秘史のページへのリンク