交代行列
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/13 23:44 UTC 版)
性質
自由度
歪対称行列の和およびスカラー倍は再び歪対称である。したがって、n次歪対称行列の全体 Skewn はベクトル空間を成す。交代行列の主対角成分は必ず 0 であり、上三角成分を決めれば下三角成分はその符号反転として定まるから、ベクトル空間 Skewn の次元は n(n − 1)/2 である。
歪対称成分
任意の n次正方行列 M に対し、その歪対称成分 (skew-symmetric component) は[注釈 2]
で与えられる。行列の和への分解
は一意的に定まり、ベクトル空間の直和分解
を与える(ここに Matn は n-次正方行列の全体、Symn は n-次対称行列の全体)。
交代行列の行列式
A を n×n 交代行列とすると、A の行列式は
を満足する。特に n が奇数ならばこれは 0 に等しい。この結果はカール・グスタフ・ヤコビに因んでヤコビの定理と呼ばれる[2]。
偶数次元の場合はもっと興味深い結果がある。次数 n が偶数であるときの A の行列式は A の成分に関する斉次多項式(代数形式)の完全平方式
として書くことができる[3]。ゆえに、実交代行列の行列式は常に非負である。ここで現われた形式 Pf(A) は A のパフ多項式(パフ式、パフ形式)と呼ばれる[4]。
スペクトル論
交代行列の固有値は常に ±λ のような対として得られる(奇数次の場合に、0 を固有値に加えて考えることもあるが、ここでは除いている)。実交代行列の非零固有値はすべて純虚数であり、それらを ±iλ1, ±iλ2, …(各 λk は実数)の形に書くことができる。
実交代行列は正規行列(つまり、自身の随伴と可換)であり、それゆえスペクトル論の対象として任意の実交代行列がユニタリ行列によって対角化可能であることを述べることができる。実交代行列の固有値は複素数となるから実行列によって対角化することはできないが、それでも適当な直交変換によって区分対角化することができる。特に、任意の 2n次交代行列は直交行列 Q と行列
(ただし、λk は実数)を用いて A = QΣQ⊤ の形に書くことができる。ここで直交行列とは Q⊤ = Q−1 を満たす行列 Q のことである。行列 Σ の非零固有値は ±iλk である。奇数次の場合には、Σ は必ず少なくとも一つの行か列が全て 0 になる。
注釈
- ^ a b c 本項において(何も言わなければ)、係数体の標数 は 2 でない (1 + 1 ≠ 0) と仮定する。標数が 2 のとき、任意のスカラーは自身を反数として持つので、任意の歪対称行列は対称行列の概念に一致する。歪対称行列に付随する双線型形式は歪対称形式であり、標数 2 のときは対称形式になる。一方、付随する双線型形式が交代形式であるような行列を「交代行列」と呼べば、標数 2 のとき「交代行列」は歪対称(=対称)行列と異なる。
- ^ 標数が 2 の体上では 1⁄2-倍写像が定義されないから、対称成分・歪対称成分ともこれでは定義できない。以下は標数が 2 でない任意の体上で成り立つ議論であることに注意せよ。
出典
- ^ Reyment, Jöreskog & Marcus 1996, p. 68.
- ^ Eves 1980.
- ^ Cayley, Arthur (1847). “Sur les determinants gauches [On skew determinants]”. Crelle's Journal 38: 93-96. Reprintend in Cayley, A. (2009). “Sur les Déterminants Gauches”. The Collected Mathematical Papers. 1. p. 410. doi:10.1017/CBO9780511703676.070. ISBN 978-0-511-70367-6
- ^ 佐武 1974, p. 81.
- ^ 佐武 1974, p. 189.
- ^ Fomin, Sergey; Zelevinsky, Andrei (2001). "Cluster algebras I: Foundations". arXiv:math/0104151v1。
交代行列と同じ種類の言葉
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